「幻想の扉」~鴉の夢路~
プロローグ
不眠症の鴉が夢路
飛び立つは、常闇の午前三時
夢か現か意識朦朧、新月の夜空は無限の奈落
帰る明日はなく、向かう昨日はもう見えない
迷い戸惑い 飛びかう思考
生死が行きかう回廊の果て
慟哭の墓場
懺悔の座標
邂逅する亡者の後悔
忘却の川 その際に
渡れよ 此岸
留まれ 彼岸
先の見えない夢の奥
幻を追いかけ 想いに果てる
夢見るように逝きたいか
血を吐きながら今を生きるか
幻想の扉が鍵は、己が魂の中にあり
虚空の彼方 鴉が鳴く
プシュケの伝言
花散る終わりの季節
黒い蝶は慟哭す
舞う花びらに追われ、声もかき消されて
散り逝く花に縋りつく
死が理〈コトワリ〉たる黒蝶の
吐息に花は散々と
愛を乞うたびに枯れて逝く
彼は残され
彼女は戻る、輪廻の果てのエルシオン
この思いは届かずに
孤独の園に ただ一羽
夜の声に虚空を仰げば一羽の鴉が舞い降りる
目が合う鴉に「喰らえ」といえど、視線ひとつ答えはない
花びらに刻まれ枝刃に刺され、飛び立つ意識も朦朧と
永久に届かぬこの声に、聞こえるは鴉の鳴き声ひとつ
魔女
新月の身支度
枯れた薔薇の香水に、己が血を一滴と
白い肌に漆黒の髪
麝香の残り香と腐敗の花びら
外には鴉と彼の亡骸
古城の逢瀬はこの世の終わり
永久の愛に目が眩む
裏切られたと知ったのは、己が身が焼けた青空の下
焼けただれた髑髏と鴉の吐息
恨みよりも何よりもこの愛憎の逝くさきを
只、ひとえに彼への思い
舞い降りる、夜の鳥
死人に赤い紅を引き
迎えに行こう 奈落の道行
共に生きようと誓ったあの人を
常闇のゆりかごに捕えに行こう
共に手を取り、小指を絡ませ
愛していると誓った
あの日の過去に
散花のころ
自分の終わりを意識した時に、思うはあなたのその面影。
愛されることはなかったけれど、焦がれた記憶は昨日のように。
夜に生きる父に囚われ夜を生きるその人よ。
虚空を見つめる瞳は、夜を厭い呪いを囁く。
白い肌を憂い、夜を嫌い、私を嫌い。
薔薇園に広がる血潮の花弁。
赤い薔薇はあなたの墓標。
舞い落ちる夜の羽、今夜もただ一人の輪舞。
あなたに焦がれ、悲しみにただれ
満たされぬ程に血をすする
父も、母も、自分自身も、血染めの思慕に終わりはない。
ただ、恋しい
ただ、悲しい
虚しさゆえに、積み上げた屍
蒼い空に鴉が鳴く
燃え盛る、終わりの舞台
太陽に焦がれ あなたに焦がれ
杭からにじむ灰になる孤独、この終わりを歓喜する。
咲き乱れる花嵐
微笑むあなた
青空を渡る鴉
微笑
瓦礫に転がる頭蓋の夢は、有耶無耶にかかる雲の色
茨を食み、薔薇を喰い
歓喜の思いに喜々と笑う
胸骨まであと少し
愛したあなたの乳房を噛み切り
果てはその喉笛に
刻むは、我が魂と思い
焦がれ、愛され、虐げられて
鮮血の唇は、恋を語る
曇天の空の果て、赤い雨が降り注ぐ
想いなぞるは、その微笑
その唇に、その牙に
陶器の亡骸に縋りつく
想い遂げるその間際
腐る眼球をついばむ鴉
想い留まる、悪霊の夢
魂の花束
生あるものには、終わりがあり
形あるものに、永久はない
ただその一生を
花開いて終わるその時を
喜び、怒り、悲しみ、楽しむ
その色とりどりの思いを咲かせ
魂の終わりに抱えて逝く
輪廻に帰り
転生に還る
再び出会ったその時に
思いのたけをその花に
語り咲かせる
魂の唄
鴉
主に背き 天を追われ
探すは散らばる七つの身体
「嫉妬」「傲慢」「怠惰」「憤怒」「強欲」「色欲」「暴食」と
あらぬ罪をその身に受けて
天上の女神は、輪廻に捨てられる
白銀の翼を憤怒の黒に染め
神の嫉妬と高らかに
歌うは醜い鳴き声一つ
不眠症が夜の道行
思うは
悔恨とその面影
あとがき
「幻想の扉」開催中です。
今回は過去作品と新作を合わせて一編の物語として記事を書きました。
天から落とされた鴉が、地上を渡り目にする物語・・
そんなイメージで作品を選び、物語を綴りました。
過去作品は当時に物語を載せていますが、今回は扉を隔てた別世界の一場面として書いています。
各作品では主役でも、視点を変えれば世界の些細な一欠けらに過ぎない。
今回は出展している「幻想の扉」の扉=世界を渡る
その一点で執筆しました。
根底のキャラクターとイメージは制作当時に思い描いているので、作品を思い出しながら彼らになって(なりきって)言葉を綴る。
昔、小説や脚本の勉強したことが今に生かせてよかったです。
会期中に会場にいる原画と合わせて楽しんでいただければ幸いです。
「幻想の扉」
2023年9月11日(月)~9月16日(土)
12:00~18:30(最終日16:00まで)
〒104-0061
東京都中央区銀座1-28-15
鈴木ビル1階
TEL:03-3562-5181
東京メトロ有楽町線
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銀座ギャラリーステージワン
過去作品掲載記事
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