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カナダでエンジニアとして働いてわかった、理想と現実

随分昔のことですが、カナダのバンクーバーで2年半ほどエンジニアとして働いていました。
2000年の最初のネットバブルの時代で、すごい勢いのあるときと、その後の失速したときとを両方経験したので、そのときのことを書いてみたいと思います。

欧米で働くというと自由な社風や会社のシステムが全然違うとかいろんな話を聞きますが、僕が経験したことで最初に思っていたところと違うところや、実際にそうだったところなど書いてみたいと思います。

なお、僕が働いていたのはアメリカではなく、カナダのバンクーバーという小都市かつ20年ほど前のことなので、今とは状況が少し違っているとは思います。


カナダに外国人はいない?

これは日本にいるとかなりわかりにくい感覚ですが、カナダにいるとカナダ人、外国人の区別がほとんどないです。というのもカナダでは移民がとても多く、白人でなくても、英語がほとんど話せなくても永住権や市民権を持っている人がたくさんいます。
なので、街中ではアジア人であっても、英語が話せなくても特に外国人という認識で見られることはないです。

僕がカナダの会社に入社したときの面接で面接官は僕が労働ビザを持っているかどうかを全く聞きませんでした。
僕の英語がつたなくても、日本人だったとしてもすでにカナダに住んでいるカナダ人だと思っていたので、労働ビザなど必要ないと考えていたのでしょう。なので、あとから労働ビザの取得が必要となり、人事の人に「お前のせいでめちゃくちゃ面倒な手続きしているよ」と後で皮肉を言われました。

ただ、あなたは何人(なにじん)かという話は会社であがることはありました。それは「あなたの祖先はどこからカナダにやってきたんだ。」という意味の会話でした。
なので、僕がカナダで「俺はカナダ人だ」といっても誰も何も違和感を感じないです。

実は日本もすでにそういう感覚に近いところにに突入しているとはいえますが。

社長は基本褒める

厳密にいうと社長はアメリカ人だったので、アメリカの会社なのかもしれないですが、この社長に限らず、上司や学校の先生などは基本褒めることが前提でアドバイスします。ちょっとしたことでもこちらがびっくりするほど褒めてくれます。
「Good Job!」「Great!」「Fabulous!」「Awesome!」などさまざまな言い方で褒めてくれます。
僕は欧米の人たちはなんでもズバズバストレートに言うというイメージを持っていたので、これはとても意外でした。その割に後述するように、レイオフはズバッと行うので、ストレートに物事をそんなに言わないでは?という印象があります。
こう言った褒める背景がなぜあるのかは僕もいまだによくわからないのですが、とりあえず褒めることで能力を伸ばすという考えが根底にあるのではと思っています。
日本のように「苦労してなんぼ」のような考え方の基礎はなさそうでした。

ちょうど最近こんな記事を読んだのですが、これに近い感覚ですかね。

天気がいいから早く家に帰れと言われる

こちらはまさにカナダぽい思想です。
カナダのような緯度の高いところにある国は夏が日照時間が長く、冬はとても短いです。
夏は22時くらいまで明るいが、冬は16時くらいでもうくらいです。
(サマータイムの影響もあると思います。)
特にバンクーバーは夏の2ヶ月くらい意外はずっと曇りか雨なので、夏の時間をとても大事にしています。従業員の意見で夏の勤務時間を前倒しして8:00-17:00になりました。仕事のあとの時間を楽しみたいという要望です。
僕はたまに仕事が捗っている時はもう少し作業したいと思い、18時〜19時くらいまでしていました。そうすると社長がやってきて「シン、天気がいいのでもう帰ったほうがいいよ」と言ってきます。
天気がいいことはこの国では仕事よりずっと重要なのです。


仕事はジョブ型雇用

今、日本でもジョブ型雇用といって、社内でいろんなポジションを経験させて育てるより、即戦力でそのポジションの仕事にだけ任せるというやり方が増えてきていると聞きます。
僕がいた時代のカナダではそれが普通でした。

社内で上司、部下という関係はありますが、新卒を雇用して育ているという文化もないですし、エンジニアがディレクターになるという道筋もおそらくないです。
これはいい意味では自主性があり、個人を尊重しているという形ですが、悪い意味では必要のないポジションになった場合は会社もすぐにレイオフなどをして人員構成を変えてしまうということです。

後述するように、レイオフはなんの前触れもなく行われるので、能力のある人にとっては特に問題ないシステムですが、歳をとったり、あまり得意な武器がない人にとっては結構つらいだろうなと思います。

ちなみに、英語がネイティブでない従業員はみんな英会話を習いにいくという社内の育成制度はありました。エンジニアチームの8割が中国人で、みんな中国語で会話していたので、それは社長としても困っていたのでしょう。

税金は半端ない

今は日本の社会保険も相当な割合ですが、カナダの税金も半端ないです。
まず僕の所得税は給料の約25%くらいでした。毎月かなりがっつり引かれています。
かなり大雑把な感覚ですが、毎月40万以上もらう人はそれ以上高くなっても、所得税を引かれた後は数万円の差しかないという感じです。

さらに消費税は最大14%あり、たくさん働いても結構な金額が税金で持っていかれます。
なので、もっと働いてお金持ちになるという指向の人は極めて少なかったです。


レイオフ(解雇)は突然やってくる

2000年頃のネットバブル崩壊はとにかくすごかったです。知り合いの会社ではある日全員解雇とか、朝きてみたら会社に入れなくなっていたとかあったのですが、僕の働いていた会社も同じ波がやってきました。
ある日、うちのR&Dチームのリーダー含め、幹部たちが午前中ずっとミーティングをしている日があったのですが、午後に急にチームリーダーがこう言いました。
「みんな、今からレイオフがあるので、一旦PCの電源を切ってそのまま待ってもらえるかな。」
そしてみんな不安そうな顔で待っている中、内線電話が鳴ります。その内線電話がかかって来たものがレイオフになります。そのまま自分の荷物も持たずに社長とチームリーダーの待つミーティングルームに呼ばれ、少しだけ話をして、そして解雇、そのまま帰宅です。
自分の荷物はというと、受付の子がその人の席に取りに来て、出口で渡します。

1回目のレイオフは13人が解雇になり、その後数回続きました。50名弱いた従業員ですが、気づいたら13人ほどになっていました。

レイオフのあとは決まって社長からの話があります。
「今回のレイオフは残念だが、今後会社が新しい方向へ進むためにやむを得なかった。残りのメンバーで次へ向かってがんばろう!」というような話しなのですが、まあ業績がよくないというのが正直なところなのでしょうね。

それでレイオフされた人はどうなるかというと、基本は失業保険をもらいます。
カナダではおそらくですが1年半ほど働くと、半年以降の失業保険が出る(それもそれなりの額が出る)ということで、みなさんレイオフされてもその後は少しのんびり暮らすという人が多いです。
社会保障の厚さと税金の高さ、このあたり兼ね合いでみんなあんまりバリバリ働かないのではと感じました。
(※ 今はもしかしたらもっと状況は変わっているかもしれないです。)


長年いると憧れの海外生活も、長期間いると普通の日常生活になってしまう

外国に住むことに憧れていて、カナダでは労働ビザも取得し、最終的には移住まで考えていたカナダでしたが、結局日本に帰ってきました。
永住権をとるのに失敗したというのが大きな理由ですが、ずっとカナダで暮らすということに対しても少し不安を抱いていたのは事実です。

それは何かというと、僕には向こうでバリバリとキャリアアップしていくための語学力が備わっていなかったからです。
働いた当初は「海外で現地の会社で働く僕はとても幸せだ」と思っていたのですが、日常生活にも慣れるにつれ「海外で英語が中途半端なただの外国人としてずっと暮らしていけるのか?」という不安がよぎるようになりました。30歳をすぎると日本ではリーダー的なものも任されることが普通なのに、僕は下っ端のエンジニアとしてでしか経験がなく、ビジネス経験自体もかなり乏しいので、一旦日本で経験を積もうということで帰国しました。

毎日徒歩でいけるビーチも嫌いになったわけじゃないけど、お酒を飲んだあとにラーメン食べたいなとか、もっと自分が中心になってプロジェクト進めたいなとか、カナダでの生活でいろんなことに慣れるにつれて、いろんな欲望や、将来に対する不安が増えてきました。
概して日常生活とはそういうものなので、これは海外生活に限ったことではないのですが、慣れるということはつまり飽きることに直結しますね。


ということで考察というよりは事実を淡々と書いた感じになってしまいました。
今となっては日本とカナダ(厳密にいうと東京とバンクーバー)どちらで暮らしていたほうがよかったのかはわからないですが、「外国ではこうだから日本はダメだ」みたいな極端な考え方ではなく、どちらもメリット、デメリットがあるというのが自分でも納得しながら生活できているのは、このときの経験があるからだと思っています。

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