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ディスタンスラブー夫婦の距離

 コロナ禍で濃厚接触が影を潜め、セックスはいの一番に問題扱いされた。とは言え少子化まっしぐらの日本において生殖活動は最優先事項である。
そこで、政府は下記の通り基準を定めた。
・20代の夫婦は毎日PCR検査の上共同生活が可能。
・一方が30を超えた夫婦は毎日のPCR検査の上、抗体がある場合は共同生活可能。抗体がなくても子がいない場合は共同生活、子がいる場合は性交予定があれば夫側が共同生活に参加が可能。
・一方が40を超えた夫婦はPCR検査の上抗体があれば夫が通う形で週末婚可能。抗体がなければ母体が排卵日の際のみ可能。
・50を超えた夫婦は原則リモート夫婦生活。

 いずれも母と子は同居可としたのは、肉体的接触がない場合の子供の生育に悪影響が懸念されたからだ。いかにも昭和の家庭観である。杓子定規、お役所仕事の日本政府は各人の状況や個体差を認めず、国内は勿論の事諸外国から批判を浴びつつ敢行した。しかしはじめは反対していた一般国民も、8Gの普及に伴い、リアルとかわらない半実体との生活に不便も感じなくなり、徐々に受け入れていった。

 大森教授は朝一の講義を終えて、半実体がバーチャル講義室から退出するとリモートを切った。昨日のチャットのやり取りが頭に浮かび、ため息をつく。
 大学の授業が全てオンラインに変わって久しい。いつもはオンラインといえども気を入れるために講壇に立つ大森であったが、今朝は大学近くの教職員寮の自分の部屋からリモート授業を実施した。規則違反ではないが、どうも気が乗らない。3限は大学から実況しようと準備を始め、窓の外に目をやると、雨上がり特有のむせるような草の匂いがよぎっていた。
 離れていても授業に出ていると大差ない。アロマフィーザーが進化し半実体でも香をほぼ共有できるようになった。リアルで会わなければならない理由はますます薄くなってきた。

 もうすぐ46になる大森教授は傍にある抱き枕にしがみついた。妻と週末婚なんて嫌だ、彼女に触れ、抱き寄せその髪から立ち上がる香りを直接匂いを嗅ぎたい。彼は愛妻家で4人子供を持ってもまだお盛んである。半実体とリンクさせて触感を似せた抱き枕もあるらしいが。。そんな、結婚までしてるのに、学生じゃあるまいし。
 教授は抱き枕から顔をあげた。もし知らない女が勝手に自分の半実体と抱き枕であんな事やこんな事をするなんて気持ちが悪い。妻の言う通りだ。もし妻の半実体を使って他の男が……なんて想像するだけで脳が煮沸する。速やかに半実体庁に届け出て、Youtube映像を回収しラミネートを掛けてもらおう。

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