第613回 漢詩の世界の様式美か

1、漢詩と詩人その4

『文選』に収録されている作品と詩人を紹介する連載の4回目

これまで謝霊運や謝瞻、謝混と一つの一族の紹介をしてきましたが

関係性が分からなくなってきましたので、

Wikipediaと本書を参照して系図を整理してみました。

画像1

今後も追記していくということで、何か誤りなどありましたらご指摘ください。

2、詩人の経歴と作品

今回取り上げるのは謝恵連。

上の系図の右の方にいるのがお分かりでしょうか。

謝霊雲とは少し遠いですが、世代的には近い存在だということが

お分かりでしょうか。

10歳で文章を作成し、謝霊雲は恵連と話しているときに優れた表現が思い浮かぶ、と高くその才能を評価していたと伝えられています。

父の喪中にも関わらず、恋人に詩を贈ったことで罪に問われ、

出世はかなり遅れることになります。

やがて宋の第3代皇帝文帝に文才が認められ、彭城王劉義康の下で司徒法曹参軍となりますが、若くして亡くなりました。

掲載作は

湖に浮かびて帰り楼中より出でて月を玩ぶ(湖で船遊びして、高楼から月を愛でる)

引用にあたっては一部の漢字を変換するのが難しかったので

類字に直しているところがあります。

( )は私の超訳ですのでおかしいところありましたらご指摘ください。


日落ちて澄瀛に浮かび (日が暮れて湖に船を浮かべると、)
星羅なりて軽櫂を游ばしむ(星が連なって見えるので船の櫂はせわしなく動く)
楼に憩いて曲汜に面し (高楼に登って一息ついて川の流れを眺めると、)
流れに臨みて回潮に対す(潮の満ち引きも見て取れるほどだ。)
策をとどめて、共に筵を並べ(杖を置いて、共に敷物を並べ、)
坐を並べて相い招き要う (向かい合って宴に興じる。)
哀鴻 沙渚に鳴き (オオトリの哀しい泣き声がなぎさにこだまし、)
悲猿 山椒に響く (猿の声も山のいただきに響いている。)
亭亭たり江に映ずる月(川面に映る月と、)
瀏瀏たり谷を出ずる風(谷を吹き抜けていく風。)
斐斐として気は峰を幕い(軽やかな山の気配が辺りを覆い、)
泫泫として露は条に満つ(滴る露が枝に満ちている。)
近く見て幽蘊を除き(近くに目をやれば胸の奥の憂いを取り除かれ、)
遠く視て喧囂を洗う(遠くを眺めればやかましい世間の雑事を洗い流してくれる)
悟言して罷るるを知らず(語り合いに夢中になって、お暇する期をつい逃してしまい、)
夕より清朝に至る(夕方より明け方まで過ごしてしまったよ)

3、いつの時代も最高の気分転換は

いかがだったでしょうか。

水辺と高楼、友と酒

典型的な漢詩の世界観ですよね。

名族に生まれ出世街道を進む一族もいれば

うまく世渡りできず、文学の世界に嘯くものもいる。

経歴のところで紹介した恋人、というのは実は男性だったという説もあり、

友だろうと恋人だろうと

気の合う仲間と語り合って夜を明かすことほどの幸せは

いつの時代にもないのかもしれませんね。

正月休みもそろそろ終わり、という声も聞こえてきました。

宴の後は気持ちを切り替えて、また新たな日々を過ごしていきましょう。


本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。


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