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[16]パイロットまで、あと2年。

福岡に来たのは久しぶりだ。
そもそも山口県の外に出るのも入隊してから初だ。
外も快晴で心が晴れ晴れする。

厳しい訓練ばかりしていると心が荒んだ。

何が辛いって
とにかく怒鳴られるのが嫌だ。
大の大人が本気で怒鳴ると
唾も飛ぶし血管も浮かぶ。

そんな時は、
こいつら(教官や先輩)全員カスだと
思うことでやり過ごす。
「はい!」と元気よく返事するものの、
バカ正直に受け入れると確実に鬱まっしぐらだ。

東川は良くも悪くも素直なやつだ。
たまに怒鳴られながら泣いている。
俺如きと思うことはあるが
なんとか一緒に卒業してパイロットになりたい。
あいつは中学生の頃から
パイロットに憧れてきたらしい。
目が悪いから視力矯正の本を片手に
毎日ブルーベリーを食べて受験勉強に励んだそうな。
俺とは覚悟が違う。

対して俺は健康だけが取り柄だ。
もう少し賢くしてくれてもいいとは思うが、
丈夫に産んでくれた親に感謝せねば。

丈夫といえば、
ガラケーがそろそろボロボロだ。
高校入学とともに変えたから4年目だ。
誘惑が多いと感じて、
スマホ全盛の時代にあえてガラケーに変えた。

おかげで大分の実家では映画にゲーム、
読書に溺れることとなったが後悔はない。
あの時に出会った作品は
確実に俺の血となり肉となった。
きっとスマホでは得られない経験だろう。

でも、自衛隊生活においては不便すぎる。
どうしてもiPodやラジオなど
他にもデバイスが必要になる。
しかしそんなものは持ち込めない。
入隊前に持ち込んだiPodは教官が管理している。

福岡に到着するまでの時間は本を読んで過ごした。
興奮していて内容が入ってこない。
表面をなぞりながら思考が途切れる。

自衛隊に来て日本に
誇りを持つようになった気がする。
話題も日本という枠を通して語られるから
いやがおうにも意識する。
教官の中にはブルーインパルス出身で
オリンピックで飛んだ人や
震災で多くの人間を救った人もいる。
そんな存在を前にすると自分の志望動機が
ちっぽけに思えてならない。

「おい、着いたぞ!」
「時間までは自由行動ね。遅刻するんじゃないわよ」
「わーってるよ!5分前行動が得意だからさ」
「どうだか」

誰もホテルは取っていない。
行動計画に記録しないといけないが嘘をついた。
期待と緊張で腹が痛くなってきた。
俺もブン太たちと別れて行動することにした。

たまの休みだ。
どこか静かなところで過ごしたい。
そうだ、美術館に行ってみよう。

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