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『片桐仁のおしえて何故ならしりたがりだから』 ☞ しりたいテーマ 「トキワ荘マンガミュージアム」

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この記事は、TV Bros.2020年12月号「コミックアワード特集号」に掲載されている連載「片桐仁のおしえて何故ならしりたがりだから」の記事をもとに、誌面には未掲載のテキストや写真を加えた完全版となります。

取材・文/片桐仁
撮影/石垣星児  編集/小倉隆司

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『まんが道』にも登場する
伝説のサンクチュアリ

 どうも、“尊敬する職業”第1位は46年連続『漫画家』な、片桐仁です。

 今号の『ブロス コミックアワード』とか『このマンガがすごい!』で、偉そうにコメントしたりしてますが、本当に「自分程度の怠け者が何を言ってんだ!」と、心から申し訳ない気持ちでおります。漫画の単行本を出版しているというだけで、尊敬してます。

 だって、当たり前ですけど、絵も描いて、お話も考えて、コマ割り決めて、それを毎週、何ページも続けるって、身体がいくつあっても足りませんよ! もちろん、アシスタントはいるんでしょうけども、決定するのは漫画家さんですから。レジェンド漫画家達はそれを何十年も続けてるってんですから! そこまでやって印税1割って…!? マジかよ! 命削ってんのに!? まあ、お金のために漫画描いてるわけではないとは思いますが…。

 だから、数多ある漫画のジャンルの中でも、僕は“漫画家マンガ”が好きなんだと思います。その原点と言えば、藤子不二雄Ⓐ先生の『まんが道』。そこで描かれる主人公・満賀道雄と才野茂の出会いや、ライバル漫画家たちとの青春。“現人神”手塚治虫の存在。キラキラした中にもドロドロした思いや、途中で実家の高岡に帰って「何もかも辞めちゃおうか?」みたいになる場面には、「超人のようなイメージの漫画家さんが、自分とそんなに変わらない(当然、能力は違うと思ってますよ)一人の人間なんだ」と思えるところがいいんですよね〜!

 そんな『まんが道』にも登場する、多くの漫画家が集った、伝説のサンクチュアリこと「トキワ荘」がミュージアムになったんですって。ニュースで見ました。最近では若い子達は漫画を読まない人も多いから(この前、高校生5人ぐらいとしゃべってて、そのうち3人が全く漫画読まないって言ってた…。読み方が分からないって…)、漫画の文化を継承していかなきゃいけないんです。

 こりゃ〜コミックアワード号だし、このタイミングでトキワ荘ミュージアムに行っちゃおう! 次この連載いつあるかわからないし! カメラマンも連れて! 写真いっぱい入れよう! 楽しみ〜!!

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【今回のテーマ】
豊島区立トキワ荘マンガミュージアム

★おじゃましたのは、東京にある「豊島区立トキワ荘マンガミュージアム」です。昭和を代表する漫画家たちが、若手時代に暮らした木造2階建てのアパート「トキワ荘」の外観や内装を忠実に再現。「マンガの聖地としま」の発信拠点となるミュージアムです。当面の間、入館は予約制となっていますので、詳細は公式HPをご覧ください。


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汚れも新しい!
僕が住んでた和田荘にそっくり!

 向かったのは、都営大江戸線「落合南長崎」駅から徒歩5分、西武池袋線「東長崎」駅から徒歩10分、南長崎花咲公園(通称「トキワ荘公園」)の中にある『豊島区立トキワ荘マンガミュージアム』です。本当はトキワ荘ゆかりの漫画家のTシャツを着て行こうと思ったけど、1枚も持ってなかったので、楳図かずおの赤白ボーダーにベレー帽姿で到着!

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 玄関前には懐かしの! というか昭和30年代の? 電話ボックスが! 『まんが道』に出てきたやつだ! 才野茂が編集者と連絡を取ってて、外で満賀道雄がドキドキしながら待ってる、あの電話ボックスだ! これはオブジェなので使えないけど…! 中にも入れないけど…! さらに、年代物の『トキワ荘』の看板。書体が2種類あったのね!

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 そして何と! マンガミュージアムは豊島区立だけあって、入場料は無料なのだす! 外観は僕が20年前に住んでいた、下北沢の風呂なしアパート『和田荘』に瓜二つ! 壁の色や窓の手すりの色が同じだ! でも近づいてみるとデカい! 和田荘の3倍はある! そして新しい! 汚れも新しい! 実は本物のトキワ荘は少し離れた別の場所にあり、老朽化によりすでに解体されているため、この場所に再現された“新トキワ荘(鉄筋コンクリート製)”なのだ! その証拠に、昭和のアパートっぽい外観なのに、玄関から中に入ると、1階には超キレイな白いミュージアム空間が広がっているじゃないですか!

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 「漫画家さんたちは、主に2階に住んでいたので、1階は思い切って展示スペースにしました」と、今回案内してくださった『としま未来文化財団』の北山奏子さん。え? じゃあ1階は当時どんな人が住んでたんですか? 「一般の方が住んでいました。元々は普通のアパートですから」…言われてみれば確かに、トキワ荘って漫画家以外住んじゃいけないアパートだと思ってたけど、そんなわけないか。でも毎日のように上の階の人が徹夜してたら、下の人うるさかっただろうな〜。

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 1階は『マンガラウンジ』と『企画展示室』(※)になっていて、トキワ荘のジオラマや、貴重な絶版の漫画などが展示してあります。取材に行った時は「漫画少年とトキワ荘」という企画展が開催中でした。雑誌『漫画少年』は、手塚治虫『ジャングル大帝』などが人気を博した、トキワ荘の漫画家たちともゆかりの深い雑誌だそうですが、僕の世代は全く知らないです。

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※2021年1月11日(月・祝)まで「トキワ荘のアニキ 寺田ヒロオ展」が開催中。 https://tokiwasomm.jp/exhibition/2020/10/post-20.php

 『トキワ荘年表』によると、最初に入居したのはゴッド手塚治虫で、昭和28年(1952年)のこと。その後、手塚を慕って、寺田ヒロオ、藤子不二雄(藤子・F・不二雄、藤子不二雄Ⓐ)、石ノ森章太郎、赤塚不二夫、水野英子、山内ジョージなどが次々と入居。まさに伝説のアパート! あと、現役漫画家たちのお祝いのメッセージもありました! これ見てるだけでウキウキする〜!

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 いよいよ、漫画家の聖地2階へ! 学校の階段ぐらい幅が広い階段は、ギシギシと木が軋む音も再現! 新築なのに!?

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 2階に上がると広い廊下に共同トイレ。小便器が2つ、大便器が1つ。当時“目が痛くなるほど臭かった”というトイレも今は無臭。もちろん使用不可。“ウンコが1階に落ちる時に『ガシャーン!』とものすごい音がした”という真っ直ぐな下水パイプも再現!(パイプは建物の外にありました)

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 その隣は共同の炊事場。意外と広い! 石ノ森先生のお姉さんが、住み込みでご飯を作っていたりもしたそうです。さっき食べたばかりのようなラーメンの丼には『まつば』の文字! 夏に赤塚先生や石ノ森先生が水風呂にしていたという、縦長の流し台もきっちり再現! 芸が細かい。映画の美術を手がけるスタッフが施したという“エイジング”効果の賜物ですな!

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 そこからは、レジェンドたちの部屋が再現された部屋が続くのかと思いきや、最初に入った22号室(※)は、キレイな4畳半に地域の方と協力して作った“トキワ荘復元プロジェクトの歩み”と書かれたパネルが展示されています。あれ? 「トキワ荘は時期によって住んでいた先生も変わるので、部屋の展示も期間ごとに変わることもあります」なるほど〜。全部屋の同時再現は出来ないんですね。

※2020年11月現在、期間限定で寺田ヒロオの部屋を再現中。

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 説明によると、当時の家賃と礼金は3千円、敷金は3万円。参考に展示してある「1956年(昭和31年)の物価」によると、バス15円、ラーメン40円、散髪代100円といった感じ。家賃3千円はともかく、敷金が家賃の10倍って高くない…? そしてトキワ荘の住人たちは、一般家庭に比べて、食費や服を買うお金を節約して、交際費(お酒など)と映画観賞代にお金を使っていた、ということを示す円グラフ。俺も和田荘時代そうだったよ。食費や衣料費を削ってガンプラ買ってたもん…。ん? あ! 窓から見える外の風景が絵になってる! 当時の景色なんでしょう。外から照明を当ててるので、一瞬気づかなかった!

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 続いて14号室。この部屋には手塚治虫、そのあとに藤子・F・不二雄と藤子不二雄Ⓐが住んでいたスゴい部屋。手塚治虫はトキワ荘に1年ほど住んでいて、ここで『ジャングル大帝』『鉄腕アトム』『リボンの騎士』などの名作が誕生ですって!

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 18号室は、隣の部屋に住む石ノ森先生のアシスタントでもあった山内ジョージの部屋。入ると高く積み上げられた映画のフィルムが! 当時から高価なもので、文化には積極的にお金を使っていたそうですが、この部屋の壁に投影してたの? スゴいな!

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 19号室、水野英子先生の部屋には物がほとんどない。編集者に呼ばれて、18歳のときに山口県から1人で、カバン1つだけを持って上京、そこから7ケ月だけ住んでいた部屋は、必要最小限の物しかなくて、4畳半なのにスッキリしてる!

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 この2部屋は、山内先生と水野先生ご本人の監修済みということで、さっきまで先生たちがいたかのような再現度! 60年前の景色がすぐそこに存在している感じが、すごい変! いい意味で!

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『マンガの聖地』を散策

 ミュージアムを出たあとは、北山さんの案内で、トキワ荘通りにある、トキワ荘ゆかりの場所を散策。現在、椎名町〜東長崎間は『マンガの聖地』として、文化による町おこしに取り組んでいるそう。商店街を歩くと、信じられない古さの商店建築とか、レトロなスナックや元“連れ込み宿”みたいな昭和っぽ〜い建物がいっぱいあって、トキワ荘と関係ないのに、時間が止まっているかのようで、見ていて飽きない商店街!

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 そんな中、最初に向かったのは、元お米屋さんだったという、立派な木造建築『豊島区トキワ荘通りお休み処』。

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 1階ではトキワ荘ミュージアムグッズの販売や漫画の展示。ミュージアムではグッズ販売はしていないので、ここで購入すべし! ていうか、“トキワ荘グッズ”ヤバいよ。まず、金色で『トキワ荘』の文字が入ったスリッパ赤と青。ペーパークラフトで作る『トキワ荘』。下戸が多かったトキワ荘の住人が宴会で飲んでいたという『チューダー(ほんの少しの焼酎をサイダーで割ったもの)』をキャンディにした『チューダー飴』。保存食にもなる『トキワ荘クッキー』。と、「思ってた感じと違う!」感満載の独特なグッズ達! 2階には、寺田ヒロオ先生の部屋をリアルに再現した展示も。ここもトキワ荘なの? でも落ち着く空間。

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 続いて、3軒隣の『トキワ荘マンガステーション』へ。

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 ここでは復刻版の『漫画少年』をはじめ、トキワ荘の漫画家たちの作品や、貴重な漫画がなんと無料で自由に読めるんです! 今はソーシャルディスタンスの関係で、50分の入れ替え制なんだけど、中学時代だったら、ずっと居座っちゃいそう。近所に住みたい!

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 お次は、実際にトキワ荘が建っていた『トキワ荘跡地』モニュメント。トキワ荘通りから1本入った路地裏にあり、現在は「日本加除(かじょ)出版」という出版社の社屋になっている。加除出版は、トキワ荘があった当時から隣にあり、トキワ荘を取り壊した後の土地も買い取って、社屋にしているそう。結構大きい。でも漫画は出してない出版社なのね。

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『松葉』でラーメン&チューダー

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 そして、いよいよお昼ご飯は、『まんが道』でお馴染み、創業昭和25年の中華料理『松葉』に。当時1杯40円のラーメンを、よくトキワ荘に出前していた、あの松葉が、今もあるんです!! 当然、店内にはレジェンド漫画家達のサインがいっぱい。ファンが必ず立寄るスポットというだけあって、11時過ぎでもすでに満席! しかも安い! ラーメン(600円)、チューダー(350円)、チャーハン(600円)、餃子(400円)を注文。

 ウキウキしながら座敷でラーメンを待っていると、「片桐仁さんですよね?」と、カウンターでラーメンを食べていたオジサン。はい。そちらもトキワ荘の帰りですか? 「そうです。大阪から出張で来たついでに」そうですかー。それで松葉にも寄ったんですねー。「はい。片桐さんには、息子がいつもお世話になってます」…は? 「〇〇(名字)の父です」…はい? 「〇〇〇〇(フルネーム)の父です」…すいません。そんな貴族みたいな名前の人知らないんですけど…。「え? いや、ラジオでお手伝いをするようになったって…」あ、そういえば最近、学生さんのアシスタントがエレ片のラジオに入りましたけど、あ、ペッター副部長のことですか? 「ペッター? 副部長?…?」はい。多分そうです。ラジオネームが『ペッター副部長』だったので、そのままペッターくんって呼んでました。あー、ペッターくんのお父さんですか〜! 記念に写真撮りましょう! と、意外な人物と出会うのが松葉! 時空の転換点なんだな。きっと。

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 そうこうしているうちに、

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 まずはチューダーとチャーハンが到着。チューダー飲みやすい! グイグイいけちゃうやつだ! 1口目で半分無くなっちゃった!! そしてチャーハンは肉がデカくて美味い! 奇をてらわない餃子もラーメンも、普通で美味しい! そしてチューダーをおかわり! チャーハンおすすめです!

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