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ここから⇒人生の広場"夕日はどこに沈む?"

夕日と言えば、あなたはどんなイメージを抱くのだろう。
それは海に沈むのか、山に沈むのか?
今回は夕日について書いてみました。

夕日を見にいく

たまに夕日が見たくて海に行く。
僕の住んでいるところからは30分ほどドライブすればすぐ海に行ける。
だから運転免許を取ったばかりの頃はよく誰かと連れ立って海に行った。
そしてあてもない話をしたり、煙草を吸ったり潮風に吹かれたり砂浜を歩いたりして、日本海に沈む夕日を見た。

気持ちよく夕日を眺めるには、よく晴れた日の日没10分前までに海岸へたどり着ければそれでいい。それくらいの時間になっても太陽と海の間には定規二枚分くらいの距離がある。本当にあと10分で全部沈んでしまうんだろうか、と思うほどだ。
だけどそこから太陽は目に見えてわかるほどのスピードでぐんぐん沈んで、一気に水平線へ近づいていく。



太陽が海に溶け込み、その顔のほとんどが海の向こうに隠れてしまってもまだ空は明るい。そこまでいくと今度は完全に沈みそうでなかなか沈み切らない。
案外しぶとい。
でもやがて光は小さく蝋燭のようになって、宵の闇はしずかに広がっていく。

そういう様子を見守っていると、誰といても大抵無口になる。
そしてそれだけで、普段の時間軸から離れた贅沢な気分になれる。

夕日は海に沈むのか、山に沈むのか?

夕日を見たかったら海に行けばいい。それが日本海側に住む人に限定されたリアリティであることに気が付いたのは、つい最近のことだ。日本海側の住民にとって、太陽は山から昇って海に沈むもの。だから僕にとっての海は、一日の終わりをしみじみと見届けられる特別な場所になった。

しかし、それは太平洋側に住む人からすると真逆になる。彼らから見たら、海は一日が始まる場所ということになるはずだ。太陽は海から昇り山に沈む、というのが多くの太平洋側に住む人たちの感覚なのではないだろうか。
(もちろん島に住んでいれば両方見られるし、太平洋側でも湾や岬で海が西側に位置する地域もある。また、日本海側であっても場所、そして季節によっては太陽は海に沈まない。今回はかなりざっくりと、日本を日本海側と太平洋側に分けた場合の話だ)

僕はその真実に石川県能登半島の先端に行った時に気が付いた。そこには禄剛崎と呼ばれる岬があって、白亜の美しい灯台がある。そこの案内板には、ここからは朝日と夕日どちらも見ることができます、と自慢げに書いてあった。なるほど、つまり岬だから西も東も海に面しているということだが、そういう場所は日本海側では確かに珍しいのかもしれない。

僕はこれまで、海で夕日を見るなんていうことは割と何でもない、当たり前のことだと思って生きてきた。しかしよくよく考えてみれば、それが出来るエリアというのは日本の中でも結構限られている。日本は島国だからおおむね日本海側では夕日が見られるはずだが、もっと目を広げて世界地図を見てみるとどうか。大陸に住む人々からすれば、「太陽は大地から昇って大地に沈む」のが一般常識ということになるはずだ。

それが僕にはちょっと不思議なことのように思えてくる。
夕日は海に沈むのか山に沈むのか。
朝日は山から昇るのか海から昇るのか。
この質問の答えでおおよその生まれ育った場所がわかるかもしれない。

それぞれの持つリアリティ

その地域の持つ優位性、ということをしばしば考える。よく見るのは都会と地方との比較。それは経済的、文化的、自然環境など様々な観点から語ることができる。もちろん、どの観点から語るかによってどちらがより優れているのかという答えは全く異なってくる。だからそこに絶対的な優劣というものは存在しない。どちらかがあれば、必ずどちらかがない。

僕はたまたま夕日が見られる地域に生まれ育ったから、海といえば自然に夕日のイメージが浮かぶ。その逆のイメージはまったく持っていない。
人はそれぞれ、各々の地域で育まれてきたリアリティというものを持つのだろう。
知らず知らずのうちに。

実のところ、僕はまだ一度も海から朝日が昇ってくる光景を見たことがない。
朝焼けと共に海から昇る朝日を見たら、きっと気持ちが良いのに違いない。
島だったら、一日は海から始まり海に終わる。
それは一体どんな感じがするのだろう?
ちょっと想像ができない。
自分の持っていない誰かにとっての当たり前。
それを体験したとき、僕たちの持つリアリティは少しだけ新しいものになるのかもしれない。

マキタ・ユウスケ

『ここから⇒人生の広場』は毎週2回更新しています。
バックナンバー
第1回『ここから⇒人生の広場』
第2回『リップクリーム』
第3回『ベンチ』

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