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短歌連作「白百日紅」
白百日紅
絆創膏剥ぐとき傷が吸う息の深さが夕立を連れてくる
もし泡に喩えられれば泡になるよ。群青の部屋みたいな場所で
巫女的にあなたは真珠を選んでる夏へ棺を定めるように
みぞおちを流れるオフィーリアのため仰向けで寝る 蜂の夢見る
ハイライトメンソールから月にいく時間がときどき見えるのが煙
あおぞらをしずかに掻き鳴らして止まない白百日紅のすべすべのうで
短歌連作「秋の打楽器」
秋の打楽器
首巡らせて秋の空 空港、と呼ばれる場所のひとつが天国
月に見られているひとりバス停で学名のない虫のごとくに
噛むたびに水の砕けるすずしさの梨はひと秋きりの打楽器
人が死ぬ夢を見ていただけなのにそんな激しくあめ降らないで
古本を開けば栞の落ちてくるように弱音のうつくしいひと
目隠しをしたまま花を踏むぼくに香るしかない花という生
ねむるときまぶたのあおく透けている人間と
短歌連作「まだいない双子」
まだいない双子
青い舌信号みたく見せてくるそれはそれで楽しそうな地獄
ベランダでふたり線香花火すればいのちあまってあかるむ睫毛
骨の白が光由来であることの栞が軽いのびっくりしない?
夕ぐれにカニバリズムは匂い立ち鳥、木の影に呑まれつづける
歯を磨くたび人間の心地する泡切れのよい少年の肌
冬空の青のどこかでまだいないぼくの双子が吹くしゃぼん玉
短歌連作「銀の映写機」
銀の映写機
減りながら輝きながら飛ぶ星のきみが滅ぼさなくてどうする
彗星に戻る途中で落ちたからこんな冷たいきみの髪留め
誰よりもおだやかに生きそのときに彗星となる余力を残す
りふれいん、りふれいん、ってふる雨のひと粒ずつに銀の映写機