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あなたはわたし(1)【ナツキの記憶】

メイとの約束の前日。
それは日曜日でした。週末。当然忙しい日です。

朝から晩迄、働き詰めで、片付けも猛スピードで終電でに飛び乗りました。


ああ、メイさんに連絡しなきゃ・・・。
堅い各駅停車のシートに背を埋めながら、思いました。

明日会う事だけしか決まっていなくて、場所も時間も決めていないのです。

でも。

身体は蓄積疲労で重く、そして気も重いです。


メイは頻繁にメールを送って来ていました。

これまで1年に2通だったのが、間隔があいても2、3日おきです。

正直、戸惑って言いました。
メイの意図が分かりません・・・。

確かに仲良しだと思うけど、どうして今になって?

このメールは何を伝えたいの?
この相談はご主人と話した方がいいんじゃないのか?

理解しかねる急接近に、いろいろな疑問が沸き上がり、僕は戸惑いながら返信していました。

勢い、形式だけのメールが増えます。


ツインレイなど想像もしていない僕は、完全にメイの気持ちを掴み損ねていました。

おまけに僕は、完全に失恋したばかりです。

久しぶりの街も、うきうきはしません。

車内のお休みを楽しんだ人々の興奮冷めやらぬざわめきも、うっとしいくらいです。


おまけに、その元彼女”めい”は、今向かっている僕の実家のそばに住んでいたものですから、道中何を見ていても思い出してしまいます。

救いは、疲れた体が睡眠を欲している事だけでした。

僕に取っての最後のなけなしの誠意。
それは、メイとの約束を守り、明日会う事、でした。

意識を失うように睡魔に飲み込まれた僕を、各駅停車はゆっくりと運んでいきました。

長い長い旅の果てに、心も身体もくたくたの僕は、やっとの思いで実家にたどり着きます。

ふと見ると、携帯にメール受信のサインがついていました。

「明日はくるの?」

メイからのメッセージでした。

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