第918回 ユネスコに対する不信感があったころ
1、国会会議録検索システム
を使って「文化財」という言葉が国会でどう語られてきたのかを
戦後の第一回国会から少しずつみてきたこのコーナー。
ちなみに前回はこちら。
2、第13回国会 参議院 文部委員会 第35号 昭和27年5月22日
ここではユネスコ活動に関する法律案が議論されています。
質問者はこの連載に何度も登場している岩間正男議員。
ユネスコ憲章を受諾し、国内委員会を設置してどんな活動がなされるのか、という問い。
文化活動は民間の自主性を重んじるべきなのに
国による官僚統制という弊害はないかどうかを問うています。
回答したのは国語学者で文部大臣官房渉外ユネスコ課長であった釘本久春。
国内委員会の目標はあくまでも世界的にこのユネスコ活動が展開するように、それに役立つようにするということであり、
加盟国六十五ヶ国のうち、五十八ヶ国がすでに設置していると答弁しています。
岩間議員の危惧は朝鮮戦争における国連の対応に起因するもののようで、
国連の警察軍が朝鮮の問題に介入したことを重くみているようです。
当時の人々の中には太平洋戦争中の権力による文化統制の記憶が鮮明に残っていたのでしょうね。
文化活動に政治が介入すること、それによって文化が歪めらることを危惧しているのでしょう。
これは世界文化というものを推進するんだと、そうして飽くまでも世界の隅々までそういう精神を徹底させるんだと、そうして平和を希求するんだとこういうことを謳つていながら、どうもああいうような形で対立の或る面を一方的に支持することによつて重実この後にこれはひびが入つて行くんではないですか、運動に。
ただこの訴えは届かなかったようで、
会話が噛み合っていない、もしくは意図的にはぐらかされている様相を呈しています。
国会では今も昔も同じ光景が繰り返されているという感じです。
国連という組織の矛盾、世界中の国々の利害を調整することの難しさをどう捉えているのか、ということを問われていると理解しつつも
日本一国だけですぐに変えられる体質ではないというのもまた事実。
さらにこの問題について高橋道男議員からも質問がなされています。
高橋議員は天理教団との関連が深い人物で、その関係性もあって
ユネスコ国内委員会に宗教団体からの人物が入れられるのかということを問うているようです。
釘本氏からの答弁としては、あくまでもユネスコは宗教に対して中立を旨としていることと、
委員会の構成は今後予定されている第1回委員会で審議されるということを述べています。
高橋議員は欧米中心のユネスコがキリスト教団を優遇するのではということを恐れているようですが、
釘本氏は
我が国におけるユネスコ活動の方針といたしましては、一宗一派に偏することなき態度を堅持すべきものだと私ども考えております。
と明言され、答弁は収束します。
今となっては仏教や神社に関連する文化財が多い我が国において
ユネスコの国内委員会からキリスト教以外の宗教が排除されるなんてことは
ありえないと思ってしまいますが、
当時の状況はそれを問わずにはいられない雰囲気があったということなのでしょうか。
結局岩間議員は反対の立場を表明しますが、賛成多数で可決されることになりました。
3、欧米中心主義からの脱却
いかがだったでしょうか。
ユネスコが欧米中心主義だという考え方は、すでに遠い昔であったように思いますが
この頃はまだそういう見方が強かったということが実感できる国会答弁でしたね。
ついこの間までGHQの占領下にあった当時の雰囲気が伝わってくるようです。
今後も国会議事録を追いながら日本の文化財行政の歩みを振り返ってみたいと思います。
本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
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