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『ホムンクルス』『アンモナイトの目覚め』映画星取り【2021年4月号映画コラム①】


今回は超能力だったり化石だったりと方向性は違うけど、気になる2作。エヴァ以外でみなさまの映画欲を盛り上げていきます。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

<今回の評者>

柳下毅一郎(やなした・きいちろう)●映画評論家・特殊翻訳家。主な著書に、ジョン・スラデック『ロデリック』(河出書房新社)など。Webマガジン『皆殺し映画通信』は随時更新中。
近況:『皆殺し映画通信 地獄へ行くぞ!』がカンゼンから発刊。イベントもあります。
ミルクマン斉藤(みるくまん・さいとう)●京都市出身・大阪在住の映画評論家。京都「三三屋」でほぼ月イチのトークショウ「ミルクマン斉藤のすごい映画めんどくさい映画」を開催中。6月からは大阪CLUB NOONからの月評ライヴ配信「CINEMA NOON」を開始(Twitch:https://twitch.tv/noon_cafe)。
近況:映画評論家。4月16~18日の「くまもと復興映画祭」で、山中貞雄『丹下左膳余話 百萬両の壺』について行定勲監督と喋ります。ぶった斬り最新映画情報番組「CINEMA NOON」も配信中。次回は4月28日(水)20時から。YouTubeチャンネルで見てね。
地畑寧子(ちばた・やすこ)●東京都出身。ライター。TV Bros.、劇場用パンフレット、「パーフェクト・タイムービー・ガイド」「韓国ドラマで学ぶ韓国の歴史」「中国時代劇で学ぶ中国の歴史」「韓国テレビドラマコレクション」などに寄稿。
近況:米国アカデミー賞に地味にノミネートされている、デレク・ツァン監督の『少年の君』が気になってます。


『ホムンクルス』

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監督・脚本/清水崇 原作/山本英夫「ホムンクルス」(小学館「ビッグスピリッツコミックス」刊) 脚本/内藤瑛亮 松下育紀 出演/綾野剛 成田凌 岸井ゆきの 石井杏奈・内野聖陽ほか
(2021年/日本/115分)
●車上生活を送る名越は、突然現れた医学生の勧めにより、期限7日間、報酬70万円を条件に頭の手術を受ける。第六感が芽生え、他人の深層心理が視覚化できる能力を持つことになり、その能力を駆使して心に闇を持つ人々と交流を深めていく。『殺し屋1』などで知られる山本英夫の同名漫画を映画化。

4/2(金)より期間限定公開
Ⓒ2021 山本英夫・小学館/エイベックス・ピクチャーズ
配給/エイベックス・ピクチャーズ

柳下毅一郎
幻覚描写であの世に行きたい
アメリカにおける大麻解禁からはじまったネオ・サイケデリック時代にこの話を映画化するんだから、当然求められるのはめくるめく幻想世界、あの世にいっちまうような強烈なヴィジョンだと思うんだが、「意外な真相」とか「キャラクターの救い」とか本当にどうでもいい。狙うべき場所が違うんじゃないの?と言いたくなる。あ、ついでに言っとくけど日食を裸眼で見ようとしないように。
★★★☆☆

ミルクマン斉藤
ギリギリの危うさに踏み込んでない感がもどかしい。
撮影・福本淳×照明・市川徳充の鉄壁コンビを得て、清水崇はかなり攻めの姿勢に入ってる感を強く感じさせる(内藤瑛亮の脚本参加も)……のだけれど、山本英夫の原作を読んでない僕にとっては、いわゆる“錬金術的ではない”ホムンクルスの定義含めぐっちゃりした印象しか残らない作品に。ホームレスとセレブリティの狭間に居る綾野剛&マッドサイエンティスト成田凌の、あまりにぴったりしすぎたキャストもトゥーマッチか。石井杏奈や内野聖陽なんていくらでも面白くできるキャラなのに。
★★★☆☆

地畑寧子
生きる理由
タイトルを聞いて、人造人間の物語? と思ったが(原作未読)、全然異なる、生きる理由を希求する順当なサイコスリラー。他人の心の歪みを見るに従い、枯渇していた感情を蘇らせる主人公を綾野剛が好演。後半のオリジナル部分は、記憶喪失、トラウマ、罪悪感の混合で帰着と真面目過ぎる気もするが、心の歪みの視覚化は工夫があり、特に階段を含め、円が画のモチーフになっているのが面白い。トレパレーション治験は少々グロですが、怖くない清水崇作品。
★★★☆☆


『アンモナイトの目覚め』

アンモナイトの目覚め_メイン

監督/フランシス・リー 出演/ケイト・ウィンスレット シアーシャ・ローナンほか
(2020年/イギリス/117分)
●1840年代、イギリス。古生物学者のメアリーは、かつて大発見と呼ばれる化石発掘を成し遂げたが、今では人との交流を絶って土産物用のアンモナイトを発掘して細々と暮らしている。そんな中、ひょんなことから裕福な化石収集家の妻シャーロットを預かることに。正反対の性格を持つシャーロットにいら立つメアリーだったが、あまりにかけ離れた彼女に徐々に惹かれていく。演技派女優のケイト・ウィンスレットとシアーシャ・ローナンが初共演。

4/9(金)TOHO シネマズ シャンテ他 全国順次ロードショー
© 2020 The British Film Institute, British Broadcasting Corporation & Fossil Films Limited
配給/ギャガ

柳下毅一郎
セックスがすべてじゃない
ヴィクトリア時代の化石マニア女性の伝記映画というだけで十分おもしろいネタだとは思うのだけど、なぜかレズビアンと女性の自立についての話になってしまっていて、そこでは化石好きの恍惚、化石採集に無類の興味と情熱を注ぎこみまくったオタクの喜びはスポイルされてしまったのではなかろうか。やたらと暗くて重い映画だが、重々しい割には割ってみると中身は空っぽなんてことも……。
★★☆☆☆

ミルクマン斉藤
この海の荒さ、療養には向いてないやろ。
原題はただの「アンモナイト」。まさに化石と化しつつある女性のエロティックな目覚めを描くのだけど、どうしても先に日本公開された『燃ゆる女の肖像』と重なるのは、怒り狂う海を前にしたロケーション的にも仕方ない。でもケイトがスター性を封印し、どすこい体型を隠さず演じるリアリティに凄さを感じさせる作品ではあるし、関係性が深まるにつれシアーシャのほうが性的に積極的になるのも恋愛映画の常道とはいえ悪くない。ラスト・ショットも巧さを感じさせるのだが、その巧さに逃げてる感はあるねぇ。
★★★半☆

地畑寧子
K・ウィンスレットを再認識
歴史に埋もれてしまった女性古生物学者の感情の目覚めを綴ったオリジナリティ溢れる佳作。主人公メアリーに陰鬱な日々と英国の曇天続きの海辺の町の背景があまりにマッチしていて狂おしい。寡黙で無骨そして聡明と、当時の社会が全く受け入れていなかった女性像を反映したメアリーを完璧に体現しているケイト・ウィンスレットの妙演が一番の見どころ。40代半ばになった彼女の自然体等身大のキャラ作りにも好感度大。
★★★★☆

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