見出し画像

日本ドイツ戦感想②俺たちが見たかった森保ジャパン

森保体制は、長らく不評であった。その不評を大まかに分類すると、以下のようなものになるだろう。

【⇑ エンジョイ勢的不満】
① 守備的過ぎて攻撃が弱く、勇敢さや積極性など観戦の楽しみがない
② 交替枠を余らせるなどベンチワークも消極的
③ 選手を生かし切れているように見えない
④ この10年の常道である「配置で殴る」ができず負けている
【⇓ 強さを求める人の不満】

このほかにも田嶋体制に対する不信感やストーリーの不足なども指摘できるが、ここではそれは取り扱わず、純粋に「地上波観戦時に楽しめるコンテンツではない」というところで並べるとこんなところだろう。

人々は勇敢さと挑戦を支持する

私は、サッカー日本代表がサッカー経験者以外にも支持されるのは、勇敢さと挑戦意欲を見せる時である、と理解している。かつて、ドーハの悲劇はアジア内であっても国民的関心事であり、フランスW杯時は初出場まででも十二分に盛り上がった。当時はこれが「超えられなかったハードルを越える挑戦」だったからである。今でも人気があるのは勝てそうにない高いハードルとしての強豪国との対戦であり、相手が弱い試合(二次予選や親善試合)は人気がない。つまり、大衆サッカー視聴者は楽勝の試合でいわゆる「俺TUEEE」という感覚を得たいのではなく、負けてもいいから挑戦が見たいのである。

これは日本に限った話ではない。サッカーのリーグ戦では1994年ころまで勝ち点が勝利2、引き分け1という配分だった。その時代は引き分けの勝ち点でも重要だったため、どのチームも守備的に戦い1-0(ウノゼロ)か0-0かというサッカーが跋扈していたが、あまりにもつまらないということで勝利3、引き分け1に変更し積極的に点を取りに行くことを推奨するようになった。0-0がつまらないと評されているのは今大会でも同じで、「両軍とも守備がしっかりしていました」と評して満足するのは戦術オタクだけであり、マニアの意見ばかり聞いている業界は先細るのであえて聞き流してよい。

How's that for a World Cup upset? I'll take three 0-0 draws for something like this!

Germany play the blame game after 'ludicrous' Japan defeat. 24 November 2022. Telegraph

本田香川時代が人気があったのは、ゼロ円移籍解禁による海外挑戦が増えたという影響もあるが、なんだかんだ言っても失点覚悟でもショートパス主体で攻め倒して勝つ「俺たちのサッカー」という課題が設定され、積極的な内容のそれへの挑戦が支持されたという面が大きいと考える。彼らは負けていた時でさえ、旅が終わった今でさえ人気があることは決して無視できない。

比して、森保体制は、そこそこ勝っていたアジアカップの時ですら、準々決勝までの5試合で1-0勝が3回あり、消極的だという不満の火種がともっていた。準決勝こそ快勝するが、決勝では配置上のミスマッチを突かれて敗北した上、そのミスマッチは選手含めて多くの人が指摘するもので、これに対する修正対応力の低さは、戦術に詳しいコア層からも不満が持たれて、最終予選序盤で2連敗という結果の悪さもあり、公然と不満が述べられ、人気も低迷する。

全てを反転して見せたドイツ戦後半

配置で負け、消極的で、内容も結果も悪い。これはドイツ戦の前半までそうだった。「森保体制に付き合って、悪い所が何も解決しないまま来た……」多くの人はそう思っていたはずだ。

① 守備的過ぎて攻撃が弱く、勇敢さや積極性など観戦の楽しみがない
② 交替枠を余らせるなどベンチワークも消極的
③ 選手を生かし切れているように見えない
④ この10年の常道である「配置で殴る」ができず負けている

後半、彼はそれを全て反転して見せた。まず手始めに、試合前や前半に多くの元選手・指導者が指摘していた配置のミスマッチの解消(3バックへの変更)を実施する(④の解決)。この変更でボール保持時間が増えると、早い時間帯から次々と交替カードを切り(②の解消)、しかもその交替のほとんどでより攻撃的な選手への置き換えを実施し、74分までに4-3-3ベースではFW登録の選手が6人を占めるという、俗に「ファイヤーフォーメーション」と呼ばれる超攻撃的布陣を取った(①の解消)。

そしてその交代選手が次々と当たり(③の解消)、三笘→南野→堂安とつないで1点目を取り、浅野が一瞬の隙をついて脈絡なく2点目と、交替投入した攻撃的選手すべてが点に絡むという、これまでにない完璧な采配で逆転して見せた。

端的に言えば、森保体制に対するフィールド上での不満は完全に解消し、積極的で挑戦的な「俺たち(エンジョイ派)の見たかった日本代表」を見事に見せてくれた。

緩やかな仕込み

この試合の采配は、親善試合の終盤で343を何回か試していたり、順足ウイングをスタメンにしたり、鎌田ボランチを試したりと、今から考えると対戦相手が決まった4月ごろから温めていたプランではないかと思うが、選手のインタビューでは「僕たち自身もここで3バックをやるとは思っていなかったですけど、監督はその可能性を示唆していました。ぶっつけ本番のところは正直ありました」等、今回のプランは「はっきりとは言っていなかったが緩く共有されていた」というような形のようである。

プラン全体としては、前半は4231プレス(プランA)が失敗したら0-1ビハインドまで許容して消極的カウンター(プランB)を遂行し【No hacíamos la presión hasta que cambiamos】【0-1ならいけると3人で話していた】、後半負けていれば3バックに変更(プランC)【試合中に変える可能性があるのは森保さんから伝えられていた】、ハイプレスが嵌るのを見て、順足ウイングのロングカウンター体制から逆足ウイングのショートカウンター体制へ切り替えたファイヤーフォーメーション(プランD)【冨安と三笘が左サイドで組む想定もしていた】、という形であったと推測される。

順足ロングカウンターと逆足ショートカウンターの使い分けは、今から考えるとメンバー選考の時点で決めていたのだろう。当時自分はボランチ、特に守備力の高いボランチが2人しかおらず、田中と柴崎はクラブでトップ下やサイドに回されることも多く層が薄いので、この時点で鎌田をボランチに数えないと怪しいと思っていた。一方でFWは過剰気味に見えるという点も疑問だった。

試合で示された正解は「アタッカー陣をロングカウンター組とショートカウンター組の2つ持つ」という意図だった。ボランチの薄さは遠藤と守田が相次いで怪我をして実際に問題にはなっているのだが、それよりも攻撃陣の使い分けを優先したのだろう。ここは、素人の私の考えの及ぶところではなかった。

不満でも人格攻撃すべからず

森保監督はとかく批判が多かった。私も消極的な采配でサッカーの醍醐味を損ねている点や、配置のミスマッチを修正しない点など、いくつか批判はしてきたが、そこまで非合理ではないという見方で1勝2分くらいの予想をだしていて、予想以上で不満を完全に解決する采配に満足して掌を返すことができた。

ただ試合後の反響を見ている限り、「森保は頭が悪い」等々人格攻撃に及んでいた人は、そうもいかなかったようである。彼らは歴史的快挙を楽しむことができず不満を垂れ流すことしかできないという罰を与えられているが、哀れと思うか当然の報いと思うか、それは人それぞれかもしれない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?