80分の記憶しか持たない数学の博士が、派遣された家政婦と息子の「ルート」と交わり、人生の喜びを知る。
■博士は、真理を探る数学の世界へと手引きする。家政婦とルートもまた、博士を野球場に連れて行き、誕生日を祝い……、彼が前半生で味わえなかった世界を案内する。
■互いに補い、学び合う姿が、完全な関係に見える。博士の記憶に残らなくても、その情景は江夏のカードのように色あせない。
■物語は、読者の心に美しいまま閉じこめられる。忘れることは、失うことではない。一度綴られた証明が、その真実味を損なわれないのと同じように。