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押井守のサブぃカルチャー70年「YouTubeの巻 その4」【2022年3月号 押井守 連載第39回】

本連載のクライマックスとも言える、押井さんがYouTubeを語るシリーズも第4回。推しに推す『Fラン大学就職チャンネル』やナカイド氏について、また彼が配信する別のチャンネルについて徹底考察します。
取材・構成/渡辺麻紀

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『クレヨンしんちゃん』の野原家の生活を解説している回は本当にオススメです

――先日から始まりました押井さんのYouTubeを語るシリーズ。今回は「ナカイド」という方のチャンネルですね。

最初に紹介した『Fラン大学就職チャンネル』は、ナカイドの関連で入ったんだよ。彼が『Fラン友の会』というチャンネルをやっていたからなんだけど、彼の強みというのは自分自身もFラン大学出身者ということ。ずっと引きこもりで高校も中退。資格試験をとって進学したけれど、Fランクの大学だったというわけです。
彼が引きこもりだったことは、彼のいる部屋の様子でわかるんです。おかあさんがスーパーかどこかで買ってきたであろうたくさんのシャツが椅子の背にかかっていたり、押し入れの衣装箱から服が飛び出していたり、いかにもの引きこもりな生活空間が、喋る彼のうしろに拡がっているんです。
とはいえ、引きこもりだったからといって、チャンネルはしっかりしている。大体、自分の経験というので説得力が違うわけです。

――ということは『Fラン大学就職~』はリサーチ能力から生まれるリアリティ、ナカイドさんのほうは実体験からのリアリティですね。

そうです。わたしがFランという言葉を知ったのもこのチャンネルのおかげ、彼らの生態が面白いと思ったのもナカイドのおかげです。Fラン大学生というのはどういう人間なのかを痛切に語ってくれる。
何となく流されて日々を生きている、自分の人生の主人公になれない人たち。日々の快感原則に沿ってゲームをやったりパチンコをやったり。パチンカスの実態も詳しく喋っているからね。まさに受動的娯楽の典型です。

――パチンカスって、パチンコばかりやっている人のことですよね? 上手い表現ですね。

何度も言うけど、そういう上手い表現や言葉が転がっているのがYouTubeですから。誰かが言い出して、それがよければ広まるし、広まりすぎれば飽きられてしまう。最近、親戚の20歳くらいの娘に「激おこぷんぷん丸」という言葉を使ったら「そんな言葉、もう使わない」って言われたけどさ(笑)。

――その言葉、どこかで聞いたことがありますね。

あとは「親ガチャ」とかね。これはナカイドくんもよく使っていて、広めるのに一役買ったんじゃないかな。
まあ、それはさておき、ナカイドくんはFラン生の生態を紹介していて、サークル活動もしなければ、授業にもまともに出席しない。必要最低限の社会生活しかやらないので、4年間のつけが溜まって、あるとき決算を迫られる――って、喋り倒しているんです。
もちろん、そうならないためにはどうすればいいのかも懇切丁寧に説いてくれている。ヤバい先輩の見分け方とか、自分に都合のいい情報しか得ないような生活からの脱却法とか、さらにはどうやって自分に対する客観性をもつのか? 来年からやろうじゃなく、明日からでもなく、今からやらなきゃダメだとも言ってくれる。そういうことを、自分の体験談や目撃談をもとに喋ってくれるから、大変面白いし説得力があるわけです。
そういう意味では啓蒙家でもあるんだけど……もちろん、本人はそんなことは考えてないだろうし、そういうふうには作ってない。教育的指導でも啓蒙的でもなく、ちゃんとエンタメとして成立させているところがいいんです。
それに、このナカイドくん、声が大変よろしくて、ルックスも今どきで悪くはない。そこもポイントです。

――押井さん、いまちょっと見てみましたが、確かにこの声はとてもいいですね。流れるように喋っていますが、これは脚本があるんですよね? 編集もちゃんとしているようだし。

そういうところに手を抜いてないのは基本の基本です。流れるように喋っているように聴こえているのは、噛んだりした場合は繰り返し編集しているから。噛もうが平気で流しているのはダメです。少なくともわたしの場合は、そういうやっつけ本番みたいなのは敬遠する。もっと真面目にやってくれよと言いたくなる――と言っても、無料で好き勝手観ているんだけどさ(笑)。それはわたしたちが作る作品にも言えるんですが、それはまた次の機会にして、何が言いたいかというと、ちゃんとこのナカイドくんは努力している人なんですよ。

――この声と流れるように喋っているのがいいですね。

彼が『クレヨンしんちゃん』の野原家の生活を解説している回があって、これは大変面白かった。しんちゃんの家族構成等、知ってる?

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