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その人は、桜とともにやってきた(1)【ナツキの記憶】


僕、ナツキはコーヒー・ロースター。
自家焙煎のコーヒーをネルドリップで出す仕事をしています。

山麓の農村の中にある、手作りの小さなお店。

周囲を古い桜並木に囲まれています。


ここの桜は見事な並木で、桜の時期だけは静かな農村がにぎやかになります。
毎年、桜を楽しみにしてくるお客さんのために、桜の開花情報を発信するのもこの時期の僕の仕事。

だから、毎日桜を観察していました。


今年は天候がよくなく、蕾もゆっくりゆっくり膨らんで行きます。

例年は中旬が満開ですが、今年は少し遅れるかもな?そう思っていたところ、ある日から、なぜか異様な早さで開花に迫りだしました。

突然のスピードアップ!
なんと今度は、例年より1週間以上早くなりそうな勢い!


「おいおい、どうした、君たち??」

日課で、出勤しながら蕾を観察する僕。
つい話しかけてしまう程の勢いで急激に蕾が膨らみます。

当初は、例年どおりのペースだったのに。


あと、2週間後に満開のはずが、「あと1週間」、「いや、あと4日」、

「おい、あと2日か?・・・」。

本当にどうしてこんなに早く花開こうとするのか?
でも、天気はけしてよくない。曇りや雨ばかり。
不思議だ・・・。


開花前の桜の蕾は、花よりも桜色が濃いのです。

ピンクに輝かんばかりの桜の木を、呆然でと見つめながら、ふと気がつきました。


「あれ?この調子だと、メイさんが来るころに満開になるんじゃないか?」


約束の日は桜にはちょっと早いはずだったのに。

その人。メイ。
彼女は桜とともにやってくることになるようです。

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