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欠勤が多いと有給休暇が付かない

有給休暇は労働者の権利と、よく言われます。会社側にとっては、年5日間取得させなければならない義務でもあります。

「取らなければ損!」
「取らせなければまずい……」

そんなガチガチ感ではなく、「リフレッシュさせる」「ワーク・ライフ・バランスを図る」と考えれば、有給休暇は労使双方にとって、お互い、より良い意味を持ってくることでしょう。

さて、その有給休暇(ここでは略して「有休」とします)は、入社より半年間経てば付与され、その後1年ごとに新たに付きます。ご存知の方が多いでしょうが、それ以外にも付与の条件があります。

ただお伝えするだけでは物足りないため、ミニ小説風にして述べていきます📙
 
~◇~◇~◇~◇~◇~

 職場から自宅まで車で約10分。ほどよい距離と思っていたが、今日ほど「もどかしい」と感じたことはない。
 目の前の交差点の信号が、赤に変わった。Aは慌てて、ブレーキを踏んだ。
「Aさん、有休、付くの?」
 パート仲間のBの言葉がよみがえってきた。信号待ちをしながら、先ほどの会話を思い出した。
 
 勤務を終え、駐車場で車に乗ろうとしたところであった。別部署のBに声をかけられた。彼女はAより退勤が1時間遅いはずだが、今日は用事があって、早帰りだという。
「30分早く帰れば間に合うんだけど、今日は、仕事、ヒマだし……」
 そのヒマを持て余すように、おしゃべりタイムとなった。
 会話の過程で、Bの口から、「来月、有給休暇が付く」という話が出た。
「そうか! 来月、有休が付くんだ!」
 AはBよりも入社が数日早い。Bに有休が付くのであれば、Aにも付くはず。
 ところが、うれしい気持ちに水を差すように、
「Aさん、有休、付くの?」
 Bが訊いてきた。
「え? 付くでしょ? 入社から半年だし。どうして?」
「欠勤とかしていたでしょ? 大丈夫? 出勤率8割以上ないと、有休付かないよ」
「何それ?」
 働くべき所定労働日数のうち、出勤した日数が8割以上なければ、有給休暇が付かない。出勤率は、直近1年間で計算されるが、入社1年目だけは1年間ないため、半年間でみる。
 Bが説明してくれた。
「知らなかった……」
 Aはガクンとした。過去の職場では、普通に有休が付与されていたから、何の疑問も持たずにいたのだ。
 
 信号が青になった。急ぎたい気持ちを抑えて、ゆっくり発進させた。
 Aがパートとして入社し、約5ヵ月。3ヵ月目のとき、自宅で転んで手を骨折した。そのため、3週間ほどお休みした。それ以外にも、小学生の子供の発熱等で、休みをもらったことが何度かある。
(出勤率? 8割?)
 自分はどうなのだろう? 気になった。本社に確認すれば、手っ取り早い。しかし、気が引ける。自宅に戻れば、手帳にメモしてある。それを見て、計算できる。
(早く帰って、確認したい!)
 車のスピードを上げたくなる。
(それにしても、有休、1年も付かないなんて……)
 先ほどのBとの会話の続きを思い起こした。
 
「来月、有休が付かなかったら、どうなるの? 8割の出勤率を満たせるようになったら付くの?」
 Aはまだ楽観的に考えていた。しかし、そうはいかないようだ。Bが首を横に振った。
出勤率が8割足りなくて有休が付かなければ、その後、1年間付かないよ。次に付与されるのは翌年。Aさんも私もだけど、1月に入社して、有休が付く月というのが7月。今年の7月に付かなければ、次に付与されるのは来年の7月」
 AはBをまじまじと見つめた。元々、総務の仕事をしていたと聞いたことがある。言っていることに間違いはないだろう。
「えー! 嘘でしょー?」
 Aは思わず叫んだ。
 
「嘘でしょ?」
 低くつぶやいた。また赤信号につかまったのだ。今日の運勢、良くないようだ。
(1年間も有休が付かないなんて……)
 うれしいはずの有休に、そんな決まり事があるなんて、何だか非情に思えてきた。
(どうして、3週間も欠勤しちゃったかなあ?)
 2週間で復帰できたのだが、店長から「大事をとって」と心配されたのだ。スーパーの品出しの仕事。手を使うだけに、やむを得ないのだが。
(あー、でも、まだ8割足りていないと決まったわけじゃないし)
 運転席の窓から外を見た。青空が今日は恨めしく思えた。
 
 家に帰るや否や、手帳と電卓を用意した。
「えーと、入社してから今日まで、出勤している日数が……」
 電卓を叩いた。現時点で8割ちょっと。ギリギリセーフか。
 その後の約1ヵ月間、Aは「何事もありませんように」と祈る思いで、毎日を送った。
 
 入社半年後、Aに有休が付与された。
「あ、Bさん!」
 その日、仕事を終え、駐車場に向かうと、早帰りのBとまたもや出くわした。有休の件を伝えると、「よかったー」と、喜んでくれた。
「ついでに訊きたいんだけど」
 再来週、子供の授業参観がある。早速、有休を使うか否か、考えていた。
「有休を使った場合、8割という出勤率はどうなるの? カウントされないの?」
有休を使った場合は、出勤したものと扱われるから、8割の出勤率に含まれるよ。分子にカウントされるということね。仕事中のケガで休んだ場合とか、産休、育休、介護休暇も同じ」
「それならばいいね」
 AはBに礼を言い、帰途に就いた。途中の信号待ちの際に見上げた青空は、いつも以上に、すがすがしく見えた。 

~◇~◇~◇~◇~◇~

最後までお読みいただき、ありがとうございました👩‍💼

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