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#3 イギリスのランニング:2024ロンドンマラソン

今年のロンドンマラソンは現世界記録保持者のアセファ、東京オリンピック金メダルのジェプチルチル、東京オリンピック銀メダルのコスゲイ、世界歴代3位の記録を持つチェプンゲティッチ、そして2022ロンドンマラソン優勝者のが揃う豪華な顔ぶれとなった。男子の方も2022年世界陸上マラソン・2023ニューヨークマラソン優勝のTamirat Tola、そして何と言っても長距離界のレジェンド、ケネニサ・ベケレがスタートラインに立った。自身が取った写真なども含めながらコースの解説、オリンピックの展望などについて書きたい。


コース解説

ロンドンマラソンはフラットなコース(トータル124mの上り)で、昨年にはケルヴィン・キプタムがコース記録の2:01:25で走っている。子午線があることで有名なGreenwichでスタートし、19Km地点まではテムズ川の南側を走る。ここでタワー・ブリッジをわたり、テムズ川の北側を走りバッキンガム宮殿の近くでゴールする。テムズ川の北側に多くのロンドン観光名所があり、折り返し地点が2000Km にあるのでもらえる声援はコース後半のほうが大きい。気温も10〜12度のほどの走りやすい気温になることが多く、懸念材料があるとするならばビル街を通るときに感じやすい強い風だろう。レースは女子のエリートの20分後に男子のエリート + 一般がスタートする。またロンドンマラソンは数あるマラソン大会の中でもチャリティーに力を入れており、募金を集めるために仮装して走るランナーも多い。https://www.bbc.co.uk/newsround/68872587

レース展開・結果

ロンドンマラソン表彰台

ペースは女子のみのマラソン世界記録である2:17:01をターゲットに進められ、最初は8人ほどの先頭集団も30Km 過ぎには4人の集団に絞られていた。

ジェプコスゲイ、アセファ、アレムの後ろに控えるジェプチルチル

2:11:53というタイムを昨年走ったばかりのアセファがまだこの時点では優勝筆頭候補に見えた。だがジェプチルチルも自己記録は及ばずとも、2020年から2022年にかけて出場したマラソン6試合全てで優勝する勝負強さを持っている。
驚くことにレースは最後の1Kmを切っても4人が並列で走っていた。そこで残り600m程で明らかに余裕のあるジェプチルチルが前を塞いでいたアセファを手で払い除け、いっきに後続を引き離した。タイムより順位にこだわっていたとはいえ、2位に7秒差、4位に18秒差を開けるのは物凄い。

橋をわたりきった地点でベケレは集団の後方に


男子の第一集団も女子の15分ほど後に20Km地点をペーサーをい除いて8人ほどで通過。ベケレは集団の後方にいて存在感を消していた。こちらも女子の方と似た展開でこの後の10~15 Km で少しずつ先頭集団が絞られていく。

左から白・オレンジのトップを着たMarc Scott, オレンジのMahamed Mahamed, そしてすでに代表内定している Phil Sesemannがピンク色のトップでペーサーを務める

残り2枠をかけたイギリスマラソン代表争いも見応えがあった。バレンシアマラソンで参加標準記録を42秒で逃したMahamed Mahamedと5000m自己ベスト12:58を持つMarc Scottが第2集団でレースを進める中、Emile Cairessはペーサーはつけながらも第1と第2集団の間でレースを進めることを選んだ。これは2月に60:01 でハーフマラソンを走ったことから、ファラーのイギリス記録(2:05:11)を破れる自信があったからだ。

この後選手たちは東に向い、折り返してフィニッシュを目指して走る。今度は観戦の場所を20Km地点のすぐ近くにあった36Km地点に移す。そこを先頭でベケレとムティソ(Alexander Mutiso)がシンクロするように通り過ぎていった。

ベケレとムティソ

この時間帯になってくると観戦する人も増え、自身が立っていた場所は細い歩道だったので直前まで近づいてくる選手が見えなかった。ここから3Km程後にムティソがベケレを振り切り14秒先にゴールする。Emile Cairessは当初の2:05ペースから遅れはじめ、Mahamed Mahamedは逆にペースを上げていくが、二人はそれぞれ2:06:46, 2:07:05のタイムでレースを終える。これはイギリスではファラーに続いて歴代2位・3位の記録となる。


オリンピックのマラソン代表に内定した選手

レジェンドのベケレでもエチオピアの戦力層を考えると内定は難しいと思っていたが、5月のはじめにマラソン代表内定が発表された。以外にもオリンピックは2012年以来12年ぶりの出場となる。いら前回のオリンピックのエチオピア代表は途中棄権者が多かっただけに、今回は終盤までメダル争いに絡めるランナーが居ることを期待したい。他の二人は2:01:53の自己ベストを持ち、2024ボストンマラソンを優勝したSisay Lemaと2月のセビリアマラソンを2:03:27のタイムで優勝したDeresa Geletaが選ばれた。2023ニューヨークマラソンを優勝したTamirat Tolaは補欠に。女子の方は世界記録保持者のアセファ、2023世界陸上マラソンを優勝したAmane Beriso、今年のロンドンマラソン4位に終わったアレム(Megertu Alemu)が選ばれた。結果としてエチオピア代表6人のうち3人が今年のロンドンマラソンに出場していたことになる。

ロンドンマラソンの結果はイギリスのマラソン代表選手選考にも決定的な役割を果たした。Emile CairessとMahamed Mahamedがともに参加標準記録の2:08:00を突破し、2月にすでに内定したPhil Sesemanに加えて代表に内定した。女子は突破した選手がいなかったため、すでに選考されていたCharlotte Purdue(2023年のベルリンマラソンで9位)とCalli Hauger-Thackery(2023年に初マラソンを2:22:17で走った)の二人のみとなった。

最後に世界の中でも一番競争が激しかったケニアのマラソン代表をまとめる。女子の方は2024ボストンマラソン、2023ニューヨークマラソンを優勝したHellen Obiri,そしてロンドンマラソン1位のジェプチルチル、そして5位のコスゲイが選ばれた。本来ならボストン2位、ニューヨーク3位のSharon Lokediが選ばれてもおかしくない状況だったので、この判断には少なからず疑問の声が上がっている。このような疑問符がつく代表選考は過去にもあり、ケニア陸連がメインスポンサーであるナイキの選手を優先する傾向があると言われている。また男子の方は東京マラソン10位に終わったがオリンピック2連覇,ベルリン2023優勝のキプチョゲ、ロンドンマラソン2024優勝のMutiso, 東京マラソン2024優勝のBenson Kiprutoが順当に選ばれた。マラソン6大大会の優勝者の半分が揃う強力な代表が揃った。

個人的にはオリンピック女子マラソンはジェプチルチルとHellen Obiriの二人の優勝争いになると思う。男子の方はキプチョゲがどこまで準備ができるかによってレース展開が大きく変わるだろう。個人的には坂が多いボストンマラソンを優勝したSisay Lemaを現段階では押したい。


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