おばあちゃんの誕生日


まいちゃんは、お菓子がたくさん並んだ棚をひとつひとつ、ていねいに見ていました。

お母さんはショッピングセンター中をまわって、買い物をしています。昨日、おばあちゃんが急に入院したので、お母さんは病院に持っていく飲み物や、着替えや、歯みがきや、必要なものを色々そろえているのです。

「まいは、どこで待っていたい?本屋さん?」お母さんに聞かれて、まいちゃんは、

「『のせ屋』がいい。お菓子を見たいの、おばあちゃんの誕生日プレゼントに。」と答えました。


『のせ屋』は、ショッピングモールの1階に入っている食料品のお店です。めずらしい食品や、少し変わったもの、きれいな箱に入ったお菓子などがあって、おばあちゃんと二人で買い物来ると、きまってこの店をゆっくりと見て回るのでした。


(ここなら、おばあちゃんの気に入るものが見つかるはず)まいちゃんは思いました。


まいちゃんは、すてきな缶を見つけて手に取りました。薄い水色と灰色を混ぜたような柔らかい色の缶で、フタにはきじねこが丸くなって眠っています。フタの真ん中がネコの形にもり上がっているのを、まいちゃんは指で撫でました。

(かわいい!これはぜったい、おばあちゃん気に入るな。)



「それ、何が入ってるの?アメ?」

急に話しかけられて、まいちゃんはびっくりしました。となりにはまいちゃんと同じくらいの女の子が、まいちゃんの持っている缶を見つめていました。まいちゃんは、缶の裏を見て言いました。

「クッキーって、書いてある。」

「そう。アメだったら良かったのに。まあ、クッキーでもいいけどね。」そう言って、女の子も、ネコの形の缶のふたを指でさわりました。

ネコ缶クッキーは、棚の上にひとつしかありません。まいちゃんは、この女の子も、これがほしいのかもしれない、どうしよう?と思いました。


「おばあちゃんの、誕生日プレゼントにするんだ。今、入院しているの。」まいちゃんは言いました。

女の子は「そう、私も、私の誕生日にほしいものを探しているの。おもちゃでもいいんだけど、わたし、ネコが好きだから。」


まいちゃんは少し考えて言いました。

「これ、いいよ、お誕生日に買ったらいいよ、すごくかわいいから。」

まいちゃんが女の子にネコ缶クッキーを差し出すと、女の子は少し困った顔で、「いいの?」とききました。

「いいんだよ、おばあちゃんには他のもの探すから。おばあちゃんは、かわいい箱とか、ビンとか、包み紙に入ったお菓子が大好きなの。いちごあめ、知ってる?イチゴのもようの小さい包み紙まで取っておくんだから。」


おばあちゃんの家には、いろいろなアメやクッキーが入った缶があって、まいちゃんはいつも、その缶からいちごあめを出して食べるのでした。

「まいが来ると、すぐいちごあめがなくなっちゃうね。いいよ、また買ってくるから。」そう言って、おばあちゃんは、まいちゃんが食べたいちごあめの包みを、ていねいに指でのばしてしわを広げて、また、別の缶にしまうのです。

その缶の中には、他にも、お菓子についていたきれいな模様の紙だとか、リボン、小袋、透明のセロハンなどが入っていました。

「おばあちゃんの小さいころは、あまり食べ物がなかったからね、ときどきこういうアメやラムネをもらうと、めずらしくて嬉しくてね、包みをとっておくのが楽しかったの。ほら、こうして遊んだり、ね?」

おばあちゃんは、ピンクやきいろのセロハンを目に当てて、部屋の中を見回して見せるのでした。



「あ、これがいい、おばあちゃんこういうの好きだから。」

まいちゃんは、淡い優しい色の金平糖が入ったビンをみつけて、手に取りました。「これにする!」

女の子は「そう?本当に?良かった。」まいちゃんの目を見てほっとしたように笑って、「ありがとう!」というと、レジの方に行ってしまいました。


「まい、おまたせ!ごめんね、遅くなって。荷物が多くなっちゃったから、一度車に置いてきたんだ。」

お母さんの声でした。お母さんは、まいちゃんの持った金平糖のビンを見て言いました。「ああ、いいじゃない、おばあちゃん好きそうだね。」

まいちゃんとお母さんはお会計をして、ショッピングセンターを出ました。まいちゃんは、あの女の子がいないかと、きょろきょろよそ見をしながら歩いたので、何度かお母さんに注意されました。女の子の姿はどこにもありませんでした。


病院につくと、おばあちゃんはベッドの上で笑って迎えてくれました。

「まいちゃん、来てくれて嬉しいよ、早くお家に帰りたいよ。」おばあちゃんは、子どもみたいに言いました。「学校はどう?なにかおもしろいことあった?」

まいちゃんは、給食で早食い競争が流行っていて、となりの席の男の子が47秒の学校最速記録で給食を食べたけれど、先生に「体に良くない」と叱られて、早食い競争が禁止になった話をしました。

「47秒!!たいしたもんだ、すごいよ、私も見てみたかった!」

おばあちゃんは、いつも喜んでまいちゃんの話を聞いてくれます。まいちゃんはほっとして、プレゼントの包みを渡しました。


「おばあちゃん、お誕生日おめでとう。あのね、さっきね…」

そして、さっき会った女の子の話もしました。


おばあちゃんは、「へえ」「うん、うん」など相づちをうちながらきいていましたが、話がすべて終わると、まいちゃんにおいでおいでをして、小さな声で言いました。

「まいちゃん、不思議なことなんだけど、その、きじねこの缶ね、おばあちゃん持ってたんだよ。いつ、誰にもらったのか覚えてないんだけど、確かに、持ってた。」



まいちゃんに、嬉しそうに内緒話をするおばあちゃんの目は、なんだか、ほんとうに、あの女の子に似ている気がしました。


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