見出し画像

[無料] 番外編 東南アジア生活のこぼれ話

プロローグ

さて今宵は、私の昔話についての話でも、してみましょうか。

もう何年前の事になりますかね。
私がベトナムで暮らしていたのは。

私は、生まれも育ちも日本でしてね。埼玉の田舎町で世間知らずに育ったのですよ。長らく実家暮らしでね。

ええ。自分では身の回りのことさえ何も出来ない甘ちゃんでしたよ。
良い歳をしてね。

恥ずかしながら、自分で洗濯をしたことさえも無かったのですよ。

そんな私が一人暮らしの経験もないまま、突然、東南アジアに暮らすことになったのですから、そりゃまあ、周りの友人からは反対されましてね。

「お前じゃ無理だ」と。

友人たちは私の人となりを良く理解していたと思います。
適切なアドバイスでしたね。
実際、私も無理だと思いましたよ。

そう言うと、あなたは不思議に思いますかな?
どうして私が海外に行こうと思ったのかと。
そう考えるのも当然でしょうな。

まあ、気の迷いと言うんでしょうか。きっと海外暮らしを舐めていたんでしょう。今思えば、あの頃の私を手のひらの掌底でガツンと殴ってやりたい気持ちですな。

今回は、そんな世間知らずだった私が経験したショッキングな出来事について、あなたに聞いてもらいたいんですよ。

ショキング、というと大袈裟ですかな。あなたにとっては、くだらない瑣末なことかもしれませんがね。あの頃の私にとっては、そりゃまあ、晴天の霹靂だったのですよ。

退屈かもしれませんが、お付き合いしてくれませんか。
少々、長い話になるかもしれませんがね。
昔を思い出しながら、ゆっくり話をして行きますよ。

のんびり聞いてもらえると嬉しいですな。
そう、ゆっくり、酒でも飲みながらね。

ベトナムで洗濯機が壊れた話

さて、私がベトナムのハノイで暮らし始めたばかりの頃。
あなたは知ってるしれませんが、ベトナムではサービスアパートメントが一般的でしてね。掃除のおばちゃんが、洗濯から部屋の掃除、ベッドメイクまでしてくれるのですよ。

まあ、至れり尽せりなわけでして。

サービスアパートメントでの珍事

もちろん、これにまつわる、面白い話も色々ありましてね。
聞いた話ですけど、自分の洗濯物にマジックで名前が書いてあった、なんてことも昔はあったらしいですな。
また、急な用事で仕事中に自分の部屋に戻ってきたら、掃除のおばちゃんが、お風呂に入っていたなんて話も聞きましたよ。「出ていって!」と言われて部屋を出たものの、そもそも俺の部屋なんだけど、なんてこともあったとか。

まあ、私が見たわけではないですし、事実かどうかは分かりませんけどね。
そんなこともあるでしょう、と言うことは、東南アジアに暮らした経験のある人なら、分かってもらえると思うのですがね。

おっと、話が逸れてしまいましたな。

海外での洗濯トラブルの始まり

今回は、洗濯機にまつわるトラブルの話でもしましょうか。
ベトナムはサービスアパートメントなので、洗濯を自分でする必要はないのですがね。

これは私の性格なんでしょうな。
洗濯物を人任せにしたくないというか、どうせなら自分で洗濯したいと言う拘り。

ええ、契約時に「なんで自分で洗濯したいの?私たちがやるから必要ない」とエージェントからも言われましたよ。「これが日本人のこだわりなんだ」と伝えましたが、そもそも、現地では、ほとんどの日本人が自分で洗濯などしないのだから、きっと相手も意味が分からなかったでしょうな。

でもまさかね、この私のこだわりが、後になってトラブルになるとは、思いもよりませんでしたよ。

入居時に感じた洗濯機の違和感

部屋には備え付けの洗濯機が一台ありました。ただ、どう見ても使われていた形跡がない。
なんというか、洗濯機から邪悪なオーラが出ていました。

これはヤバい、この洗濯機は使ってはいけない、本能で、そう感じた私は、エージェントに洗濯機の交換を申し出ました。
もちろん、備え付けの洗濯機を交換することなど出来ない、そう言われました。

ただ、ここで引き下がるわけにはいかない。私の本能はそう告げていました。

洗濯機を新しく購入する

「わかった。それなら洗濯機の購入費用は私が全額負担する。それなら良いでしょう?」と最大限の譲歩をしてみたのです。

相手は「それは困る。そんなことをしてもらうわけにはいかない」
と言うので、「じゃ、洗濯機を買ってくれ」と私が言うと「それは出来ない」と。

おいおい、これじゃ堂々巡りじゃないか、そんなやりとりを30分ほどしたでしょうか。
エージェントが、何やらどこかに電話をしはじました。
コンドミニアムのオーナーでしょうか。

しばらく話の行方を見守っていた私でしたが、話が終わったようなので「どう?」と聞いてみたわけです。

「OKよ。洗濯機を新しく買いましょう。でも、これはあなたの都合なので、私たちが半額負担しますが、残りがあなたが払って頂戴。そして、マンションを出ていく時は、洗濯機を置いていくこと。それが条件よ。」

なかなかに商魂逞しい提案ですが、どのみち、賃貸でマンションを借りてますし、家具は全て設置されているのが普通ですから、洗濯機を他のマンションに持っていくこともないだろう。

そう考えて、あちらの提案を快諾したのです。さりげなく「日本製の洗濯機で頼むよ。」と伝えることも忘れませんでしたけどね。こうして、私の洗濯ライフは順調に幕を開けた・・・かに見えました。

ええ。この時は、何も心配などして無かったのですがね。

洗濯機のトラブル1日目

さて、新居への入居も終わり、ベトナムでの生活を始めて1週間ほど過ぎたころだったでしょうか。

突然に。そう、それは突然にやってきました。あの暑い夏の日。
いや、待てよ、ベトナムは冬以外は大抵暑いので、あれは夏の日だったかどうか。ただ、猛烈に汗をかいて家に帰ってきたことだけは、今も鮮明に思えていますよ。

すぐに衣類を脱いで洗濯を始めたんですよ。いつものようにね。
ところがね。洗濯機が動かないんですよ。いや、正確には1分ほど動いた後にね。止まってしまうんです。

これは困ったな、咄嗟に私はそう思いましたね。
サービスから洗濯サービスを外しているので、自分で洗濯するしかない。
コンドの一階には、マネジメントオフィスがあり、必ず受付が常駐しており、何か困ったことがあると、いつでも相談できるようになっていたんですよ。すぐに相談に行きましたよ。夜の8時くらいでしたかな。

洗濯物を手で洗う!?

受付は若い女性でしたね。いつも1階で顔を合わせていたし、それなりにコミュニケーションをとっていたので、仲は悪く無かったのですよ。

相手の女性から「洗濯物は手で洗えるじゃない。」と言われましてね。
「慌てないで。今日は遅いから、明日の朝に担当に電話しておくから」と。

「それは困るなあ・・・」と駄々を捏ねていたら、私より2回りは若い女性に諭されましてね。
「日本ではそうかもしれないけど、ここはベトナムだよ。私だって、子供のころは手で洗濯していたよ。洗濯機がないぐらい、大したことじゃない。」

「いや、それは無理でしょ」を驚く私を見る、彼女の目はなんとも切ないというか、なんと言うんでしょうな。

自分を恥じましたよ、自分の軟弱ぶりにね。
洗濯はボタンを押すだけ。この時の私は、そんな常識に囚われすぎていたのかもしれませんな。

とはいえ、その日は夜も遅いし、洗濯物は取り置くとして、まずは明日に賭けようじゃないかと。うまくいけば、明日には洗濯機も治るはず。

その時はね、そんな安易な気持ちでしたな。
今思えば、甘かった。

洗濯機のトラブル2日目

2日目。その日の仕事中に先方から電話があり「洗濯機は治ったわよ」と連絡があり、私はすっかり安心していたのですよ。
案外、大したことなかったなと。

洗濯の先行きに再び暗雲が立ちこみ始める

でもね、仕事を終え、家に帰って受付で言われたのは「洗濯機を確認したけど、壊れてなかったそうよ。」
とのこと。いや・・・そんなわけないでしょう。

首を捻りながら部屋に戻り、念のため洗濯機を使ってみましたよ。
ええ、もちろん動きませんね。わかってましたよ。昨日も散々、確認したんですから。
というか、受付の女性も一緒に確認したよね?動かなかったよね?

と思いながら、1階に戻り、受付に「洗濯機が動かん」と再び陳情しましてね。
「確認したのはマネージャだから・・・」
となんとも曖昧な返事を聞きながら、とにかくその場でマネージャに電話してもらい事情を説明。明日、整備担当のエンジニアに見てもらえることに。

正直、今日、エンジニアに見て欲しかった・・・と言う思いを大人な気持ちでグッと飲み込み、その日は就寝。

洗濯物は2日ぶん蓄積。明日ダメだったら、手で洗おうと思いながら寝たせいですかね。ベトナムの暑い夏の夜のせいもあり、その日は、軽い悪夢にうなされましたよ。

こうして、洗濯機トラブルはついに3日目に突入することになったのです。

洗濯機のトラブル3日目

もはや、私が立ち合いしないと不安なので、エンジニアが来るのを部屋で待つことにしました。
そして午前中、部屋にやってきたエンジニアらしいおっちゃん。

日本製の家電は壊れないという神話

ベトナム語で話すので、ちょっと意味がわかりませんが
「この洗濯機は日本製だ!日本製の新品が壊れるわけないだろう」
みたいなことを言ってます。私もそう思いたい。

ベトナム語はわからないものの、なんとなくニュアンスで相手の気持ちを察するスキルを身につけつつあった私。
まあ、この場ではそう思って聞いてくださいよ。

このおっちゃんに、洗濯機が壊れていることを、症状を見せながら10分ほど会話すると、おっちゃんも理解した様子。
「わかった。あとで連絡するわ。待っとけ」
みたいなベトナム語を話して去って行きました。

(おっちゃんよ、今は日本製といえども海外モデルは特に安価だし、壊れるんよ。むしろ海外製の方が丈夫だったりするんよ。)

と心の中で呟きながら、ベトナムの外国人向けのコンドミニアムには、まだまだ日本製の家電は使われてましてね、日本人としては、ちょっと嬉しい気持ちにもなりましたがね。まあ、洗濯機は壊れているんですけどね。

侍の心意気

こうしてようやく、これで状況をようやく共有できましてね。
これでひと段落。あとは解決に向かっていくだろうと。
そんな手応えを感じたので、その日は職場に向かいました。

いつ修理してくれるかだなあ、と思いつつ、「今日は洗濯を手で洗おう」と考えていたので、仕事も手につかず。
このときの会社の同僚達よ、あのときは申し訳ない。

サービスアパートなので洗濯物は頼めば洗ってくれることになっていました。しかし、ここまで来れば男の意地です。

何を馬鹿なことを言ってるんだと笑われるかもしれませんな。
しかし、日本人だって昔は、洗濯板で洗っていた時代があったじゃないか。
手で洗えないことはないはずだ。

やってやろうじゃないか、そんな気持ちにさえ、なってましたよ。

侍の心意気です。
手で洗うか、洗濯機を直すか。
そんな決意でしたね。

そんな矢先に再び暗雲が立ち込める

さて、仕事を終えて家に帰ってくると、1階で受付の子が話かけてきました。
「あのね、洗濯機だけど、明日、エンジニアが状況を確認にくるそうよ」

ん?今日の午前中に確認に来た、あのおっさんは誰だったんだ?と思い聞いてみると
「あの人は、このビルのメンテナンスの人よ。」

ははあ、なるほど。つまりあれか。3日かかって、ようやく洗濯機が壊れている、その事実が関係者に理解してもらえたのだな。

軽い絶望感を覚え、少し眩暈を感じましたが、まあ、ここまで来れば、ゴールは近いと思い直しましてね。

ベトナムでは、こうして順番に理解していく過程がとても大事だと言うことを後に理解することになるんですがね。このときの私は、まだまだアマちゃんでしたな。

その日、私は浴場で洗濯物を手で洗うことにしたのですよ。
これが思いのほか重労働でしてな。ただただ暑い。汗が止まらないのですよ。
これは、明日は無理だなと思いましたね。侍の心は簡単に折れました。

ただ、あなたには、これだけは伝えておきたいのです。
洗濯は重労働だと。甘くみてはいけない。

日本の先人たちよ、
この軟弱者の私は、ボタンを押すことしかできない、それが洗濯だと思って生きてきました。こんな私を、どうか許してほしい。

洗濯機のトラブル4日目

この日も自宅でエンジニアを待ち受ける私。
もはや、不在という選択肢はない。私はそう決意していました。

そして、コンドのマネージャーさんがエンジニアとやってきます。
2人に昨日と同じ説明をし、洗濯機が壊れている症状を実際に見せます。
「あら・・・確かに壊れてるわね」
とマネージャさん。

はい、4日前から、ずっとそう言ってます。
ようやく、納得してくれましたか。

「オッケー、わかったわ。確認できたから修理するわね。また連絡する。」
というので「いつ直る?」と聞き返す。

というか、それが一番大事なところ。
初期不良だから、別の新品に変えてくれ、とも依頼。
こうして、洗濯機のトラブルは、ようやく解決へと動き出すことになったのです。

さて、洗濯機が新しいものに交換されるまでは、何日がかかりそうだったので、洗濯の問題を解決しないといけない。猛暑のベトナムで、一人風呂場で洗濯を手で洗うのは、あまりにも切なすぎます。

私は、自分の信念を一時的に曲げ、泣きの洗濯サービスを依頼することにしました。もうね、このときは、ただ洗濯物をなんとかしたい、その一念だけでしたな。人は追い詰められると、どんどん落ちていくものですな。

「だから、最初から言ってるじゃない」とマネージャに言われつつ、私も心の中で(仰る通り)と思いながら、ありがたく洗濯サービスを使うことになったのです。

エピローグ

どうでしたかな。日本も今年の夏は暑いですから、こんな寝苦しい夜には、ピッタリな話だったのではないですかね。
少しは涼しくなってもらえましたかな。

実は、この2年後に今度はマレーシアでのセカンドステージが始まるのですがね。
やはり、このときも、新品の洗濯機が故障することになるんですな。
まさに、一度あることは二度ある、とはこのこと。

このときも、ベトナムとは違った形ですが、マレーシアのオーナーさんとは珍妙なやり取りをすることになるんですな。
今宵は、夜も耽けたことですし、話はこのくらいにしておきましょうか。

もし機会があれば、今度はマレーシアの話をお聞かせしますよ。
ええ、あなたが今夜の話を退屈しなかったのならね。

それでは、またお会いしましょう。次に会えるのを楽しみにしていますよ。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?