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【連載】ノスタルジア大図鑑#08|死語供養短歌 「花金」

お笑い、SF、オカルト、恋愛、日常…….。
さまざまなテーマを「短歌」という宇宙に吸い込み、生まれた異次元空間のような言葉たち。

歌集『念力家族』(朝日新聞出版)で鮮烈なデビューを飾り、幅広い読者層に愛される歌人・笹 公人(ささ・きみひと)さんが「ノスタルジア大図鑑」にご登場!

時代とともに消えゆく「死語」をテーマに、短歌と死語にまつわるエピソードを語っていただきます。

第1回は、週末にぴったりのこのワードから!


第1回:「花金」

花金の花散りしより三十年 造花眺むる日々を生きおり   

笹 公人





「花金」という言葉を覚えているだろうか?
1985年頃から90年代前半のバブル時代にかけて流行した言葉で、「花の金曜日」の略である。
週休二日制の導入により、土日休業の企業が増えたため、サラリーマンとOLは金曜日の夜に豪快に飲み歩くようになった。主にその現象を指す言葉として「花金」という言葉が生まれたのだという。

「花金」という言葉が流行した当時の私は、10代前半。当時は土曜日も学校の授業はあったのだが、それでも「花金」の浮かれ気分は肌感覚で伝わり、なんとなくわくわくしたものだ。

個人的に「花金」という言葉で、真っ先に思い浮かぶのは、1989年にテレビ朝日でスタートした「はなきんデータランド」という生放送バラエティ番組である。
「ドラえもん」と「ミュージックステーション」に挟まれた19時30分からの30分番組だった。後の「王様のブランチ」や「お願い!ランキング」にも通じる、街のトレンドを紹介、予測する番組は、学校と近所以外に出かけることもない中学生にもバブル時代の日本の勢いと空気を感じさせるもので、毎週欠かさず見ていた。

今振り返れば、舞台装置も効果音もキラキラしすぎていた感はあるが、まさにそれこそがバブル。司会の桂文珍の軽快なトークも小気味よく、さまざまなランキングを発表するCHA-CHAの中村旦利の軽さや肩パッドの入った衣装も、いかにもバブリーでゴージャスな雰囲気を醸し出していた。

当時、オカルト研究に没頭する怪しい少年だった私は、「この軽い男も生放送のあと夜の街に繰り出すのだろうなぁ……」と、自分とは一番遠い世界に生きる人間として中村旦利を眺めていたのである。



さて、それから25年経った2015年。
「花金」という言葉はとっくに死語になり「はなきんデータランド」のこともすっかり忘れていた頃、何かとお世話になっている出口光さん(出口王仁三郎の曾孫にして元タカキュー社長の哲学博士)から、日本全国の重要な神社に奉納するツアーを組むから歌人として参加してほしいと依頼された。神社が好きで神道にも興味のある私は二つ返事で引き受けたのである。

奈良の奥深くに位置する天河大辨財天社や世界遺産・熊野本宮大社など、さまざまな神社で宮司立ち合いのもと、私は太鼓奏者の大倉正之助さんの鼓をバックに、神に捧げる自作の短歌を朗読するという謎のコラボレーションを奉納した。

そのツアーの途中、やはり歌を奉納したある神社で、参拝者の一人から「笹さん、この人ジャニーズにいたんやで~」と、その日の奉納の共演者の男性を紹介された。その男性はドリフの聖歌隊のような白装束に身を包み、南国の先住民族が儀式で使うような大きな木の筒の楽器を抱えていた。

長身で顔は小さく、たしかにジャニーズっぽいイケメン。そして、神職の人のような清らかさと誠実さを漂わせていた。
しかし、誰だかまったくわからない。失礼を承知で、思い切って「なんというグループにいたんですか?」と聞くと、「CHA-CHAというグループにいました」と照れながら答えてくれた。
なんと、男性はあの「はなきんデータランド」の中村亘利さん(急にさん付け)だったのである!

自分にとってのバブルの象徴だった人が神社で奉納……?!  一瞬、頭が混乱し、鎮守の森に降る蝉の鳴き声が、ひときわ大きく木霊した。

私は、中村さんに、「はなきんデータランド」を毎週欠かさず見ていたことを話し、あれこれ質問した。当時のエピソードを語る中村さんは、まるで前前前世(古い!)の出来事を語るような穏やかな口ぶりだった。

その頃、中村さんは、KNOB(ノブ)という名前で、ディジュリドゥ(オーストラリアの先住民族アボリジニの人々により数万年も紡がれてきた祈りの楽器)の演奏者として活躍されていたのだった。
(KNOBさんのウェブサイトはこちら↓)


25年も経てば、そりゃ人は変わるが、変わるにもほどがある!
華やかなバブル時代の芸能界から、静寂なる祈りの楽器の演奏者へ方向転換するとは、「はなきんデータランド」でもスーパーコンピュータでも出せない未来予測データではなかろうか。



それから5年経った2020年のある日。
志村けんさんの訃報が飛び込み、日本中が悲しみに包まれていた頃、そのKNOBさんにFacebookでタグ付けをされた。
何かな?  と思って見に行くと、そこには、笹公人とタグ付けされた、若き日の志村けんさんの顔があった。Facebookが若き日の志村さんと私を同一人物だと見なして自動的にタグ付けをしたらしい。

「たしかに何度か志村さんに似てるって言われたことあったなぁ……」と思いつつKNOBさんがアップした志村さんへの追悼の文章を読んだ。
そこには、志村さんと高木ブーさんと少年の写真も添えられており、その少年がKNOBさんだった。小学生の頃、ドリフ公演を観に行った際、楽屋に行ったときのものだという。

そのとき、私はあらためて志村さんのご冥福をお祈りするとともに、ドリフ、バブル、「はなきんデータランド」からコロナ禍までの日本の30年をしみじみ思ったのである。


A笹さん

天河大辨財天社にて奉納中の筆者と大倉正之助氏


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Bプロフィール

【著者プロフィール】
笹 公人(ささ・きみひと)
歌人。1975年東京都生まれ。
未来短歌会」選者。現代歌人協会理事。「牧水・短歌甲子園」審査員。大正大学客員准教授。歌集に、NHK Eテレにて連続ドラマ化された『念力家族』(朝日新聞出版)、『念力図鑑』(幻冬舎)、『抒情の奇妙な冒険』(早川書房)、『念力ろまん』(書肆侃侃房)、バラエティ作品集『念力姫』(KKベストセラーズ)、『念力レストラン』(春陽堂書店)、エッセイ集『ハナモゲラ和歌の誘惑』(小学館)、絵本『ヘンなあさ』(岩﨑書店)、『念力恋愛』(幻冬舎)、朱川湊人との共著『遊星ハグルマ装置』(日本経済新聞出版社)、和田誠との共著『連句遊戯』(白水社)、和田誠、俵万智、矢吹申彦との共著『連句日和』(自由国民社)、編著『王仁三郎歌集』(出口王仁三郎・著)など多数。

●Web:http://www.uchu-young.net/sasa/
●Twitter:@sasashihan


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《Information》

本連載と連動したYouTubeコーナーが
笹公人選歌欄チャンネル「抒情の奇妙な冒険」の新コーナー、「死語短歌の世界」が5月からスタートします!


■「死語短歌の世界」

出演:笹 公人、ゴウヒデキ(放送作家)、小泉宏美(トゥーヴァージンズ編集部)

ご期待ください! 
「死語短歌」の投稿もお待ちしております!

<「死語短歌」作品宛先>
jojounokimyounabouken@gmail.com (死語短歌係)

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バナーイラスト:しのだまなこ



「日本全国キーホルダーぶらり旅」を含む、個性豊かな執筆陣による合同連載「ノスタルジア大図鑑」はこちらから↓





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