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天下御免の向こう見ず『共生』『犬神家と機関銃の復活の証明』【8月号 爆笑問題 連載】

<文/太田光>

共生

「帰れ!」と書かれた紙がテレビに映し出される。ワイドショーのコメンテーターが「悲しくなりますね。自粛警察などと言いますが、もし自分がこれをやられたらどういう気持ちになるのか? コロナは誰もが感染する可能性があるわけだし、警戒する気持ちは分かりますが、さすがにこれはない。人としてどうかと思いますよ…このウィルスは共生することが…」
男はテレビを消し、舌打ちをして床に寝ころがった。
「何が共生だ! 冗談じゃねぇ。勝手なこと言いやがって」
東京の連中はこれだ、と男は思う。政府もテレビ局も田舎に住む自分達の気持ちなど理解出来るはずない。男は座布団を被る。クーラーをつけてはいるが窓を開けてるので、暑い。嫌なイメージが頭をよぎり、眠りたいが寝付けない。最近はずっと外に出ていない。近所すら歩かない。人の目が気になる。ずっと家の中で息を潜めている。声のしない声に責められている気がする。
「ケケケ」
突然ヘンテコリンな笑い声がした。
「誰だ?」
起き上がり部屋の隅の薄暗がりを見つめる。
「ニャにを後悔してるんだニャ?」
ぼんやりと浮かび上がったのは白い影だ。目が慣れて見えてきたのは奇っ怪で白い小さな動物だった。耳が長くてウサギのようだが、顔は完全にネコのウサギネコだ。
「で、出てけ!」
「ケケケ、大丈夫だニャ。おれは東京から来たわけじゃニャイニャ」
何でこんな所にノラネコが? どこから入ったのか?
「失礼ニャ! おれはネコじゃニャイ! ウサギだニャ! 安心しろ。ウサギは感染しニャイ。ネコはするみたいだけどニャ…ケケケ」
「…ウサギ?」
「あれ書いたのおまえだよニャ?」
男の心臓がドクンと響いた。
「ケケケ、みんニャ知ってるニャ。昔からの馴染みだニャ。字を見ればわかるニャ」
「うるさい」
「後悔ニャンかすることニャイニャ」
「黙れ! 誰が後悔なんか…」
男は確かに後悔し始めていた。自分が薄汚い自分勝手な人間のように感じる。どうしてこんなことになったのか? いつからこんなことになったのか? 自分は正しくなかったのだろうか?
「誰が正しいかニャンて、誰にもわからニャイニャ。おまえはもういい歳だニャ。うつりたくニャイのは当然だニャ」
男は立ち上がりウサギネコの耳をつかんだ。
「フギャ! ケホ、ケホケホケホッ」
「うわっ!」
思わず投げ出した。
「フギャ!」
ウサギネコは壁にぶつかりズルズルっと床に落ちる。
「フゲゲ…心配するニャ。空咳だニャ。ケケケ」
男は思わず床にへたり込んだ。
「誰もお前を責める資格ニャンかニャイニャ。みんニャお前と同じ気持ちニャンだからニャ」

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