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開戦と同時に降伏宣言 #2

私は、冬場に異世界と出会ってから、1ヶ月に1度くらいのペースで異世界への時間旅行へと出かけるようになった。本当は毎日行きたいくらいであったが、もちろん無条件で異世界へと行けるわけではない。

異世界でも、この世の中と同じく「円」という通貨が採用されている。どこかの地下帝国の「ペリカ」ではなかった。

その世界には20人近くの先住民たちがいるのだが、私は最初に現世で案内をしてくれたその人と、異世界では会うことが多かった。
後から知った話だが、同じ異世界の中で、違う先住民と会うことは異世界では禁忌とされているそうだ。私は一度、その禁忌を不覚にも起こしてしまったが、不慮の事故的な要素も大きかったため、お咎めなしに終わった。

そんな通いに通った異世界で、あるイベントが開催されることとなった。

私を異世界へと連れてきた案内人が、誕生日を迎えるにあたって、盛大に誕生日会が2日間に渡って開かれるというのだ。

そして、その誕生日会ののち、異世界から現代へ引越しをするらしい。つまり、その案内人と異世界で会えるのはそれが最後となりそうだ。

私は、地元への帰省予定を1日短くし、案内人の誕生日会へ向かうこととした。

誕生日に欠かせないものといえばプレゼントだ。私は、独居老人なのでお金を持て余しているわけではないが、自分の中でこれなら喜ばれるかな?という程度のものをチョイスし、購入した。

そして夜を迎える。帰省した私はそのままの足で向かう。スーツケースはコインロッカーに入れて。プレゼントと多少の手荷物を手に。

久しぶりに開く、真っピンクの扉。その扉を開くと、今までに見たこともないほどの現代人が、室内に詰められている。そして、それに合わせるように案内人の女性の数も今までの倍近くいた。

元々、その世界は規模感が小さく、すぐに人でいっぱいになってしまうほどの規模感ではあるものの、驚きだ。

室内の内装も通常の内装ではなく、誕生日スペシャルということで、案内人仕様となっていた。

そう。私も1人の案内人に会いにいったわけだが、その1人のためにこの大人数が来ていることを考えると、ただただすごい。一体どれだけの愛嬌を振りまいたら、どれだけの人望があったらこれだけの人が集まるのか。私はおそらく、今死んだとしても、葬式にこれだけの人数集まってもらう自信すら湧かない。

独特な感性で、現代人の多さに感心していると、今日の主役がやってきた。私は早速、数時間前に購入した誕生日プレゼントを渡す。初めて会ったあの日のように、屈託のない笑顔で受け取る姿を見て、かなりの安心感を覚えたことはここに記しておく。

しかし、私ばかりに構っている暇もなく、数十分後には別の卓へと移動する案内人。

異世界と呼んでいた理想郷が瞬く間にして戦地へと化し、伏兵の1人が殉職を決意するのは、今から鳴る開戦の合図がきっかけだった。

#3へ続く。




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