2022ガンバ大阪シーズンレビュー前編:経験に学ぶ話
ワールドカップもあってほったらかしにしてましたが、ガンバ大阪の2022シーズン振り返りをやっていきたいと思います。
9勝10分15敗の勝ち点37で15位。得点33、失点44、得失点差は-11となりました。一時は自動降格圏に足を踏み入れましたが、最終4戦4試合連続のクリーンシート、2勝2分で勝ち点8を積み上げ、何とか最終節の結果をもってギリギリで残留を確定させています。
とにかくいろいろあったガンバの一年を振り返っていくために、以前にも登場した私の精神の中に住むイマジナリーフレンド、はんぺん君を召喚したいと思います。ヤー!
△はんぺん:お久しぶりやで。
◎ちくわ:今年もよろしくお願いします。
片野坂体制3つの問題
△はんぺん:片野坂体制、サポーターからの期待も大きかったけど、残念ながら2年連続のシーズン途中解任という結果に終わったな。
◎ちくわ:就任会見では「3位以内&勝ち点60」という、前年と比較するとかなり強気の目標設定を行っていたね。
△はんぺん:上記の記事によると「クオリティーの高い選手はそろっている」「強度の部分、戦術の共有や徹底の部分でまだ改善の余地はある」と述べられていて、課題を解決すれば一気に順位を上げられるポテンシャルがあった、という認識だったみたいやな。でも実際にはそうはならなかった。なんでなんやろか?
◎ちくわ:片野坂体制がうまくいかなかった理由については、複合的な要素があってなかなか特定は難しいと思うけど、ここではあえて「編成の遅れ」「戦い方のブレ」「不運」という3つの要因をまとめていきたい。
①編成の遅れ
◎ちくわ:まず1つ目の「編成の遅れ」。後述するが、ガンバは相当早い段階で片野坂監督への一本化を決めていたようだ。が、実際に片野坂監督が大分を退任したのは12月20日、ガンバへの就任発表がされたのも12月23日。
△はんぺん:大分トリニータが天皇杯で決勝まで進んでいたしな。
◎ちくわ:早々にシーズンを終えていた他のクラブと比べると、3週間ほど遅れてシーズンの準備に着手したことになる。この遅れは、ガンバの編成にも大きな影響を与えていたとみられる。片野坂監督は天皇杯を勝ち上がっていたので、おそらく具体的な補強要望などは出せていなかっただろう。「現有戦力の保持を第一に」というメッセージを出していたようで、監督主導による大きなスカッドの入れ替えはなかった。
△はんぺん:シーズン開始前だし、ツイートがポジティブなのが切ない。
◎ちくわ:上記のツイートに書いての通りで、頭数はしっかり揃っているし、いろいろなフォーメーションに対応できる雰囲気もあり、バランスのいいスカッドではあったと思う。ただ、これはあくまで「強化側がそう考えた」というだけで、実際に片野坂監督がそう思っていたかはわからない。
△はんぺん:片野坂監督のサッカーは、「疑似カウンター」が代名詞になっている通り、GKも含めて自陣に相手を引き込んで作ったスペースを攻略していくという、やや特殊な形を志向していた。
◎ちくわ:スカッドのバランスはよくても、片野坂監督が志向するサッカーに対応できる人材を揃えられていたわけではない。蓋を開けてみると、外国人助っ人をはじめとした片野坂監督の信頼を得られないメンバーはシーズン序盤から続々と出番を失い、バランスが良かったスカッドもどんどん歪になっていった。
△はんぺん:監督の志向するサッカーに合わせて、強化部が率先してスカッドを更新していく必要があったのかもしれんな。
◎ちくわ:ただ、単純に編成が遅れただけではなく、実際には片野坂監督がチョイスした戦い方にも問題の一端はあったと考えている。
②戦い方のブレ
◎ちくわ:先ほど片野坂監督のサッカーを「疑似カウンター」と称したけど、実際にピッチで起こっているプレーを見るとそうなっているとは言い難かった。初勝利した浦和戦、勝利まであと一歩と迫った川崎戦など、結果が出た、あるいは出そうになった試合の多くは、相手のボール保持構造に合わせたプレッシングプランがハマった試合だった。一方で、昇格組の京都・磐田との試合など、相対的な力の差から自分たちがボールを持てる試合ではなかなかゲームを動かすことができず、先制されてから選手交代でパワープレーに切り替え、何とか勝ち点をもぎ取るようなゲームもあった。
△はんぺん:試合ごとの振れ幅が大きすぎたように感じるな。
◎ちくわ:選手が求めていたのは、いわゆる"ボールを保持して相手を圧倒するサッカー"なんだろうけど、結果が出ているのはそうではないゲームばかり。片野坂監督としては両方を統合したかったのだろうが、そのために取ったのが「要求水準に合う選手だけを起用する」ことだった。ただ、そうなるとスカッドを監督の要求に合う形で組んでいるわけではないので、前述の通りスカッドは縮小し、過密日程の中でコンディションも悪化。ゲームプランを履行する以前の試合強度の部分で勝てず、スタートから後手を踏んでしまう状況に陥っていく。
△はんぺん:今年のJ1に関して言えば、トランジションを制して前半戦の主役になった柏や、選手層を活かしてプレータイムをコントロールし最後まで強度を落とさなかったマリノスのように、試合強度……言い換えれば、球際やサポート、トランジションへの一歩目の速さなど、アスリート的な要素で相手を上回れているかどうか、がトレンドの一つになっていたと思う。使える選手の幅を絞ったことで、結果的にはそこに逆行するような方針になってしまっていたな。75分以降の失点がことさらに多かったのも、こうした強度不安が影響していたような。
③不運
◎ちくわ:最後に挙げるうまくいかなかった要因は「不運」。片野坂監督、とにかく運がなかった。一番はもちろん宇佐美貴史の離脱。彼を中心に据えてチームを作っていく意図を内外に隠さず、ゲームプラン、精神面のどちらでも柱になるべきだった宇佐美が開幕3戦でシーズンアウト級の怪我を負ってしまったのは全くの誤算だったと思う。
△はんぺん:彼のいるいないで実行できるゲームプランの幅もだいぶ変わっただろうしなぁ。
◎ちくわ:受傷時点ではまだ移籍マーケット自体は空いていたけど、どのチームも編成は固まっているし、外国人も枠が埋まるぐらいにはいるし、なかなか手当をしづらいタイミングであったのもつらかった。加えて、ワールドカップの影響で前半戦のウエイトが大きく、人を変えてチームを変えるにあたって使える試合の数が少ないのもつらかった。加えて言えば東口の怪我もそうだし、コロナのクラスターが開幕前に起きたこともそう。
△はんぺん:ただ、色々と不運な出来事が起きていくなかで、首脳陣・強化部の側でもできることはもっとあったような気がするな。当初目標と実際起きたことを踏まえて、目標を修正できていたのか?ギャップを埋めるためにやることを共有できていたのか?とか。
◎ちくわ:当初の目標とギャップが出過ぎてしまったことで、目先の勝ち点を取りに行くのか、やりたいことを愚直に守るのかで迷い、視野が狭くなってしまっていた可能性もある。更に片野坂監督にとって罠だったのが、選手のコメントなど様子を見る限りでは、片野坂監督の求心力が最後まで落ちてないように見えること。以前どこかで話した気がするけど、片野坂監督はカリスマでチームを引っ張るというよりは、選手の話を聞いてエンパワーメントする、サーバント型のマネージメントスタイルを取っていそうだと。そうなると、監督は選手にとっては多分「いい人」なんだろうし、明確なゲームプランも持っているから能力も示している。結果は出ないのに構造的に監督に不満を述べられる状況になく、茹でガエルのような状況に陥っていたんじゃないかなと思う。
監督交代:チームビルディングと目標設定の難しさ
△はんぺん:そうなった時点でスパっと監督を切る選択肢もあったけど、結果的には、ギリギリの瀬戸際、残り10戦まで"我慢"した上で松田監督に変え、何とか残留に漕ぎつけたな。前任者とはうって変わって、4-4-2のゾーンで守ってカウンターやセットプレーで得点を稼ごう、ボール保持は無理にバランス崩さずに蹴っ飛ばすところは蹴っ飛ばして、というスタイル。
◎ちくわ:こうやって振り返ると片野坂監督ができなかったことから逆算して松田さんのやったことが作られているのが分かる。高い要求に対応できるメンバーを選抜しスカッドを圧縮していった片野坂監督と、要求レベルを下げスカッドの総出力を増やしていった松田監督。ピッチの中を見れば正直に言って下げた要求レベルでさえ実行できてないこともあったように思うけど、何とか帳尻は合った。
△はんぺん:何度終わったと思ったか。
◎ちくわ:ふたりの監督の明暗からは、チームビルディングと目標設定の難しさを改めて感じた。もちろん、現状で目標を達成できるだけのポテンシャルがあるなら、「できることを愚直にやる」ことだけを考えていればいいと思う。ただ、それを上回って高い目標を達成しなければならないとしたら、「できることを広げる」必要がある。そうなると、「組織を作りなおす」とか「個人のレベルを上げる」といったチャレンジに踏み込まなければいけない。シーズンの結果だけを見れば、片野坂監督よりも松田監督の方がうまくいった。ただ、「できることを広げる」オーダーを受けていたであろう片野坂監督と「できることを愚直にやる」ことが求められた松田監督を単純比較はできない。ガンバが上位争いに踏み込むためには、「できることを広げる」をどう実現していくかかに向き合う必要がある。
△はんぺん:片野坂監督の下では実現できなかったけど、来期のガンバがそれを実現できる体制になることを祈ってます。
長くなってきたので、後編へ続く!
ちくわ(@ckwisb)
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