『ビリー・アイリッシュ 世界は少しぼやけている』『スーパーノヴァ』映画星取り【2021年6月号映画コラム②】
今回は、今まさに輝きを放つ者と、ついに輝きを失わんとする者を描く2作。ところで、新サイト「TV Bros.WEB」でも星取りコーナーをよろしくね!
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)
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<今回の評者>
柳下毅一郎(やなした・きいちろう)●映画評論家・特殊翻訳家。主な著書に、ジョン・スラデック『ロデリック』(河出書房新社)など。Webマガジン『皆殺し映画通信』は随時更新中。
近況:ポレポレ東中野の城定秀夫監督特集に通っておりました。
ミルクマン斉藤(みるくまん・さいとう)●京都市出身・大阪在住の映画評論家。京都「三三屋」でほぼ月イチのトークショウ「ミルクマン斉藤のすごい映画めんどくさい映画」を開催中。6月からは大阪CLUB NOONからの月評ライヴ配信「CINEMA NOON」を開始(Twitch:https://twitch.tv/noon_cafe)。
近況:映画評論家。ぶった斬り最新映画情報番組「CINEMA NOON」最新回はYouTubeチャンネルでご覧ください。
地畑寧子(ちばた・やすこ)●東京都出身。ライター。TV Bros.、劇場用パンフレット、「パーフェクト・タイムービー・ガイド」「韓国ドラマで学ぶ韓国の歴史」「中国時代劇で学ぶ中国の歴史」「韓国テレビドラマコレクション」などに寄稿。
近況:ゾンビもヒエラルキーを構成? な『アーミー・オブ・ザ・デッド』(Netflixで配信中)。馬も虎もゾンビ化…。面白いです。
『ビリー・アイリッシュ 世界は少しぼやけている』
監督/R・J・カトラー 出演/ビリー・アイリッシュ フィニアス・オコネル パトリック・オコネル マギー・ベアードほか
(2021年/アメリカ/140分)
●18歳にして、グラミー賞主要4部門制覇を成し遂げたビリー・アイリッシュに密着したドキュメンタリー。デビューアルバム「When We All Fall Asleep, Where Do We Go?」の制作過程、制作パートナーの兄や両親との関係などを、ツアーの模様やライブパフォーマンスの映像を交えて映し出す。
6/25(金)新宿ピカデリーほかで公開
©2021 Apple Original Films
配給/シンカ
柳下毅一郎
しょせんは17歳の子供ですよ
彼女が稀に見る天才であることを認めるにはやぶさかではないし、驚くほど成熟している部分もあるとはいえ、やはりいくらなんでも早すぎる。子供ですよ。映画作るのは挫折の一回も経験してからでも遅くないんじゃないか。同世代のファンにはいいのかもしれないが、ファンムービー以上のものにはなりえない。ジャスティン・ビーバーの前に出たときにキモくなるのにはちょっとだけ好感を持ったかな。
★★☆☆☆
ミルクマン斉藤
最強の兄妹をめぐる、ある意味青春映画。
個人的にあまりポップスは聴かなくなってしまったんだが、この兄妹の作る音数は少ないけど身体に直接訴える音楽は正直強力で愛聴。ほとんどホーム・ムーヴィのように、兄の部屋に籠って妥協なく曲作りする様子や、スタアになるにつれ酷くなるチック症状、彼氏と広がりゆく乖離、SNSの反応を気にする様子(最近も理不尽なのがあったね)など、結構プライヴァシーにも接近。それにしてもジャスティン・ビーバーっていい先達やなあ。
★★★★☆
地畑寧子
ティーンのアイコン
各所で最年少記録で名前があがるSNS世代の寵児を追ったドキュメンタリー。同世代の共感の活写はいいが、等身大のビリーも網羅しようとしたためか長尺すぎ。『007』の次回作の主題歌の歌唱で彼女のふり幅のすごさを感じていたので、彼女の音楽性の追求が薄くて残念。また彼女の音楽世界を作っている兄フィニアスの作曲家としての実力もさして触れられていなかったのも残念。ここにきての差別発言流出が音楽の足かせにならなければいいのだが…。
★★★☆☆
『スーパーノヴァ』
監督・脚本/ハリー・マックイーン 出演/コリン・ファース スタンリー・トゥッチほか
(2020年/イギリス/95分)
●20年来のパートナーであるピアニストのサムと作家のタスカーは、家族や友人にも恵まれ、幸せな人生を歩んできた。ところが、タスカーが不治の病に侵され、2人の幸せは終焉を迎えることになる。最後まで共に生きたいと願うサムと、愛ゆえに終わりを望むタスカーはある決断をする。
7/1(木)TOHOシネマズシャンテ他全国順次ロードショー
©2020 British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Supernova Film Ltd.
配給/ギャガ株式会社
柳下毅一郎
おっさん二人の熱愛ドラマ
ほぼ出ずっぱりの中年男性二人の芝居だけの映画なのだが、きっちり見せるところは見せて泣かせるところは泣かせてくれる。最初にスタンリー・トゥッチにオファーが行き、彼が親友のコリン・ファースを連れてきたという流れも必然と思える。二人芝居にして舞台にかけても十分成立するんじゃないか、というくらいで監督はいてもいなくても映画はできるという……。
★★★★☆
ミルクマン斉藤
とにかく演技が巧いのはイヤってほど判るけど。
さほどの齢ではないのに認知症から逃れられなくなったS.トゥッチ。彼を生涯看取ると決心するC.ファース。そんな初老ゲイ・カップルのロード・ムーヴィだが、親族の誰もがそんな関係を受け入れているのがイマ風ではある。ただ、このSF的なタイトルの元となるトゥッチの思想にもう少し踏み込んでも良かったのでは。なんとキートン・ヘンスン作曲による弦楽合奏が、素晴らしく美麗なイングランドの終の棲家と相俟って高揚させるんだけどね。
★★★半☆
地畑寧子
名優2人が奏でる心に染み入る別れの機微
先立つ者、残される者の立場になった、同性熟年カップルの深い愛を丁寧に綴った逸品。パートナーに迷惑をかけまいと心を砕くタスカーと記憶をなくしていくタスカーに誠心誠意尽くそうとするサムのすれ違いが、切なくまた温かい。テーマは普遍的だが、二人のキャリアや20数年に及ぶ愛情の軌跡が、ユーモアを交えて細やかに語られ、余韻たっぷり。ディック・ポープのカメラの美しさも効いている。
★★★★半
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