2019シーズンガンバ大阪振り返り『理想と現実のあいだ』

 あけましておめでとうございます。みなさまいかがお過ごしでしょうか。私はここ最近新生児(男子)に付きっ切りです。子供が産まれてから分かったんですけど、90分黙ってくれることほぼないんでなかなか集中してサッカー観れなくなりますね。観るとしたら寝静まった深夜か、ぐずぐずの間隙を縫ってちょろちょろ観るかしかない。まぁそんなデメリットが軽く吹き飛ぶぐらいに超可愛いんで毎日最高です。今年note書けるかは超怪しいですが、皆さん今後とも仲良くしてください。

 さて昨年1年ガンバ大阪のゲームレビューを書いたり書かなかったりで過ごしてきました。せっかくなので、記憶をたどりながら2019シーズンのガンバを振り返ってみたいと思います。以下よろしくどうぞ。

もくじ

 サブタイトルにも意味ありげに書いていますが、2019年のガンバを一言で表すなら「理想と現実のあいだ」で揺れたシーズンだったなぁと。まあ、どんなシーズン、どんなチームでも理想と現実の間で揺れているものなので、実は何か言っているようで何も言ってなくはあるのですが。笑
 ただ、2019年は特にチームの揺れが観ている我々にも伝わってくるようなシーズンだった気がします。

 そんなガンバの揺れを、大きく分けて4つに章立てしてみました。リーグ戦の勝ち点推移と合わせて図示すると以下の通りです。

キャプチャ

 上記の章立てに従って振り返りの方を進めていきましょう。

【第1章 9連勝追憶編】

 今期のシーズンプレビューで申し述べました通り、ガンバのシーズンは「対処療法に終始した9連勝のサッカーからの脱却」というテーマで始まったように思います。左利きのセンターバック・韓国代表のキムヨングォンを迎え入れ、「9連勝を達成したチームにボール保持を上積みし、主体的なサッカーで勝ち点を得る」というテーマに取り組もうとしていたように感じました。

 しかし、残念ながらその取り組みは頓挫してしまいます。要因の一つは選手のコンディション。年始に開催されたアジアカップに主力が選出された影響は大きかったと思います。三浦はスタメンCBの座を追われ、加入以降初の途中交代を経験しました。ウィジョに至ってはアジア大会にも出場しているので1年以上休みなし。6試合連続ゴールを決め2018ベストイレブンにも選ばれたストライカーは、ホーム神戸戦でのゴール以降実に11戦ものあいだ沈黙の時を過ごすことになります。

 加えてベテラン勢のコンディション低下も著しい状況でした。目立ったのは今野。開幕戦ではまさかのベンチスタート。9連勝を支えたダイナモに計算が立たず不安視されていた中盤の編成リスクが開幕から顕在化し、倉田のボランチ起用など当初の予定になかったであろうシナリオを組み込まざるを得ない状況に陥ってしまいました。

 もう一つは「9連勝の土台にボール保持を組み込む」という取り組み自体に構造的な無理があったのではないかという点です。9連勝を成し遂げたガンバの戦術を一言でまとめると、「ペナ幅の4-4ブロックで相手の攻撃に耐え、強力な個の能力を活かしたロングカウンターで刺す」というもの。ブロックを広げるための選手の配置・ローテーションなど、ボールを保持し前進するためのアクションとは対照的な要素が多く含まれていました。

 前線からのプレッシングや攻守の切り替えなど、本来であれば抜本的なモデルチェンジが必要になる部分をマイナーチェンジで乗り切ろうとしたことに先述のコンディション不良が重なり、その歪みは守備組織の崩壊という形で顕れます。ホーム4連敗、7戦勝ちなしという結果をもって9連勝は追憶として偲ばれることとなりました。

 【第1章 9連勝追憶編まとめ】
 11戦 
2勝2分7敗 勝ち点8(平均0.73)
 得点15 失点22

 【pickup match】
 数少ない勝利のうちの一つが、「ペナ幅の守備を徹底しいかにリスクを少なくするか」、つまり9連勝のサッカーをもっとも体現していたであろう川崎戦 というのが皮肉ですね。

【第2章 若手突き上げ編】

 失敗に終わった9連勝サッカーの発展をあきらめ、宮本監督が博打に打って出たのが12節の大阪ダービー。これまでトップでの出場機会がなかった福田・高江・高尾をU-23から呼び寄せ、ポジションとタスクを強く紐づけた3-5-2という新たなシステムを持ち込みます。これが功を奏し、倉田のゴールで7戦ぶりの勝利を得たガンバ。

 その後も、3-5-2のシステムをベースにしながらチームビルドを進めていき、大阪ダービーから6試合負けなしと明らかにチーム状況は改善。

 その中で推し進められたのが「世代交代」でした。この新システムにおいて中心となっていたのが矢島慎也。2018シーズン、鳴り物入りで加入しながらもクルピ前監督の信頼を得られずU-23に回され、後半戦はベガルタ仙台への期限付き移籍、移籍先での大怪我など苦しいシーズンを送っていた矢島でしたが、新システムにおいてもたらされた「アンカー」「インサイドハーフ」のポジションで水を得た魚のように躍動します。

 アンカーにおいてはロジカルな立ち回りでチームのボール保持を安定、インサイドハーフにおいては個気味よいターンとスペースへの嗅覚でボール前進に貢献、と目覚ましい活躍を見せます。彼の台頭を期に、ガンバは新たなソリューションで勝ち点を積み重ねていきます。

 矢島以外にも、ルヴァンカップで実績を積みトップチームのスタメン争いに名乗りを上げた食野亮太郎や中村敬斗などの新たな才能が出場機会を得る中、今野・ジェソク・米倉など、これまでのシステムで貢献していた選手たちが軒並み新システムに適合できず、序列が如実に下がっていったのは「世代交代」の象徴的な出来事でした。

 一方で、新システムにも課題はありました。それは得点の少なさ。6戦負けなしのなか、複数得点を記録したのはアウェイ松本戦のみ。新システムは後方の安定性をもたらしましたが、ボール保持の安定性を重視するあまりにペナルティエリアに送り込める人数が明らかに少なく、「ゴールからの逆算」という観点では欠陥がありました。複数失点でモメンタムを奪われてからは何もできなかったアウェイFC東京戦はまさにその課題が炙りだされた一戦だったと思います。

 この課題にメスを入れていくのかが中断期間の論点になる。そう思っていた矢先に「宇佐美貴史の復帰」がリリースされます。ガンバ育成組織が誇る希代のゴールハンターの加入でチームがどう変容していくのか、期待半分・不安半分で見つめていましたが、これが更なる嵐の前触れだったなんてあの時は全く思っていませんでしたね(遠い目)。

 【第2章 若手突き上げ編まとめ】
 8戦 
4勝3分1敗 勝ち点15(平均1.89)
 得点8 失点5

 【pickup match】
 この期間のベストゲーム投票をすると端緒を切り開いたセレッソ大阪戦に票が集まると思いますが、個人的に一番ワクワクしていたのはホーム鹿島戦の前半だったりします。

【第3章 放蕩息子編】


 田中達也移籍。
 ファン・ウィジョ移籍。
 中村敬斗移籍。
 食野亮太郎移籍。
 終わるはずのない夢が、次々についえていく。
 交わした約束は、露と消えていく。
 そんな時代の大きな変わり目に
 くるりが
 とても象徴的な1枚のレコードを出した。


(※元ネタ)

画像2

 2019シーズン夏の移籍期間において、ガンバは実に10人の選手を放出。オフシーズンに等しい選手の大移動が起こりました。戦術変更に対応できずに出場機会を減らしていたベテランやJ2に武者修行に出た若手のみならず、今期加入したばかりの田中達也、エースのファンウィジョ、新システムでウイングバックのポジションを勝ち取っていた中村敬斗など一定以上の出場機会を得ていた主力選手の離脱も相次ぎます。

 ウィジョ・敬斗の2人は海外移籍が規定路線だったのであとは時期の問題だったと思いますが、驚きだったのは食野亮太郎のマンチェスターシティ移籍。U-23でフォワード起用され得点感覚に目覚め、活躍の場をトップチームに移し、次代を担う活躍が期待されていた矢先の出来事でした。世代別代表への選出経験がない選手でも目を付けられている以上、若手をどのように戦力化していくかには今後も頭を悩ませることになりそうです。

 代わって入ってきたのは宇佐美貴史・井手口陽介というかつてガンバから羽ばたいていった選手たち。日本代表選出歴もある彼らですので実力は申し分ないはずですが、海外でコンスタントにプレー機会を得られていなかったこともあってかコンディションは悪く、また3-5-2のシステムの理解も進んでいないように見えました。

 彼らを使い始めたアウェイ名古屋戦からチームの調子は目に見えて悪化。5戦連続の引き分けを含む6戦勝ちなしで再び降格圏に肉薄します。天皇杯で大学勢相手に2年連続の苦杯を嘗めたのもこの時期。

 横浜Fマリノス戦では2点を先行され苦しい状況に陥った後に4-4-2のフォーメーションに変更。以降は4バックで戦っていきます。ルヴァンカップでFC東京を破り、鳥栖戦では試合の主導権をほぼ相手に握られながらも終盤のゴールで勝利をもぎ取るなど一定の成果を挙げますが、アウェイの大阪ダービーで1-3と完敗を喫したところで4バックへのチャレンジは終了。

 この時期のガンバは「迷走」という言葉がぴったり当てはまる状況だったと思います。宇佐美をインサイドハーフに回してみたり、井手口をアンカーに置いてみたり、成果が出ないとみれば4バックに並べ替えて三冠よろしくのウサパトいってこいサッカーをやろうとしてみたりなど、チームの軸が定まらず右往左往していた印象です。

 当時は、何故成果が出ていないにも関わらず彼らを使い続けているのか疑問でした。戦術に適応できない選手は過去の貢献度が高くてもバシバシ干していたのが今期の宮本監督だったので、ダブルスタンダードじゃねえか、と憤ったりしたものです。

 で。シーズンが終わった今になって、あの時期の迷走は「ポスト遠藤」を見据えたマネジメントだったのではないかと思うようになりました。

 海外移籍の可能性も低くなった宇佐美は、今後パフォーマンスが落ちるまで長くガンバに居続けることになるでしょう。ほぼ間違いなく、遠藤がいなくなった後に「ガンバの顔」になる選手です。それはピッチ内だけではなく、ピッチ外でも。ピッチ外における遠藤への依存は、ガンバにとっての経営リスク。安定した経営を続けていくためには、あとを引き継いで「顔」となるべき選手が必要だとクラブは考えているはずです。

 そんな宇佐美は、ガンバに戻ってくる時に「インサイドハーフをやりたい」とのたまっていました。彼がいた時は常にタイトルに絡んでいたのがガンバなので、「自分ならこうできる」「こういうサッカーをすればいい」という考えが宇佐美の頭の中にあったんじゃないかと思います。

 ただ、宇佐美自体、器用さとか賢さとかで売ってきた選手ではありません。そして、そういう選手が考える小手先が通用するような環境ではないのが今のJリーグだと思います。

 これから長くガンバでやってもらうためには、小手先のあれもしたいこれもしたいでは困るんです。なので、宇佐美には甘っちょろい憧憬をスパっと諦めてもらう必要があった。お前はこれだけやってりゃいいんだと、"誰に言われるでもなく自分で"納得する必要があった。その「納得」にかけた時間があの低空飛行だったんじゃないかな、と、自分は考えています。

画像3

(稀代の名言。4部の次に7部が好き)

 【第3章 放蕩息子編まとめ】
 8戦 1
勝5分2敗 勝ち点8(平均1)
 得点11 失点14

 【pickup match】
 この時期のことはあんまり覚えてない()んですが、大阪ダービーで負けたのは効きましたね。あれをちゃんと「意味ある負け」にできたのは良かったと思います。当時はブチ切れてましたけど。

 あと、スサエタ。鳥栖戦で交代出場して圧倒的なインテリジェンスを見せましたが、大阪ダービーでのスタメン起用で結果が出ず、以降ほぼベンチを暖めることに。トニコーチ、コンチャ、スサエタとスペインの風入れてみよう作戦は失敗でしたね。うん、次はイタリアでいこう()

【第4章 俺たちの戦いはこれからだ!と思ったらシーズンもう終わりだよ編】

 ぶっちゃけこの記事で書きたかったことは第3章までで大体書いたので4章はざっくりいきます。笑 私の想像通りのプロセスかどうかはさておき、大阪ダービーの敗戦を期に、結局一番結果が出ていた3-5-2のシステムに戻ります。

 戻した札幌戦でチームの得点力が爆発。後半に一挙5点をぶち込み、低空飛行していたガンバが息を吹き返します。続くルヴァンカップの札幌連戦ではアウェイゴールの差で決勝進出のチャンスを逃しましたが、チームの調子は明らかに上向きました。

 宇佐美の起用ポイントはFWで固定されるようになりました。井手口も同様でインサイドハーフに固定。チームが持つ「異能≒強み」をどのように作用させるかという点についてようやく整理が済んだ感のある終盤のガンバ。禊を済ませた宇佐美は自らの非凡なシュートセンスを再認識しフィニッシャーとして躍動し月間MVPを獲得。井手口もコンディションの向上に伴いチームの綻びを覆い隠すほどの戦術兵器として機能するようになります。

 加えて、チームの狙いも浸透し、オートマティックに狙いを共有できるように。2019シーズン連勝が一度しかなかったガンバですが、最後ははじめての三連勝でシーズンを終えることになりました。チームの狙いについては、以下仙台戦の記事で色々まとめておりますのでご参考ください(こいつ途中で書くの面倒になったな……?)

 ただ、最終3戦の相手は所詮残留争いの下位相手と言ってしまえばそれまでのこと(最終中位までのぼってこれたからフカせてますご容赦ください)。できれば、ここまで整理された時点で上位勢とぶつかってみて、出てきた課題を洗い出して更なる改善に繋げる、と進めていきたいところでしたが、三連勝を果たしたところでシーズンは終了。宮本先生の次回作にご期待ください!

 【第3章 俺たちの戦いはこれからだ!と思ったらシーズンもう終わりだよ編まとめ】
 7戦 5
勝1分1敗 勝ち点16(平均2.29)
 得点20 失点7

 優勝争いペース!(前シーズンもね!(小声))

 【pickup match】
 ホーム最後の松本戦は現地観戦しましたがめちゃくちゃ気持ちよかったですね。ビールうまかった。序盤は松本の勢いにやや押されるシーンもありましたが、小野瀬の先制点が素晴らしかった。

 今期の小野瀬はいつもチームの勇気を奮い立たせるようなゴールばかりを決めていた。プレーでチームを引っ張れる選手。チームの変化にフォーカスを当ててる記事だから、「変わらず良い選手」についてはあまり触れてこなかったけど、小野瀬、愛してるぜ。

あとがき『来シーズンのチームについて俺達がギャーギャー言っても多分鬼は笑わない』

 以下は思うがままにバーッと書き散らしてみた文章です。本当はもう少し推敲したかったですが、もうお正月休み終わるので!!!笑

 ツネ様って結局どうだったのかと問われると、キャスティングに悩み、キャスティングに助けられるような1年だったなと。4-4-2⇒3-5-2の移行もそう。個々人の能力と相手とのパワーバランスを見極めて見取り図を引く能力には長けていそうだけど、この考え方で勝ち続けるには必要な選手を次々取ってきて監督の要望に答え続けることが前提になる。

 んでそれは競争環境上たぶん無理。なので、仕込みで選手をもっと輝かせられるようになれるか?がツネ様の指導者としての伸びしろ、ひいては、ガンバの伸びしろになるんだろう。

 ピッチ上の出来事を見る限り、現在のツネ様のやり方は「個々人のできそうなことのちょっと上にタスクを設定してハードルを突破⇒成長!」って感じな気がする。U-23組とか、矢島・小野瀬とか。今期に関して言えば東口とかからもそういう雰囲気が見える。

 ただ、仮にこのやり方だとすると、相当リソースがあってかつ慎重にやらない限り取り組むタスクの具体性に個々人の濃淡が出るので、結果としてモチベーションの濃淡にもつながる。「冷めた選手が多い」なるコメントが選手から出てくるのも、なんとなくうなずける。

 上記の「仕込みで輝かせられるか」の部分とも絡むけど、常に強くありたいのであれば「選手をファナティックにできるか」がは最低限の要件になると思う。上述の仕込み方でも、カリスマ・マネジメントで引っ張るということもできなくはないが、「勝ち続ける」とほぼ同義なので、そこによりどころを持たせるのは現実的に難しい。

 王道を行くのであれば、ビジョンを作り、何か新しい・何か違う・何か素晴らしいプロジェクトにトライする、「俺たちは面白いことをやってるぞ」って選手に思わせるというやり方になるのかなと(実際に面白いかどうかは別)。サポーターとしても、そのほうが楽しいよね。

 「サポーター」からの連想で、「選手をファナティックにできるか」、いまもう一つ手段を思いついた。「スタジアムを満員にすること」。サポーターでだってゾクゾクするんだから、あのスタジアムに満杯の人が入って血が震えない選手はいないと思う。チームが強くなったら客が増えるかどうかはわからないけど、客が増えたらチームは強くなりそう。

 横浜がリーグ優勝、神戸が天皇杯優勝ということで、Jリーグの競争環境が大きく変わるのではと見る向きもあるが、欧州の競争が再生産されるのであれば結局は集まってくるお金の多寡に収斂するのではないかなーとも思う。

 そういう意味でもちゃんとしたハコ持ってるガンバにはまだ競争優位はあると思うので、ピッチ内とピッチ外両方の取り組みに注目していきたい。2019シーズンは過去最高の入場者数をカウントということで、事業面では着実に伸びている感のあるガンバ。だがあくまで漸進的な成長に過ぎず、爆発的な収益増を果たすためにはなんか別のスキームが要るんだろうなぁ。

 今年は息子をパナスタに連れていけるかしら。

 というわけで、今年もよろしくお願いします。

 ちくわ(@ckwisb

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