第973回 2020年の歴史ニュース日本編その1 調査成果編

1、今年も歴史学は間違いなく前進した

昨日公開した海外編に続き、本日は日本国内でのニュースを取り上げます。

まず第1段としては調査成果編。

これは発掘調査だけではなく、科学的な技術を用いた分析や資料調査など広く捉えて、今年度新たに発表された調査成果を含めています。

あくまでも個人的な主観で選んでいますので、学史的に重要だとかそういう基準だけではなく、意外性があるとか、ちょっと面白いとか、自分の専門に関連が深いとか様々な基準がごった煮で入っています。

ちなみに昨年はこんな感じです。


2、縄文から近代まで

①滋賀県米原市朝妻筑摩沖の琵琶湖底「尚江千軒」を水中探査 

最近注目を集めつつある水中考古学ですが、琵琶湖の底に沈んだ集落の様子が明らかになってくるのは非常にワクワクしますね。

尚江千軒は鎌倉時代の正中地震で水没した集落とのことですが、

琵琶湖には、地震などによって沈んだ湖底遺跡が100カ所ほどあるとも言われているそう。

今後の調査成果から目が離せませんね。

②奈良県天理市の櫟本チトセ遺跡で古墳時代の井戸から銅鏡出土

井戸から銅鏡が完全な形で見つかるというのは、いかにも呪術的な印象です。

市教委は「水が枯れないよう祈願したか、井戸の廃棄に際した祭りで使われたのではないか」としている。

とのこと。発掘調査で井戸跡を完全に掘りきることはなかなか難しいですが

他にも類例がみつかると面白いですね。

③群馬県下仁田町馬山の下鎌田遺跡から出土した約7000年前の装飾品「玦状耳飾」について中国や朝鮮半島からの渡来品の可能性があると発表

当初は石英の結晶が集まった「玉髄」とされ、国内産だと思われていたのを、改めて科学的に分析したということ。

蛍光エックス線分析をした結果、石材は鉄をほとんど含まない「透閃石(とうせんせき)ネフライト」と判明。中国や朝鮮半島中部で産出される鉱物という。

再検証に常に晒されるということがいかに重要か、という好例ですね。

④滋賀県近江八幡市の安土城跡でレーザー測量により新たな曲輪を発見

最近は写真にあるような赤色立体地図から当たりをつけて、調査を実施して新たな発見につながる城跡が増えている印象。

山城ブーム到来ですね。

⑤沖縄県嘉手納町の米軍基地で遺跡調査を実施

この記事に注目したのは「戦前」という極めて近い時代の遺構もしっかりと調査対象にしていることが理由です。

調査原因が米軍基地の拡張工事、ということもあり特筆すべき事例と考えたわけです。

遺跡調査の成果が突きつける近代史の事実は迫力があります。

⑥現在のJR大阪駅北側再開発区域「うめきた」で1500体以上の埋葬人骨が出土

江戸時代だと結構近い時代のイメージがありますが、一般的にはそうでもないのでしょうか。

墓地だったところを再開発。

どんなに華やかな、現代的な場所になっても、どこか陰が見えそうですが。

発掘調査で明らかになった歴史をしっかりと明示して土地を利活用して欲しいところですね。

⑦731部隊に関する政府文書が新たに発見

731部隊について、政府はこれまで国会で政府内に「活動詳細の資料は見当たらない」と答弁をしており、

政治的な問題も抱えそうな成果。

臭い物に蓋をするのではなく、しっかりと向き合ってこそ、信頼や信用をえることができると思います。

⑧山形県高畠町の国指定史跡「日向洞窟」近くで、縄文時代草創期前半の竪穴住居跡を発見

調査した愛知学院大の長井謙治准教授(先史考古学)は「わが国の定住生活の起源に迫る上で貴重な史料になる」とする。

縄文時代=定住社会

という図式で説明しがちなので、根拠としてすごく期待できる成果。

⑨福井県美浜町の興道寺廃寺跡周辺の古墳周溝からネコらしき動物の足跡がついた須恵器が出土

ネコ科の動物、というのが野生なのか飼育されていたのか、

動物の関わりは人々の興味関心を惹きつけてやみません。

ところで、猫の足跡がついた土器でも不良品扱いせず、

しかも古墳の周溝からの出土ということは儀式用だった可能性もあるのに

気にしないものなのでしょうか。

⑩熊本大学が小倉藩主細川忠興が駿府城(静岡市)修築に当たり細川家の家臣が守るべき規則を定めた「掟書」を発見したと発表

こういう当時の人のリアルが伝わってくる資料大好きです。

天下普請といって諸大名に分担して作業にあたらせ

それぞれ育った風土も文化も違うもの通しが隣り合って仕事していたら

そらトラブルになりますよね。

禁止されている条項をみれば、逆にトラブルがどういう原因で起こっていたのかも推測できますよね。

よその家の風呂に入ると重罪

ってどういう状況なのでしょうか。

興味は尽きません。

3、こんな時でも歴史ニュース

いかがだったでしょうか。

新聞の一面を飾る様な大きな発見、というものはありませんでしたが

どれも掘り下げていくと面白い記事ばかり選べたかと思います。

コロナ禍にあっても文化財の調査に勤しむ者たちがいて、

それを報道に載せる人たちがいて

こうやって全国にいる歴史好きに届けることができるのですよね。

こんな話題見逃してませんか?とか

うちの地元の大発見はなぜ取り上げないんだ!

とかそんなコメントお待ちしています。


本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

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