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『TENET テネット』『マーティン・エデン』映画星取り【9月号映画コラム③】

今回は、前評判の高い『TENET テネット』と『マーティン・エデン』。やはり高評価連発です。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

<今回の評者>

渡辺麻紀(映画ライター)
わたなべ・まき●大分県出身。映画ライター。雑誌やWEB、アプリ等でインタビューやレビューを掲載。押井守監督による『誰も語らなかったジブリを語ろう』『シネマの神は細部に宿る』『人生のツボ』等のインタビュー&執筆を担当した。
近況:相変わらずストリーミングしています。いまは『ルーサー』の第5シーズンです。
折田千鶴子(映画ライター)
おりた・ちづこ●栃木県生まれ。映画ライター、映画評論家。「TV Bros.」のほか、雑誌、ウェブ、映画パンフレットなどで映画レビュー、インタビュー記事、コラムを執筆。TV Bros.とは全くテイストの違う女性誌LEEのWeb版で「折田千鶴子のカルチャーナビ・アネックス」(https://lee.hpplus.jp/feature/193)を不定期連載中。
近況:相変わらず、いや、とみに? 小説の映画化が多くて、取材のたびに原作その他を読むのに時間が足りないっ!!
森直人(映画ライター)
もり・なおと●和歌山県生まれ。映画ライター、映画評論家。各種雑誌などで映画コラム、インタビュー記事を執筆。YouTubeチャンネルで配信中の、映画ファンと映画製作者による、映画ファンと映画製作者のための映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを担当。
近況:9/25公開の『マティアス&マキシム』『リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ』のパンフに寄稿してます。


『TENET テネット』

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監督・脚本・製作/クリストファー・ノーラン 出演/ジョン・デイビッド・ワシントン ロバート・パティンソン エリザベス・デビッキ ディンプル・カパディア アーロン・テイラー=ジョンソン クレマンス・ポエジー マイケル・ケイン ケネス・ブラナーほか
(2020年/アメリカ/150分)

●ウクライナの満席のオペラハウスでテロ事件が発生。大量虐殺を阻止するために突入した部隊の一員だった名もなき男は、人質の身代わりで毒薬を飲まされるが、なぜかそれは鎮痛剤にすり替わっていた。目覚めた男は、フェイと名乗る男から、未来からやってきた敵と戦い、第3次世界大戦の発生を防ぐというミッションを課せられる。ミッションのキーワードは「TENET」という謎めいたものだった。監督は『ダークナイト』シリーズや『ダンケルク』などを手掛けたクリストファー・ノーラン。

9月18日(金)全国ロードショー
© 2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved
配給:ワーナー・ブラザース映画

渡辺麻紀
「タイムコップ」
ジェームズ・ボンド・シリーズをこよなく愛するノーランが、自分なりのスパイ・アクションを作った。こだわりのある“時間”を巡るサスペンス&アクションを連打するが、これがよく判らない(笑)。そのくせラストには、いつも通りエモーショナルなオチをくっ付けてくるので、妙に胸までキュンとしちゃたりして混乱必至。そういう意味でもノーランらしさが詰め込まれた1本になっている。ちなみに冒頭近く、「考えるな、感じるんじゃ」云々なるジェダイの教え(?)が宣われるので、2時間35分、「感じながら」観るのが正解だと思います!
★★★★☆

折田千鶴子
頭が翻弄される快感…
脳みそグルグルかき回される奇妙な快楽に、大興奮。未知なるものへの憧れや怖いもの見たさで、混乱しつつ必死でくらいつくことに。その吸引力は、やっぱズバ抜けている。時間逆光のカーアクションも前代未聞。展開や映像の斬新さは『インセプション』に近いが、ノーラン慣れしていなかった『メメント』時の“なんじゃコレ(興奮の汗)!”感に近いかも。観た直後は★5個確定だったが数週間後の今は、感情的な揺さぶりがない分、少し薄らいできたかな。
★★★★半

森直人
時を戻そう
独創的すぎる怪傑作が立ち並ぶノーラン帝国だが、これは意外にも、彼の作品の中で「普通に面白い」という評言(称号)が最も似合うのでは? おなじみの自分勝手な時間操作、とりわけ「逆行」の技が鬼のように駆使される異次元アトラクション。そこにエントロピーの法則という理屈が絡んでくるのだが、大枠は「世界を滅亡から救おうする話」という稚気あふれるスパイ・アクションで、中身はトリッキーな豪快アクションのつるべ打ち。ノーラン流のルールブックで設計した『007』であり、大文字の娯楽大作。何より劇場体験でこそ活きる映画の形にこだわり抜いた姿勢をリスペクト!
★★★★☆


『マーティン・エデン』

マーティン

監督・脚本/ピエトロ・マルチェッロ 脚本/マルリツィオ・ブラウッチ 原作/ジャック・ロンドン 出演/ルカ・マリネッリ ジェシカ・クレッシー デニーズ・サルディスコ ヴィンチェンツォ・ネモラート カルロ・チェッキほか
(2019年/イタリア・フランス・ドイツ/129分)

●イタリア・ナポリの貧しい船乗りの青年マーティンは、上流階級の娘エレンと出会い、恋に落ちたことで文学に目覚め、独学で作家を志すようになる。しかし、生活は困窮し、エレナの理解も得られない。それでも幾多の生涯を乗り越え、富と名声を得るまでになるが…。アメリカの作家ジャック・ロンドンの自伝的小説を、イタリアを舞台に映画化。

9月よりシネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
©2019 AVVENTUROSA – IBC MOVIE- SHELLAC SUD -BR –ARTE
配給:ミモザフィルムズ

渡辺麻紀
「成功の甘き匂い」
ジャック・ロンドンの自伝的小説が、イタリアを舞台に何の違和感もなく翻案されている。ということは、貧しさ、アメリカン・ドリーム、成功の虚しさは世界共通ということなのだろうが、貧しさや虚無感からは往年のイタリア映画の匂いがしてくるのが面白い。随所に挟み込まれたドキュメンタリー的な映像が効果的に使われ、本作にリアリティを与えている。
★★★半☆

折田千鶴子
成り上がり男の大河ロマン
20世紀、伊・ナポリへの舞台移行も違和感なし。「労働者階級の無教養な青年vs上流階級のインテリ娘」。恋と夢、芽生える教養欲、金銭欲、野心。そして成功後に訪れる空虚感……。何年経っても消えない思いって幻? と、人間の心のままならなさに煩悶。かつてアラン・ドロンが演じた数々の役(無教養で大胆で野心的で漏れ出すフェロモン的な)を髣髴させるような、往年の映画の手触りも心くすぐる。それを見事に体現した主演俳優もグッド。壮大な大河ロマンを観たような満腹感。
★★★★☆

森直人
ナポリ風味の青春
カリフォルニア生まれのジャック・ロンドンの自伝的物語が、イタリアに舞台を移すことで「料理のジャンルが変わった」くらい異なる味わいを醸し出すことになった。上流の娘(なぜかフランス語を話す)に恋した下層の青年が、独力で知的な戦闘力を身につけていく……そんな成り上がりのストーリーはヨーロッパ的なロマンと虚無を魅惑的に纏う。結果的にスタンダールの『赤と黒』っぽい。かつてジュリアン・ソレルを演じたのはジェラール・フィリップだが、本作のルカ・マリネッリは『若者のすべて』や『太陽がいっぱい』の若くギラギラした頃のアラン・ドロンにめっちゃ似ているよ!
★★★★☆

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