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散花のころ〔幽玄の楼 2023年〕

その吸血鬼の追憶


そのひとは美しかった。
今でも眼を閉じれば鮮やかなほどに、その輪郭をなぞることが出来る。
薔薇が好きなひとだった。
その笑顔を最後まで見る事はなかったけれど、庭園の薔薇に微笑みかけるその横顔を隠れるように見ていたあの子供の頃から・・そう・・
ずっと、焦がれていたと思うのだ。
夜の世界に攫われて、夜の眷属になってしまったあの頃から、貴方は何時から笑わなくなったのだろう。
私を見ずに父を見ずに、世界全てから背を向けて茨の世界に閉じこもってしまった私の愛しい人よ。その命までも鮮血と共に薔薇に差し出し太陽の光の下に永久に姿を消してしまった人よ。
塵となり地に返ってもなお、何かを乞い憂うように薔薇の苗床となりその腕に棘を宿して縦横無尽に這わせては憎い男さえもその身の糧にした貴女。
この茨の古城でただ一人、取り残された私は貴女の求めるモノに値しない存在だったという事だろうか。

愛しい貴女

孤独は死に至る病というが、なるほどそうではないかと思うのだ。
私に「死」という概念は無いのだが。
夜に生き闇夜に住まうものは、生まれてより病に侵されているのではないかとも思う。
今の私は病に侵され生きる道も閉ざされた。
この渇きは幾年も私を攻め苛み、心臓の痛みで息さえ出来ない。
自分の血潮も恨めしいほどに恋焦がれる。
どうして貴女は私を一人にしたのか。
網膜の貴女よ
陽光に照らされ、鮮血の滴と共に薔薇になった愛しい人よ
もうすぐここまで火が回る
この崩壊を聖火としこの身の穢れを全て燃やし尽くし
薔薇が散り、花弁が燃え盛るなかで
花散る今、
あなたに会いに逝く

散花のころ

273×220㎜/インク.パステル.ボールペン.ケント紙


「幽玄の楼」その制作の追想

今年、暫くは展示参加を控えようと思った。
昨年に父が旅立ち、制作のエネルギー源が消えてしまったからである。
「分かってもらえない焦燥と孤独」が腹の中でメラメラと燻りそれが制作の糧になっていたように思う。
だいぶ変わっていた子供だった。
過去の自分を客観視してみると理解できない事が親としては多かったように思う。風の音に過剰に反応し泣き出したり、とても困った子供では無かったか。それが物心ついて学生時代を経てなお続き心配させたのではないかと思い返す。
その当時の私は、理解できないと言葉にされ理解される事を諦め自身の中に閉じこもってしまった。
理解されないというのは、愛されなかった事に等しいと当時は思ってしまっていた。
馬鹿な考えだったと今では後悔している。
しかし当時の自分では親の心など計れない程に孤独に苛まれていた。
「居なくなって始めて気付く」という事を死別という出来事で体験する。
話し合う事で、理解し合えなかったかと思いを馳せても過ぎた事。
散々泣いて、泣き腫らした後にメラメラとした心の熱は消失してしまった。
悪い事では無い、焦燥感と孤独は生きる事を蝕んでしまう。
ただ、制作する核が浄化されてしまい何もなくなってしまったので
暫く制作は難しいと判断した。
絵を描く事、表現する事は辞めたくないので残り火で何とか描いていたが、年が明けてすぐ燃え尽きた。
そんな時にギャラリーから展示会の募集メールが来た。
「幽玄の楼」
テーマは「ゴシック」
招待作家はToru Nogawaさん

Toru Nagawaさんによる、メインビジュアル作品
美しい青色である

憧れの作家さんである。
何度も銀座のギャラリーの個展に足を運び食い入るように拝見していた、素晴らしい作家さんである。
その世界観は壮麗で、人物は意志の強い視線でこちらを見るが、舞台の照明である青色が物悲しく胸を締め付ける。
そんな人と同じ空間で展示が出来るという報せ。
考える間もなく『参加表明』のメールを送った。
しかし、何もない
自信はない、熱意も燃え尽きた
だけれども、この機会を逃すことはどうしても出来ない。
遮二無二に自分の世界観を作った音楽を聴き直し、画集を見直し
世界観の概略を練り、白い紙に作り上げた。
ペンを置いた後には全てを出し切った。
自信は無いし、珍しく自分の作品を客観視することが出来ず不安である。
しかし、今できる事は全てできた満足感が救いである。
会期までほぼ一週間を切った。

Toru Nagawaさんの素晴らしい作品と同じ空間に飾られる自作を想像し緊張の日々ですが、楽しみでもあります。
五月のはじめ紫陽花の名を持つギャラリーに
お近くの際は是非、ご来場ください。

https://gallery-hydrangea.shopinfo.jp/posts/39735017

2023年5月17日現在会期終了
6月までギャラリーオンラインショップで掲載中

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