見出し画像

「テュルク友の会」とは?:巻頭言に代えて

「テュルク」という世界

テュルク」。この一語が指す範囲はとても広い。時代を超えて過去に遡ることもあるし、現代だけでもユーラシア大陸の広範囲にテュルクの人々がいて、それぞれが多様な文化を形成していることはよく知られている。

それほど多様であるので、テュルクとはどんな人々か、という問いに答えるのも、まったく容易ではないことは誰でも容易に想像がつくことだろう。

私個人の話をすると、当初は文字通り「トルコ語」しか見ていなかったし、「テュルク」という言葉にも、特に意識することはなかった。それが、2000年代後半から縁あってテュルク諸語のうちのいくつかについて研究する、または語学教材を作成するという機会を得た。そこでようやく「テュルク」という世界を意識するようになったのであった。

そこからさらに数年、現在に至るまでトルコ語と極めて近い関係にあるアゼルバイジャン語にも興味を持ち、現在はトルコ語とアゼルバイジャン語を軸に、わずかではあるがいろいろなことに関わらせてもらっている。

改めて、ありがたいことである。世知辛い世の中であるなあとは思いつつ、とりあえず「テュルクのある生活」が送れているという点においては満足している。私個人のnoteを見ていただければ、その一端がわかってもらえるのではないかとも思う。

画像1

そんな今の自分にとって、トルコ語やアゼルバイジャン語、さらにはテュルク諸語こそが、趣味と仕事を兼ねたものになっている。トルコ語を志して大学に入学して以来、25年はこの世界に触れていることにもなる。

それほどまでに面白いのですか、と聞かれれば、もちろん面白いですよと答えられる。もちろん、本音で。自分が触れているのはテュルク世界のほんのわずかな部分でしかないのだけど、それでもそこは自信を持って答える。

テュルクの何に興味を持つかは人それぞれだろうが、私自身はもともと言葉の多様性に惹かれていると思っている。

テュルク諸語を見比べるだけでも、面白い。
単純な話では、トルコ語でAという語があるが、ではウズベク語だとどうなるのか?という話だけでもしばらくは語れるくらいに。これがフレーズになるとどうか、さらに文の構造は?等々。

他のテュルクに関わる人も、それぞれにテュルクの魅力に触れているに違いない。ある人はその生活様式や社会に、ある人は歴史に。またある人は、音楽や芸術などに。

このように考えていけば、一言で「テュルク」といっても、その広さと深さを多少なりとも想像していただけるのではないだろうか。到底一人では、テュルク世界の全体を把握することは難しそうだ。

どうせなら、一人ではなくチームで

ありがたいことに、現在に至るまで、国内外でトルコ語に関わる仕事をしてきた。

日本では大学や民間の語学学校でトルコ語講座、トルコ語クラスを担当する機会を得たし、トルコ語の翻訳や通訳でも仕事を賜ったこともある。またトルコでは、5年近く現地に滞在して、仕事として学習者に日本語を教えるという貴重な経験もできた。

近年はトルコ語だけではなく「テュルク諸語」という枠組みで、アゼルバイジャン語やウズベク語にも関心が出てきている。もちろん、その他のテュルク諸語にも。

それぞれの言語のエキスパートたちと顔を付き合わせるたびに、この言語ではこうだ、そちらの言語ではどうか、といった話で盛り上がっている。しかし、こういう自分たちの好きなことの話を語れる場所というのは、決して多くはない。

研究者たちと会う機会は特にこの1年で激減してしまったし(これは仕方ないことでもあるが)、大学等の高等教育機関ではテュルク諸語はおろか、英語以外の外国語科目まで減少傾向にあると聞く。

このまま何もしなければ、本来なら関心を持つかもしれない人々だけでなく、自分自身もテュルク諸語も含めた外国語や文化に触れる機会がどんどん減っていってしまうのではないか?

特にここ数年、そんなことを個人的にではあるが、心配している。

だから、というわけではないが、ツイッターなどのSNSでは「悪ノリだ」という批判を覚悟の上で、かなり目立つようにふるまっているつもりでもある。影響力はたかだが知れているのだが。

それはともかくとして。

テュルク世界の多様性、またその魅力を学び、伝え、そして共有することを目的として、何かアクションを起こせないかな。それも、できれば自分単独ではなくて、同じような方向性と意思を持っている人たちと一緒に

そんなことを思っていた折、タタール語コミュニティの研究をしている櫻間氏(同会副代表)がツイッターで以前そのようなことを言っていたな…と思って相談したところから、「テュルク友の会」の始動がはじまった。

画像3

さらに、どうせなら他のテュルク語学徒にも声をかけよう、ということで、さらに個人的によく知っている2人(奥氏、菱山氏)にも声をかけた。

それぞれトルクメン語、タタール語、バシキール語、チュヴァシュ語などを勉強していて、書籍などの公刊の実績もある。副代表の櫻間氏もマルチリンガルで、彼ら3人だけでもかなりの数の言語に守備範囲がおよぶ。

みんな自分よりひとまわり若い世代ではあるが、実に頼もしい面々である。これに不肖代表を務める私を入れたこの4人が、記念すべき初期メンバーである。

お気づきの方もいらっしゃると思うが、すでに会のロゴマークも作ってある。櫻間氏の素晴らしい仕事である。どのような意図が込められているのかは、ぜひ今後彼女に話していただければと思っている。

4人とも、テュルク世界に—あるものはトルコ、あるものはアゼルバイジャン、またあるものはタタールスタン、トルクメニスタンほか—に実際に触れ、その言葉や文化といった魅力に取り憑かれてしまった人たちと言える。

我々がテュルク世界に実際に身を置き、得ることのできた経験を、またこれからさらに学んでいくであろう様々なことを、関心を持つできるだけ多くの人たちと共有することが、この「テュルク友の会」の目的である。

とりわけ、より深く人々の文化や社会を知ろうとする上で、「ことば」を知ることにかならずたどり着く。この「ことば」を学んでいくこともまた、楽しく意義のあることだということを伝えたい。

こういった思いを共有する機会を広く世に提供することを目標に、この会を立ち上げた次第である。もちろん将来的には、できるだけ志を同じくできる人たちがさらに集まるといいと思っている。

さしあたっては、テュルク世界のさまざまなことを学び、伝えるという活動を通じて、現役で研究に従事する若手・中堅世代の人々の学術的知見を社会への還元と流通を図る、という目標を大義名分として設定している。

もちろん、現在猛威を奮っている流行病の終息も期待しつつ、国内外の人々の文化交流の支援といった活動も視野に入れている。

同じ目標を目指して一緒に活動してくださる、多くの人たちが参加してくれるようにという願いとともに、まずはここに我々「テュルク友の会」の結成を宣言したい。

画像2

今後の各種の活動をみなさまよりご支援いただければ、また一緒にいろいろなことができればという願いをこめて、まずは代表より、ご挨拶を兼ねて。

文責:吉村 大樹(テュルク友の会 代表))