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写真と動画でバーチャル体験。これがバスクの美食倶楽部だ。

バスクに広がるシェアキッチンスペース(自分で料理するお店)であるSociedad Gastronomica(和訳=美食倶楽部)が大好きすぎて日本でも始めてしまった本間です。

美食倶楽部は、家族仲間たちといい時間を過ごすセミプライベートスペースであり、料理やレシピのシェアを楽しむ場であり、お祭りの連の部室であり、、、様々な顔を持つイケてるコミュニティスペース。

その雰囲気や素晴らしさは行ってみないと分からないのだけど、なんとか伝えたい!ということで、とある1日を追体験してもらいたいと思います。

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「誰もいない飲食店」という部室

さあ、ここはスペイン北部のバスク地方にあるサンセバスチャンという町。美食倶楽部を体験する1日の始まりです。

12:00
今日のホストは、サンセバスチャンでエンジニアとして働くイバン。タトゥーごりごりだけど、元モデルでめちゃめちゃ優しいスイートガイです。サンセバスチャンの誇る至極のラ・コンチャ海岸沿いの広場で待ち合わせる。

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さっそく倶楽部に向かう、と思ったが「まずは一杯やろう」と目の前のバールに消えていくイバン。セルベッサ(ビール)片手に戻ってきて、世間話が始まる。確かほかの友人も12時に待ち合わせと聞いていたけど、、、と心配顔の僕らに気にするなと笑うイバン。今日はスペイン時間に身を委ねることにしよう。

軽く一杯飲んだ後は、近所の八百屋に買い出しに。今日のメイン料理のための買い出しは友人がすでにメルカト(市場)でしてくれているとのことで、こちらはその他の買い物を担当する。

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パナデリア(パン屋)でバゲットとスイーツを。食後の甘いものがないと食事は完結しないとイケメンは大まじめに語る。

13:00
美食倶楽部に到着。サンセバスチャンの中だけで120以上あると言われているが、外観はどこも似ている。入り口にかかるエンブレムと、「Sociedad(ソシエダ)」の文字。旗がかかっていることも多い。ソシエダは社会とか会社と訳されることもあるけど、ここではクラブ/倶楽部という意味だ。

ここはもともと闘牛クラブのものだったそうだが、他も乗馬クラブの美食倶楽部とか、職人組合の美食倶楽部とか。美食倶楽部は、コミュニティの「部室」みたいなものだろうか。

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鍵をあけ、中に入ると客席と奥にキッチン。なんだか「開店前の飲食店」みたいだ。当日最初の利用者は、自分で電気もつけるルールらしい。

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席数は着座で70席以上、キッチンは↑の写真の3倍くらい広い。サンセバスチャンの中でも人気の地域のど真ん中になんとも贅沢なスペースだ。

そして、どこぞのサイトで「美食倶楽部に欠かせない3つの要素」にあった、ドリンクスペース。バーカウンターに、ビールやワインがたんまりはいった冷蔵庫。すごくリーズナブルなので飲み物は特別なもの以外は持ち込まないのが基本だとか。なるほど、買い出しでお酒を買わなかったのはそういうことか。

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つくりながら飲む、つまむ。料理タイムは準備時間じゃなかった

13:10
店に入るなり、早速調理がはじまる。キッチンで待っていたのは、イバンの友人のフラン。もともとプロの料理人だったという根っからの料理好きはエプロンをしてすでに何かを準備していた。

ここの倶楽部はフランが会員で、今回は彼の招きという形。美食倶楽部は会員制で、場所を使えるのは会員とその家族友人のみという仕組みになっているのだ。みんな別々の倶楽部の会員だったりするから、こうして友人を頼って様々な美食倶楽部にお邪魔して楽しむことができる。

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最初につくったのはカタクチイワシのニンニク揚げ。「キッチンでのつまみはこれが定番」とのこと。すると横手イバンがおもむろに横でチャコリ(バスクの微発砲の白ワイン)ボトルを開けている。

乾杯!
もう?ここで!?
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「飲みながら料理」というところだ。
料理はパーティ開始までの準備時間ではない。つくってるこの時間こそ一番楽しいというのに驚く。

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男たちが料理をしている間、ダイニングスペースを覗くと、、、女性たちが待っていた。これはよくある光景だそう。もともとバスクの美食倶楽部は男性のレクリエーションスペースとして始まった。その歴史の名残りか、女性はあまりキッチンに入らない。料理をするのは男性。女性はその間飲みながら席で待っているという訳だ。

(よく「女人禁制」をキラーワードで美食倶楽部を紹介するものを見るけど、今は一部のとてもクラシックなところを除き女性が入れないところはほとんどなくなってきているという)

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イバンとフランそれぞれのパートナー。空き瓶を見ると、あれ、結構飲んでる・・・笑

キッチンをシェアすると生まれる、ちょうどよい交流

14:10
一通り調理が終わって、みんなでテーブルに移動。少しだけ仕切り直しをして、「さあ食べよう!」と食べ始める。にしてもスペイン人はよく話す、食べる。スペイン語が分からなくてもなんだか楽しくなる。

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今日のメニューは、スターターにサラミや生ハム。サラダ。メインにイカのイカ墨トマト煮。そして途中で男たちが立ち上がり追加で仕上げたのが、うなぎの稚魚を模したすり身を炒めたもの。グーラというバスクの伝統的な料理。うなぎの稚魚は資源管理と値段の高騰の背景から、最近はこっちが主流。(ちなみに日本の技術が元とのことで「スリミ」と発音します)。

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ちょっと独特な風味だが、酒がすすむやつ!

そして、ありがたいことにお隣のテーブルからおすそわけいただいたアサリご飯もテーブルを彩ってくれた。そういえばキッチンで一人で料理していたおじさまがいたな・・・

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おじさまがつくっていたのは、アサリご飯と、あとはエビのソテー。これをさらりと「食べてみてよ」とテーブル置いていってくれたのだ。

会員みんなでキッチンやスペースをシェアしているので、こうした交流が自然に生まれるそう。「飲みながら」に続いての、バスクの美食倶楽部の萌えポイント。お互い会員同士だから顔見知りで、でも必要以上にべったり一緒になったりしない、ほどよい距離感でやってる感じ。

この日は我々6名と、後ろのテーブルは5名で子供づれ、あとこちらのおじさまは奥様と2人で使用していた。

2名って、、、家で食べろよ!と心の中でツッコミを入れたけど、確かに2人で食べるより、外に出てこうした場所で食べた方が楽しいかも。一緒に卓を囲まないまでも、同じ空間に知り合いがいて、軽い会話が生まれて、後片付けも不要。奥様サービスでもあるのかな?

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テーブルをよく見るとステーキが。アサリにエビに、ステーキとわ。。。

ステキなだけじゃない。美食倶楽部をつくる便利な仕組みの数々

16:00
一通り食事が終わったら、でました、デザート&カフェタイム。バーカウンターに行ってコーヒーをいれはじめる。デザート&コーヒーがないと食事とは呼ばないのだとイバン。分かったわかった。

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コーヒーとともに、行きしなに買ったお菓子をほうばる。ここでまたしゃべり倒す。バスクにおいては、食べることとおしゃべりすることが生活や文化、幸せの中心にあるなあと感じる。

そしてその頃、キッチンを覗いてみると、一人の女性がせっせと洗い物をしてくれていた。これこそが、バスクの美食倶楽部萌えポイント③、洗いものおまかせサービスだ。

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聞くとこの倶楽部では、3人の洗い担当を常時雇用しているとか。この倶楽部に限らず、ある場所に皿をまとめて置いておくまでは会員がするけど、そのあとの洗いものは倶楽部側でやってくれるのがほとんどのケースだ。

16:30
待ち合わせからカウントすると4時間半。ついに、終わりを迎える。そろそろビーチに散歩しようということで会計タイム。フランが取り出したのは1枚の紙だった。

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ビールやワイン、コーヒーにデザートまで。お店のものをいくつ、いくらぶん消費したのかを計算する用紙だ。これでお店に払う金額が算出され、後ほど設置されているタブレット端末からセルフ会計。

買い出しにかかった材料費などもみんなで申告しあい、合計を人数で割る(女性も男性も傾斜なく分割される)。1ユーロ単位で結構細かくやる。めちゃめちゃ明朗会計。バールとかでは、割り勘というよりどっちかが払うみたいなざっくりした感じが多いのだが、美食倶楽部ではピシっと割り勘がルールなのかも。

こうして会計までが仕組み化され、それが慣習となってみんな知ってるから、不要な気遣いなどがいっさい不要でサクサク気持ちいい。100年以上続いて、カルチャーになると言うことなのだろう。

お客様ではなく、倶楽部のオーナーという意識

帰り際に、思い出したかのように「これを見ろ」とフラン。

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ガバっと座席を開けた。中に入っている丸い筒状のものは、太鼓だった。

サンセバスチャンには、毎年1月に24時間太鼓を叩き続けるお祭りがある。「タンボラーダ」と呼ばれるそのお祭りは、誰に聞いても一番盛り上がり一番大切な日だという答えが返ってくる。

100を超えるグループがこのタンボラーダに参加するのだが、企業や学校とならび美食倶楽部もそのグループを形成する大切なベースとなっている。フランは太鼓を見せながら、誇らしそうにタンボラーダへの思い、そしてこの倶楽部への愛を語ってくれた。

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倶楽部の会員規約も見せてくれた。キッチンや客席の利用方法から、会計などのルール。また、毎月1度会員の総会のようなものを開く仕組みや、集めた会費の利用方法の決議方法まで書いてあると言う。

美食倶楽部の会費は思ったよりとても安く、月額20-30ユーロとのこと。逆に、入会金が高い。2000とか3000ユーロ。多くの倶楽部では、会員は誰でもなれるわけではなく紹介制だったり親から譲り受ける形だったりする。

ヨーロッパでは株式会社ではなく、協同組合形式の法人が多い(バスクは中でも組合が強い地域として知られている)。従業員自身が株主のように会社のオーナーであり、経営決定権を持つ。美食倶楽部もまさにそれで、高い入会金を払って、自らが誇りとともに運営する側の感覚でメンバーとなる。ユーザーとして利用もするし、会費の使い道にも参画する。会計は完全に透明化されていて、余剰利益があったらじゃあオーブンを買い換えよう、なんて議論が会員総会でされている。フランは話してくれた。

なるほど、結果「お金を払ったらお客様」みたいな意識が生まれていない。「わたしの場所」として愛と誇りをもってこの場所を使ってるんだな。そんなことを思いながら、あさりご飯をくれたおじさまにお礼を言って、海へ皆で散歩にでかけた。

(↓一連の1日を動画でつなげたもの↓)

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体験おわり。おかえりなさい。

楽しいところ、美味しいところ、幸せを生み出すところ、便利なところ、美食倶楽部の好きなところは沢山あるけれど、本質的に一番感銘を受けていて、かつ日本にでやりたいと思った一番のポイントは、この組合精神かもしれない。地域やコミュニティのメンバーひとり一人が、お客様意識ではなく誇りとオーナーシップを持って一緒に価値をつくり守り続けている。そんな場所をつくっていきたいのだ。

日本で始めた美食倶楽部のコンセプトや全国への展開状況は、こちらのWEBサイトで是非チェックしてください。


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