モルディブ・リッツ滞在記10【海とサメ】
※先にことわっておくと、僕らはサメとは触れあわなかった。モルディブでは人気のアクティビティのようだったが……。
絶えず僕らを魅了し続ける、鮮やかな海に入ろうと思った。
バトラーが送ってくれた案内をざっと見てみる。マリンアクティビティも、シュノーケリングのツアーを含めて多数揃っていた。
ただ、豊富なメニューのなかにひとつ、ギョッとするものが。
正式な名前は失念したが、「シャークなんとか」とかいう、縁起でもない名前であった。
写真を見ると、海の深そうなところで、旅行客が大人と同じくらい大きなサメのすぐそばを泳いでいる。
少なくとも僕の食指は動かない。ノット・フォー・ミーというやつだ。
「……」
隣にいる妻も絶句していた。結婚生活には価値観が合っていることが重要だと、このときほど実感したことはない。
当然だが、ラグーンの生態を観察したり、可愛らしい小魚を観察したりと、「普通の」プランも用意されている。
結局、決めかねた僕らはバトラーに電話し、おすすめを聞いてみた。
色々尋ねてみたが、講義があったり、怠惰な僕らにはスケジュールがタイトだったりと、どうもしっくりこない。
別に予約してまで海に入らなくてもいいか……、と半分諦めたところで、別の意味で気になっていたサメのツアーについて聞いた。
「あまりオススメしません。運が悪いと見られないこともあります」
「運が悪いとサメに出会えない」という。つくづく世界は広いーーそう思っていたら、僕らのバトラーはさらに続けた。
「それに、サメなら他のシュノーケリングでも見れますからね」
妻が、「いや、別にサメは見たくないんだけど……」とみるみる表情を曇らせる。結局僕らは、有料のアクティビティで海に入ることはしなかった。
あぁ、価値観の合った結婚、万歳。
▽伏線はあった
今思えば、何気なく置かれていた図鑑が執拗にサメを解説していたり、オリエンテーション用のスペースに大きなサメ型のライトが飾られていたりと、何かと不穏な気配はあった。
帰国してから調べると、モルディブはサメの楽園らしい。インターネットで、シュノーケリングをする人が大勢のサメと触れ合う動画や記事を多数見つけた。
いくつか見てみると、「モルディブのサメは穏やか」などと勝手なことが書かれている。知れたことか。
海は広い。世界はもっと広い。付き合いきれないことに後ろめたさを感じる必要はない。
僕らにとってサメと触れ合う経験は、「あつまれ どうぶつの森」で十分だ。そう割りきることにした。
モルディブの海を優雅に泳ぐサメにしてみても、こんな人間と触れ合うのは願い下げというものだろう。
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