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赤子と止まり木


先日、生後5ヶ月の息子のために大学病院へ行った。お尻の付け根の形が変わっており、近所の小児科の先生が「念のため」と紹介状を書いてくれたのだ。

大学病院の先生も「珍しいね」と首をひねり、MRIを撮ることになった。「赤ん坊への負担」について疑問をぶつける私に、先生は丁寧に説明してくれた。お礼を言い、再来月にMRIの予約をして、受付ホールへと向かった。
息子は足を激しく動かして元気いっぱいだ。先生も「パッと見で『病気だ』となる形じゃない」と言ってくれた。特に不安はなかった。

主人に報告のLINEが終わったところで、会計の順番が自分に回ってきた。
指定された用紙を提出し、財布を開いて待っていたら、耳を疑うような言葉が聞こえた。

「本日のお会計はありません」
「え、ないんですか」
「? はい」

会計のおばさんはキョトンとしながら答える。

内心動揺しながら、ぺこりと頭を下げて、使わなかった財布をリュックにしまった。受付ホールの端っこに移動して、スマホで市のホームページを開き、調べてみる。「0歳児から中学校卒業までのお子様の医療費を助成します」と書いてあった。

びっくりして、そのままスクロールすると『医療費助成制度は皆さまが納めた税金が財源です』と文字の羅列が見えた。思わず背筋が伸びる。

この子の医療費は無料だけど、無料じゃない。誰かの税金によって支払われている。

息子が生まれる前、給与明細を見つめて、「税金って高いな……」と何度も呟いていた。あの時の税金のイメージは、空にふわりと浮かび、颯爽と消えてしまう鳥のようなものだった。どこへ行ってしまうのか分からず、ただ飛び去る様を見つめていた。
その鳥が今、息子のそばに止まって、鳴いている。

スマホをリュックのサイドポケットにしまった。そして息子の手を、そっと人差し指でつついてみる。きゅっと指を握られた。
この子は国の未来に繋がっている。私はこの子を見守り、育てることが役割なのだと、改めて思った。

まだ私の半分にも満たない小さな手のひら。いずれは私を超える、大きな手のひらになるだろう。その時に息子は、どんな風になっているのだろう。どうか健康で、すくすく育ってほしい。そして願わくば、未来を繋ぐ、鳥の背中を見つめているといいなと祈った。




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