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いま一度、翻訳出版で作品を日本に広める意義を考えてみた

いま、サウザンブックス社と一緒に実施しているクラウドファンディング
作品は、台湾のドキュメンタリー映画監督が、自分の作品を書籍化したものだ。どんな内容の作品かというと、長年母親と同居しているが、コミュニケーションを取らなくなって久しい娘(監督)が、母親のことを理解しようとカメラを向け、さらに母親の兄弟や恋人たちにも話を聞き、最終的に自分の思いをぶつけるという作品だ。ちなみに母親は女性が好きな同性愛者である。

書籍の方では、母親は女性が好きなのにどうして男性と結婚し、子供を産んだのか、そしてまだ台湾社会が同性愛者に不寛容だった時代に、DV夫から逃げ出し、シングルマザーとしてどのように生きてきたのか、が赤裸々に描かれている。

ちなみに母親は1950年代生まれ。生業は牽亡歌陣という、亡くなった人の魂がきちんと成仏できるように導く陣頭(これまた台湾特有の文化で、何とも説明が難しい…)を率いる、紅頭法師(祭司)である。日本ではまずお目にかかることのないこの台湾土着の葬送文化も、葬儀の簡略化と共に消滅の危機に瀕している。そして娘(監督)は今、40代だ。

面白い作品だし、きっと沢山の人に興味を持ってもらえるだろうと思っていたが、思ったようにお金が集まらない。All or Nothingのクラウドファンディングなので、目標金額が集まらないと不成立となり、出版ができなくなってしまう。大変だ。

8月からクラウドファンディングをはじめ、作品のもつ様々な要素をもう一度見直してみた。そして、気付いたことがいろいろとある。

まず、台湾作品にかかわらず、
・中高年女性がメインテーマの作品はフィクション/ノンフィクションともに少ない(若い世代/中高年男性がメインテーマの作品は多い)
・レズビアンについてのノンフィクションは少ない(ゲイ作品は多い)
・性的マイノリティにかかわる親子問題について、親が当事者である作品は少ない(子供が当事者である作品は多い)

そして台湾作品に限って言えば、
・陣頭文化、葬儀文化を扱った作品は少ない
・ほぼ100%台湾語の映像作品は少ない

あ、性的マイノリティに寛容な台湾であっても、上記「台湾作品にかかわらず、」の3項目は台湾作品にも当てはまるということは念のために書いておく。

実施中のクラウドファンディングが成立して、この作品が日本語化され、世の中に流通することの一番の意義は「可視化」だ。社会的弱者の声を世の中に発信することにある。

でも、もっと大きな視野でとらえるなら、世の中に向けて
「もっと台湾に関する台湾発の情報/作品が欲しい」
「もっとマイノリティに関するマイノリティ発の情報/作品が欲しい」
というニーズを、そういった作品が世の中に足りてないよ、ということをアピールすることにつながることにもなる。

中高年女性の話だから、レズビアンの話だからと、何となく男性諸氏が遠巻きになってしまうのは、何となくわからなくもない。でもね、本当にそれでいいのかな?女性もそれでいいのかな?

先日、早稲田大学の演劇博物館に企画展「Inside/Out  ─映像文化とLGBTQ+」を見に行ってきた。

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内から見るか、外から見るか、それとも──。
性の視点から映画やテレビドラマの歴史を紐解くと、目の前に広がるのは男女の恋愛物語だけではありません。そこには同性同士の恋愛や情愛、女らしさ/男らしさの「普通」に対する異議申し立て、名前のない関係性などを描いた物語が存在します。
2010年代には、「LGBTブーム」を契機にLGBTQ+の人々を描く映像作品が次々と製作され、性について、また「普通とは何か?」について考える機会が増えました。本展では、戦後から2020年初めまでの映画とテレビドラマを主な対象に多様なLGBTQ+表象に着目し、製作ノート、パンフレット、スチル写真、台本、映像などの多彩な資料とともに歴史を振り返ります。
いまを生きる私たちが一度立ち止まり、過去の物語と現在を繋ぎ合わせることで、様々な性や人間関係のあり方を尊重する、映像文化の魅力を改めて認識する機会となる事を願います。

——企画展のサイトより

すごく興味深い展示だった。映像作品の果たしてきた役割の大きさを実感しつつも、やっぱり、というか残念というか、LGBTQ+における「女性」「中高年」の存在の可視化はまだまだという現実も再確認。まあ、ただでさえ中高年女性って、なかなか映画のヒロインにはならないものだしね。「(敢えて)おばさん映画」ってそもそも少ないんじゃない?との興味から、今週金曜日(10/30)にはこんなトークイベントを企画している。

イベント2

…求ム!いけてる「おばさん映画」情報!

というわけで、クラウドファンディングは残り20日。今ちょうど1/3を超えたところなので、ここまで読んで、興味を持ってくださった方、ぜひご支援お願いします。

CFよびかけ


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