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ゲーム依存症という病気はない

■ゲームをすると病気になってしまうのか?

 2019年にWHOは「ゲーム障害」という状態を病気として認定し、2022年からそれが施行されます。

 WHOによって取り扱われた「ゲーム障害」の定義を噛み砕くと、
 ・ゲームをする時間や頻度が多く、やめられなくなってしまうこと。
 ・ゲームをすることが他の生活上の活動よりも優先されてしまうこと。
 ・良くないと分かっているにもかかわらず、ゲームをし続けてしまうこと。
 であり、社会生活において支障が出るほど十分に重篤な状態であることが条件です。

 例え何時間もゲームに没頭していたとしても、食事をし、学校や会社に行き、睡眠を取り、健康な状態であればこの定義には当てはまりません。

 中国や韓国ではオンラインゲームが盛んであり、何十時間、あるいは数日間にわたり寝食をせずゲームをプレイし続けた結果、死亡に至るケースが度々起こります。
 これはまさに「ゲーム障害」の定義に沿っておりますが、長時間同じ姿勢でいるために死亡に至ってしまったわけであり、ゲームそのものが健康を害しているわけではありません。

 もし、ゲームを勉強や仕事に置き換えた場合、試験のために何時間も机に向かい徹夜しながら勉強をする勤勉な学生は「勉強障害」として、何日間も連続勤務をし時間外労働をしてまで仕事に取り組む熱心な社会人は「仕事障害」として認定されるべきであり、ゲームだから障害が起こるという考え方は、いくらWHOが正式に取り扱おうとも冷静になって考える必要があると私は思います。

■ゲームとギャンブルの歴史

 ゲームを『ルールに則り楽しむための道具』とするならば、5千年も前からあったと言われています。
 もちろんこのゲームはボードゲームであり、現代の私たちが真っ先に思い浮かべるようなゲーム機やスマホアプリによるゲームとは違います。
 電気機械式によるゲームが初めて生まれたのは、1912年に発明されたチェスゲームの「エル・アへドレシスタ」とされていますが、元がチェスであるため、これが最初のコンピューターゲームだと言われても疑問が残るでしょう。

 世界で初めてのゲームとなると人によって定義が様々で一概には言えませんが、有名どころでいうと、
 「スペースインベーダー」は1978年に生まれ、
 「パックマン」は1980年に生まれ、
 「テトリス」は1984年に生まれました。
 1983年にはNintendoが家庭用ゲーム機である「ファミリーコンピューター(通称:ファミコン)」を発売し今に至るので、私たちがゲームと呼んで思い浮かぶものは少なくとも40年以上の歴史があることは確かです。

 一方で、ゲームと同じような軌跡をたどった「ギャンブル」は、古代ギリシャ時代から禁止令が出され、古今東西さまざまな国がギャンブルに熱中する人々に頭を抱え、市政を敷いてきました。
 そして、1970年代には精神疾患のひとつとして世界中が「ギャンブル障害」の研究・治療に取り組んでいます。

■依存症とはなんだ?

 実は、私こと「おとうさん」はうつ病を患っており、向精神薬による投薬治療を受けていた時期があります。
 精神病の薬というと、やはり漠然とした『薬なしでは生きられない体になってしまい、依存症になってしまうのではないか』という不安があり、依存症や薬の知識を自分自身のために調べたという経緯があります。
 そこで得たのは、『精神障害と依存症は違う』ということです。

 例えば「不安で夜眠れない」「学校や職場に行くのが怖い」といった症状をもつ「うつ病」や、「統合失調症」といった病気は、日常生活に支障を及ぼす『精神障害』となります。
 買い物をやめられない「買い物依存症」や、性衝動を抑えられない「性依存症」といった日常生活に支障を及ぼすものもありますが、それらは厳密に言うと精神障害の病名ではありません。
 一方で「ニコチン依存症」や「アルコール依存症」は『薬物依存症』であり、薬物により脳の一部の働きが変化して起こるもので、それがないと正常な状態ではいられなくなってしまうという、身体にとって害を及ぼす病気です。
 そのため、タバコやお酒は例外として、依存性や中毒を引き起こす大麻や覚せい剤といった薬物は多くの国で禁止されているのです。
 そして依存症の治療法は急な断薬ではなく、段階的に薬物を減らしていくことが効果的であると科学的に証明されています。

 余談ですが、うつ病に使用される向精神薬も過剰に摂取することにより、中毒となったり、死亡に至ることもあるのは事実ですが、医療機関では少量づつでしか処方できないように対策が取られていますし、断薬時も長期間かけて減量していく方法をとります。
 症状や年齢によっては向精神薬ではなく漢方薬による投薬も効果がありますので、うつ病かもしれないと思ってもその一歩を踏み出せない方は、漠然とした不安を抱えるよりも、まずは精神保健指定医の医師に受診することをお勧めします。

■混同し不安を煽る「ゲーム依存」という言葉

 実際、つっつ君の通う小学校でも「スマホの依存に注意」とか「ゲーム依存の解決方法」などといった言葉を使い、保護者に向けたお知らせや講演が行われています。

 確かに「依存」という言葉はあります。
 しかし『依存症』という医学用語は非常に限定された言葉であり、ゲームに病名を付けるのであれば「障害」とするのが正しい使い方です。

 日本では「ゲーム依存」「スマホ依存」「ネット依存」という言葉がまかり通っており、あたかもそれらが病名であるかのごとく、誰が作ったのかも分からないチェックシートまで用意される始末です。
 しかも教育機関である学校がそれを広めているのは非常に残念なことではありますが、そもそも私自身はただの親であり、医療従事者ではありませんので、「ゲーム依存」という言葉を真っ向から否定できるだけの立場にありません。
 学校側も医療用語として使っているわけでも論文として発表しているわけでもなく、ただのお知らせ、学級新聞レベルの話です。
 問題提起としての「ゲーム依存」という言葉の使用は致し方ないことです。

 けれども、ゲーム障害を薬物依存と同列に捉え、『お酒も飲みすぎると依存症となるように、ゲームもやりすぎると依存症になる』と言う論法はまったくもって筋違いであり、『ゲームやスマホは依存症になる危険性があるから、取り上げるのが最善』と言う解決方法は依存症の治療方法でもありません。

 冒頭でも書いた通り、ゲーム障害は社会生活において支障が出るほど十分に重篤な状態であることが条件であり、不健全であっても、健康な状態であれば病気ではありません。
 そして、ゲームそのものが健康を害するわけではありません。
 2022年から「ゲーム障害」という病気として施行されるわけですが、今まさに、ゲームに熱中することが病気であるかどうかの議論をしている最中であり、各国で研究がなされている段階です。
 ゲーム障害に限らず、精神医学は発展途上であり、精神障害の分類わけも、治療のための精神薬理学も、まだまだ研究の余地がある医学です。
 例えそれが専門家の意見であろうと、WHOの定義であろうと、私たちは一呼吸置いて見極める必要があります。

 確かに昨今のゲームの中には課金制度のあるものが存在し、ギャンブルと同様に射幸心を煽るものが存在します。さらに言えば、未成年は禁止されているパチスロや競馬を元にしたゲームだってあるのです。
 例えばそれらのゲーム内で勝ったからといって本物のお金が手に入るわけではありません。賭け事の要素がない以上、そのゲームは未成年にとってなんら違法ではないかも知れません。けれど、ギャンブル要素のあるゲームが未成年に推奨されるゲームかと問われればそれは違うと言わざるを得ないわけで、ギャンブル障害がある以上、ゲームによっては障害を引き起こす可能性が十分にあると思われます。
 とはいえ、ただやみくもに『ゲームは依存症を引き起こす』と様々なゲームをひとくくりにして唱えている人たちに対しては、冷静になって判断すべきです。

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