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そうめんを食べたかった太陽のはなし
「パパ、ねた?」ユウタ君は、となりで寝ているお父さんに、小さな声で言いました。お父さんの静かな寝息が聞こえてきます。
「ねえパパ。」
ユウタ君の声が少し大きくなりました。
ここは、お父さんのおばあちゃんのお家です。今日はお父さんとユウタ君のふたりで、お泊まりに来たのです。お母さんが一緒にいないのと、なれないお部屋とで、ユウタ君はなかなか眠れません。
それに、おじいちゃんやおばあちゃん、おじさん、おばさんたちと話をするときのお父さんは、いつもと話し方まで違って、なんだかいつもお家にいるときのパパとは違う人みたいな気がして、ユウタ君は少しドキドキしたのでした。
「パパ、起きて―。」ユウタ君は、お父さんの肩を揺すりました。
お父さんは少し目を覚まして、「お?どうした、ユウタ?」と、聞きました。
「眠れないから、なんかお話して。」
お父さんは目をこすって、腕をグーンと伸ばすと、ユウタ君の方に寝返りをうちました。
「よし、なんの話にしようかな、そうだ、今日食べたそうめんの話。」
「うん!」
ユウタ君もお父さんの方を向いて横になりました。お父さんの話はとても面白いのですが、ときどき途中で眠ってしまうので、お話がぐちゃぐちゃになってしまうこともあります。
「あのそうめんはな、昔、パパが若かった時に、ひとりで旅をしていたとき、出会ったのさ。」
「そうめんに?」と、ユウタ君。」
「まあ、聞け。パパは、バイクで旅をしていた。さっき見たろう、おばあちゃんちのガレージの奥にあった、黒いバイク。あれでな、海のそばの町を走っていた。すると、港があって、これから船が出るようだ。海の向こうに小さく島が見えていてな、その『ソーメン島』に行くと言う。そりゃおもしろそうだ、パパは船に乗ったね。そして、ソーメン島に、着いた。」
「そこの人は、みんなソーメンなの?」と、ユウタ君。
「おいおい、それは何のマンガの影響だ? えーと、そうめんで出来ているわけでは、ない。しかし、島中の人がそうめんを愛していた。島のどこへ行っても、家の前にはそうめんが干してある。朝、昼、晩ごはん、全部そうめん、外にご飯を食べに行っても、メニューにはそうめんしかない。」
「なにそれ。いいじゃん。」ユウタ君は、そうめんが大好きなので、そんな島があるなら行ってみたいと思いました。
「だろ?何せ、毎日食べても、美味しいからまったくあきないんだよ。その島の、あるおじいさんの家で、お父さんはそうめん干しの手伝いをしてな、その干し方がプロ級の腕前だったから、そりゃあ喜ばれてさ、おじいさんにすっかり気に入られちゃったんだ。その島には、2週間もいたよ。そのまま住んでもいい、とも思った。でも、やっぱり「家に帰らなきゃいけない」おじいさんにそう言った。おじいさんは残念がってな、パパに”魔法のそうめんざる”をくれた。」
「魔法のそうめんざる⁈さっき、おばあちゃんが使ってた?」
「そうだ。だから、あのそうめんは、食べても、食べても、なくならない…」
「それで? それから? ねえ、パパ、ソーメン島のお話は?」
「…ん?…ああ、何だったかな?そうめんは、美味しかった?」お父さんは眠たそうです。
「魔法のそうめん、大盛りだったね!美味しかった!」ユウタ君の目は、まだまだパッチリ、眠りそうにありません。
「そうだな、昼のそうめんは美味かったなあ。えーと、、、そう、ユウタが美味しそうにそうめんを食べるので、それを見ている太陽も、そうめんというものを食べてみたくなりました。」
「ふふふ、太陽がそうめん食べるの?」
「そう、太陽はいつもメラメラ熱いだろ?だから、ひやっとした、つるつるっとしたものが、食べてみたかったんだろうな、太陽がそうめんの方へ寄ってきた。そしてひと思いに、つるつるっと、ユウタが食べているそうめんを吸いこもうとした!が、しかし、太陽の表面温度は6000度だ!〝シュッ”一瞬で、そうめんは溶けて消えてしまった。」
「へぇ…。」
「太陽がユウタのそうめんを吸いこもうとした、まさにあの今日のお昼ごろ、急に暑くなったろう?あれは、太陽が、一瞬、地球に近づきすぎて、地球の気温が上がってしまった、ということさ。」
「・・・。」
「本当に、今日は暑かったよ。おつかれさま、ぐっすりお休み。」
お父さんは、少し汗ばんだユウタ君のおでこをなでながら、言いました。
台所では、「本当に、このうちのもんはソーメンが大好きなんだよなあ。」古くからこのうちにいるざるが、笑って言いました。
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