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あの日、空を舞った「サイクロンマグナム」 自由にはたらく方法はミニ四駆から教わった。

子供の教育に向いているオモチャと言われればなんだろう?

例えばレゴブロック。

シンプルな構造なのにいろんな形作れる世界的おもちゃ。
東大生の7割がレゴで遊んでいたなんて話もある。
素足で踏むと、オモチャを片付ける大切さまで心に刻まれる。

でも、もっと大切なことを私に教えてくれたおもちゃがある。

そう。

それは、「サイクロンマグナム」という名前のミニ四駆だった。

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『ミニ四駆』をご存知だろうか?

1994年以降。
自分が小学校高学年の頃に、流行りに流行った『ミニ四駆』
「爆走兄弟レッツ&ゴー」というアニメの放送とともに大流行した。

まちの玩具屋さんの前にはミニ四駆専用コースが置かれていて、週末になるとどこからともなく工具箱を持った子どもたちが集まってきていたあの光景は、今思えば不思議だ。
でもあの頃、男子小学生の8割以上はミニ四駆を愛し、改造し、競い合うことに熱中していた。

あの頃、小学生男子のほとんどは『ミニ四レーサー』と呼ばれるレーサーだったのである。


さて。

そんな時代、私もご多分にもれず。

友達のお母さんが教えてくれる塾で、ミニ四駆と出会うことになる。

塾の教室になっているのは友達の男の子のマンションの一室で、そこにはミニ四駆の専用コースがあったのだ。
ちょうどミニ四駆を題材にしたアニメ「爆走兄弟レッツ&ゴー」が塾の勉強時間が終わった頃にテレビに流されていることもあって、塾の友達がアニメを見ながらミニ四駆を走らせて遊んでいた。

こ、これが遊びの最先端!

それはもう衝撃だった。
一緒に読ませてもらった『地獄先生ぬ〜べ〜』にもたいがいビビらされ、夜にトイレにいけなくなったけれど。
それ以上に、ミニ四駆を中心に優雅に塾の勉強後の時間を楽しむそのライフスタイルに憧れた。

私もこの優雅で甘美なひとときに参加したい。

すぐさま親に頼み込み、一台のミニ四駆を買ってもらうことができた。
それはアニメの主人公兄弟の兄のマシン「ソニックセイバー」だった。

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さあ、これであの勉強後の優雅なサロンに参加できる。

そう安心したのも束の間。
車体を組み立てただけでは動かないではないか。

よくよく説明書きを読んでみるとこんなことが書いてある。

シャフトドライブ四輪駆動を採用した高性能レーサーのプラスチックモデル組み立てキット。シャーシはスーパー1を採用。ゴムリング付きガイドローラーを装備し、サイドガードは取り外し可能。蛍光イエローのローハイトホイールにナロータイプ・スリックタイヤを装着し、ギヤ比は2種類選べる。ボディにはコーナー重視の立ち気味のリヤウイングを装備した。組み立ては接着剤を使わないはめ込み式、配線なしのモーターライズで手軽に組み上がる。さらに別売のグレードアップパーツで性能アップできる。単3形電池2本およびモーターは別売り。

ギヤ比。
なにそれ? 歯車の比率が2種類あるの?

コーナー重視の立ち気味のリヤウイング。
ウイング? なんか風の影響とかで走りが変わるわけ?

単3形電池2本別売り・・・はわかるけど、モーター?
直線重視のレブチューンとコーナーリング重視のトルクチューンの2種類がある?
そんなもん直線重視でスピードある方がええに決まってるやろ。
あ。っていうかモーターも買ってもらわないと動かないんや・・・。

そして、モーターを買ってもらって意気揚々と塾終わりのミニ四駆社交界にデビューすると・・・


「・・・遅っ!」

そう。
ノーマルのミニ四駆は遅い。
「別売のグレードアップパーツで性能アップできる」と説明書きには書いてあったが、グレードアップパーツがなければまともにライバル(同級生)と戦うこともままならない。

ミニ四駆の構造自体はシンプルだ。
単3電池2本とモーターで走り、電源を入れるとかなり速いスピードで『直進』していく。
もちろんドローンのような遠隔操作などできない。
ただただひたすら、まっすぐ、爆走していくのだ
屋外で走らせたが最後、壁にぶち当たってクラッシュするまではイノシシのごとく高速で走り続ける。

じゃあどうやってコースに沿って走っていくのかというと、車体の両サイドに『ローラー』という円盤みたいなパーツをつけることで曲がる。

いや、曲がるというよりは『曲げる』
コースの壁に無理やり進行方向を変えられながらひたすらにまっすぐ走っていくという感じ

今から思えば結構不器用なオモチャである。
ただただ速く直進するマシンを、あの手この手でコースを飛び出さずに走るように調整するのがミニ四レーサーの腕の見せ所だったのだ。

モーター、電池、ベアリング、ローラー、軽量化、グリス、その他にも様々な部分をカスタマイズすることが重要となってくる。

当時の私達は小学生とはいえ、レースと名のつく行為に勝ち負けはつきもの。
塾が終わった後のみんなの輪に参加できたものの、それだけでは物足りなくなってくるのは自明の理。

インターネットもない時代。
ここからは、友達からひたすら情報を集めてはトライアンドエラーを繰り返すことになる。

友曰く、モーターはとりあえず「トルクチューン」にしないと遅い。
友曰く、ギヤは「高速ギヤ」というオプションを買わないと話にならない。
友曰く、車体は飾りなのでできる限り穴を空けたりして軽量化しないといけない。

思い出していると、昔はスマホ課金で爆死することはなかったけれど、十分お金を吸い込まれていく対象はあったんだなと思う。
あの頃の小学生たちがどれだけミニ四駆のオプションパーツにお金をつぎ込んでいたことか。
効果が出るパーツに出会うまでにオプションパーツを買いまくることが、ガチャ課金とどこまで違うというのだろうか。

中には親も一緒になって改造してる友達もいた。
資金面からも技術面からもそれはズルいやろ!ってツッコミを入れつつも、自分も工学系の学校を出ていた父親に相談した。

「こんな感じにしたらええんちゃうか?」

父親は即座に対応してくれた。
さすがだ。
機械系に精通し、運動会等のイベントごとでは常にビデオカメラを片手に撮影係を買って出ていた父。

頼れる父をもって誇りに思えた。

ただ、
対応はしてくれたが、正直予想外の方向だった。

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トライダガーXから進化を遂げたネオトライダガーZMC。
その水戸黄門の印籠の写真を意気揚々とシールにして、コクピットの窓部分に貼ってドヤ顔をした父。

違う。
違うんだよ父さん。

ミニ四駆の世界では、水戸の御老公様のシールはただの重量アップにしかならない。
江戸の世では効力を発揮していた印籠も、さすがに平成の小学生にはなんの意味ももたない。

こりゃだめだ。自分で頑張るしかない。
それからオモチャ屋さんのコースに通う日々を過ごしはじめた。

新作のミニ四駆が発売されると聞けば朝の6時からおもちゃ屋にならび。
イベント限定のパーツが出ると聞けば、母にせがんでイベントに行く。
発売元のタミヤさんの手のひらの上でひたすらに踊り続けた。


そして一年が経った頃。

私の行きつけのおもちゃ屋さんで「レース」が開催されることになった。

ジャパンカップなる日本一を決める大会に出ている皆様には申し訳ないぐらいの規模の、地域のおもちゃ屋さんの大会。

それでも、自分にとっては勝負の舞台だった。

1年間の成果を見せる時がやってきたのだ。

使用するミニ四駆は当時の最新マシンだった「サイクロンマグナム」だ。

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シャーシと呼ばれる土台部分には『スーパーTZシャーシ』を採用。
TZシャーシのTはタミヤの頭文字のT
Zはなんと集大成という意味合いでアルファベットの最後の文字であるZが選ばれたとか選ばれてないとか。

このタミヤの集大成なシャーシがすごいと噂になって、買うのにどんだけ苦労したことか。

レースを控え、そんなかっこいいシャーシを最大限に活かすため、私は軽量化を行うことにした。
肉抜きと呼ばれるその作業は、

①ピンバイスというドリルのようなものでミニ四駆のボディに穴を開ける
②空けた穴ニッパーでつなぎ合わせるようにカットする
③突き出た部分をヤスリで削る

という丁寧かつ気長な作業によって実現される。

ただ、USJでアルバイトしていたころ、あまりの不器用さに高倉健さんから名前をとって、「健さん」呼ばれていた私だ。
不器用さには絶対の自信がある。

空力とか、ダウンフォースとか、いろんな子供の夢が凝縮したサイクロンマグナムのボディは超絶ボコボコになった。
今回、実物が実家の押し入れの奥底から発掘されたので写真を御覧いただきたい。

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いやー。

ボッコボコである。


③の工程のヤスリがけなんぞやった跡もない。

だがしかし、見かけに反して「サイクロンマグナム」はよく走った。

なんと100人近くが参加した大会の予選を通過し、決勝戦にコマを進めることに鳴ったのである。

もう、私はひたすら有頂天。
鼻高々である。
一緒に来ていた父は、水戸家の家紋を貼っていないミニ四駆には興味を持てない様子だったが、それでも喜んでくれた。

だが、地元のおもちゃ屋さんが気合をいれた決勝戦。

わざわざ空きテナントが出ている会場をレンタルして用意されたそのコースをみて、私の有頂天さは一瞬で凍りついた。

「な、なんやあれは」

強烈なアップダウン。
左右に激しくうねったセクション。

そんなことが問題にならないぐらいに大きな特徴がコースにはあった。

それは小学生の自分の腰ぐらいの高さまで登っていく上り坂。

しかもそれが、坂の頂上で途切れている。

そう、それはおもちゃ屋さんが自分たちの技術の粋を集めて作成した巨大ジャンプ台だった。
いま、どんなものかを思い出したくて、画像検索をしてもそんなジャンプ台は出てこない。
なんだったんだあれ。地元のおもちゃ屋さんならではのオリジナルだったのだろうか。

そしてはじまった決勝戦。
タイムトライアル形式で10台が参加した決勝戦。

ライバルたちが、一台、また一台とコースに飛び出していく。

そして。

ジャンプ台からコース外に飛び出していった・・・。

ふと、一緒に順番待ちをしている隣の小学生がつぶやいた。

「・・・マグナムトルネード」

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『マグナムトルネード』とは
レッツ&ゴー!!のメインキャラである星馬豪の愛機、マグナムセイバー。しかし最高速を重視したセッティングのために安定性を欠く云わば「コーナーに弱い」という欠点を持っていた。
その欠点を克服するため豪はマグナムの名前の元になった銃のライフリング(アニメ版では野球のボールの回転)からヒントを得て「曲がらずに突っ切る」という逆転の発想のもと、「あえてコーナーでコースアウトさせ、その勢いでマグナムを回転させることによって安定した状態でその先のコースへ復帰させる」というショートカットを編み出した。
ニコニコ大百科『マグナムトルネードとは』参照

いや。

いやいや。
コースアウトしたまま、帰ってきてへんし。

そんなこんなしている間に自分の番がやってきた。
気分はレース前で興奮するレーサーと言うより、処刑台に登っていく死刑囚のそれに近い。

それでも自分はミニ四レーサーの端くれだ。

コースに投入された「サイクロンマグナム」はただただ真っ直ぐ走りはじめ、ローラーでコースの壁沿いにコースを一周し・・・空を飛んだ。


そして、体勢をわずかに崩しながらコース復帰を目指して落ちていき・・・

ガンッ!


嫌な音がした。

「サイクロンマグナム」はなんとかコースを引き続き走っている。

だが同時にコロコロと、視界の端で何かが転がっていき、壁にぶつかって止まった。

そして急速にコーナーでのスピードが落ち始める「サイクロンマグナム」
何が起こったのかを瞬時に理解した。
着地の際に右後方のパーツがコースの壁に接触。

その衝撃で、右後方の小さなローラーが吹っ飛んでしまったのだ。

これでは壁に直接、体を削られるようにぶつけて曲がっているようなものだ。

スピードもコーナーで上がらず、二度目のジャンプ台でも勢いがない。

それでも「サイクロンマグナム」は飛んだ。

結果としてはそのスピードダウンによってコースアウトを免れて、ぼろぼろになりながら完走した。

10台中3台がコースアウトし、私の順位は7位。
ジャンプ時もバランスを安定させて難なく走るトップランカーたちは、何食わぬ顔で完走しており、自分が井の中の蛙であったことを改めて思い知らされた。


今回、noteで「#はたらくを自由に」というお題が出たのをみて、自分も昨年からお店を開業した話をまとめて書こうかな・・・と思った。

けれど、実家の大掃除の途中で、あの日空を飛んだ「サイクロンマグナム」を見つけた時、起業した自分自身の姿がどこか重なって見えた。

真っ直ぐにしか走れないミニ四駆のように、興味のある特定の分野に突っ走り続けてきた自分。
10年間社会人として働くことで、自分を曲げるための「ローラー」としての知識を身に着け、会社という1つのコースを壁沿いに走ってきた。

でも、会社を辞め、コースの外に飛び出して自由になった時。
それでどこでも行けるというのは思い込みだったと思い知った。

自分の体についているパーツ(能力や資本力)は簡単に換えられるわけでもないし、エンジンである自分の「電池」や「モーター」等の動力部なんて変えようがない。

あの日、地方のおもちゃ屋ですら自分より速いミニ四レーサーがいることを思い知ったように。
会社の外に出れば、もっと速いレーサーもいるし、コースを作る側の人間もいる。

自分の想いや興味、得意なことといったストロングポイントは、誰かが用意してくれた市場というコースを見極めて、コースに沿って走るためのローラーを調整して挑まなければ勝てないし、それ以上を求めるなら自分で市場という名のコースを作らなければならない必要性だってある。

自由ってそもそもなんなんだろう。

好きな仕事ができること?
いつでもお休みできること?

そもそも、自由の『由』という字には「基づく」という意味があるらしい。

なら自由とはきっと「自らに基づく」という意味合いがあるとも言えると思う。

それは相手のことを考えずに、気持ちのままに振る舞えば「自分勝手や自己満足」に陥りがちだ。

でも本当に大切なのは、「自分自身の能力、興味に基づいて、自分が突っ走るコースを選んだり作ったりしていくこと」なのではないかと、起業して1年経って思う。

ミニ四駆のように、猪突猛進にしか進めない私だけど。

あの日、ローラーが外れてボロボロになりながらもレースを完走した「サイクロンマグナム」のように、日本一にならなくたっていい。

人生のこれからのレースを、興味と能力を生かして、ローラーで走る方向を微調整しながら、気持ちよく駆け抜けていきたい。

それが私が「サイクロンマグナム」から学んだ、私なりの「自由なはたらき方」だと思ってる。知らんけど。

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