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無敵の微笑みを見るまでの10年 その2

初めてロビンソンを聞いてから、頭の中からあのメロディと歌詞が離れない。国語が得意だった私は、文章の意味を考えることが好きだったのだが…

「誰も触れない二人だけの国 君の手を離さぬように 大きな力で空に浮かべたら ルララ宇宙の風に乗る」

全くをもって意味がわからなかった。これは、前の歌詞を聞けば何かわかるかもと、少年ながらに考えた私は、大量のCDの中からスピッツを探した。必死に探して出てきた1枚が、「RECYCLE Greatest Hits of SPITZ」というCDだった。慣れた手つきで5曲目のロビンソンまでボタンを連打する。表示が「5」になった瞬間、あのイントロが流れてきた。

心地よいイントロ。このまま一生眠れそうだった。今となっては、この前奏で白飯が食えるのではないかとすら思っている。

「新しい季節はなぜか切ない日々で 河原の道を自転車で 走る君を追いかけた 思い出のレコードと大袈裟なエピソードを 疲れた肩にぶら下げて しかめっ面眩しそうに」

クリアな情景。自分が憧れるまさに「青春」のようなものが頭の中には思い浮かんだ。疲れた肩にぶら下げるという表現もなんか好きだ。

「同じセリフ同じ時 思わず口にするような ありふれたこの魔法で 作り上げたよ」

このフレーズの後、サビに入るわけだが、「君の手を離さぬように」まではなんとなく情景が浮かぶのだが、なぜ、空に浮かんで風に乗るのだろうか。CDプレイヤーの前で1人の少年の頭がオーバーヒート。「筆者の気持ちを考えなさい」系の問題に自信を持っていた少年が、完膚なきまでに叩きのめされた。

そして同時に、こんな綺麗な高音が男性から出ているという衝撃。言葉にできないけれど、一生聞いていられるようなメロディに対する衝撃。そして、解読難攻不落の歌詞に対する衝撃。その全ての衝撃が、私の中の「ガーンとなったあのメモリー」である。

2階にある自分の部屋から1階のダイニングへ階段を勢いよく降りる。
「ロビンソンの衝撃」を母親に真っ先に伝えた。

母親は驚いた表情で、「ロビンソンのスピッツかあ」とだけ呟いた。
「違う!スピッツのロビンソンだよ!」真っ向から否定する私に、
「知ってるよ。そのうち意味がわかるよ。でも懐かしいわスピッツ。」
と、笑いながら一言。
「他の曲も聴いてごらん。いい声してるから。」

この後、深夜になるまでCDプレイヤーの前に居座り、ひたすらスピッツを聴き続けた。聞けば聴くほど沼っていく。毎曲の衝撃の数々に興奮がおさまらなかった。

しかし、この出会いを通した衝撃と興奮を、私はしばし隠して生きていくことにした。

その3へ続く。



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