第856回 改革はいつも中途半端で腰砕け

1、文化財担当者が格付けされる?

Twitterのタイムライン上でちょっとした話題になっているのを見かけた、

文化庁が新たに埋蔵文化財専門職員にⅠ種とⅡ種を設けるということ。

少し誤解に基づく呟きも散見されましたので、ちょっと詳しくお話するとともに、私見も少し加えたいと思います。

2、まず公式発表にちゃんと目を通しましょう

まずは文化庁のWebサイトでも確認できる

令和2年3月に公開された

「埋蔵文化財専門職員の育成について」という報告書。

こちらをお読みいただけると間違いはないのですが、私の理解できた範囲でお伝えしますと。

現状で一番問題なのは

自治体などで求められる文化財担当者の能力が多種多様なのに対して、公的資格が「学芸員」しかない。

ということに尽きるかと思います。

一般的に学芸員というと、博物館に勤務し、専門的な調査研究を行い、それを元に展示を企画し、教育普及に務める。

ということになるかと思いますが、地方の現場にいる数多くの文化財担当職員は発掘調査の現場監督はもちろん、

そこに至るまでの調整や事務処理も当然自らこなす、ということが多いわけです。

一人しか専門職員がいなければ、建造物も、古文書も、民俗芸能も全てカバーする必要があります。

「地域研究」を極めるということが実態に近いでしょうか。

学校の教育現場も同様の構造ですが、財政的に苦しくなって人員がカットされる一方の公的機関であれば職掌は増えこそすれ、減ることはありませんよね。

そこをまず改善すべき、だと思うのですが、

専門職員ができるだけ専門的な仕事に集中できる環境を整備するにはどうすれば良いのか、という議論をすべきということだと思うのですが

お国の考えることは違うようです。

埋蔵文化財専門職員の資質能力を可視化することは、埋蔵文化財職員の育成方法の策定や職員の意識向上だけでなく、埋蔵文化財行政の専門的な観点での信用の向上、市町村の埋蔵文化財保護体制の整備状況の客観化につながると期待される。

とのこと。まちがってはいないのですが、どうしてもコレジャナイ感が…

3、区分はほんとうにこれでよかったのかな

区分の基準も正直わかりずらいと思うのは私だけではないかと。

ちなみに間違えやすいと思いますが、

Ⅱ種が上級で、Ⅰ種の方が下です。


まずⅠ種になるには3ポイントが必要で、

大学・大学院で考古学を主専攻とし、卒論・修士論文を上程しているか、

ちゃんと専門試験を受けて行政その他の専門職に採用されていればクリアできます。

そこからⅡ種に上がるためには15ポイントが必要で、

論文執筆や発掘調査報告書の編集、行政で各種業務の経験を1年積むなどで加算されていきます。

まあ最大公約数的にはこうするしかないのでしょうが、

行政経験だって、他の一般業務をこなしながら片手間で文化財担当やるのと

1年間専属で発掘調査に携わるのとでは大きな経験値の差があるでしょうし、

素晴らしい研究論文をまとめる能力と埋蔵文化財行政を適切に処理していく能力は決してイコールではないと思います。

しかも、この認定は自己申告制で、

少なくとも今年度はいつものように文化庁から都道府県、市町村にエクセルの自動入力表が送られてくるだけで集計されていました。

これが本当に文化財補助行政の課題解決の糸口になるのでしょうか。

4、完全なる私見です

じゃあ、どうすれば良いのか。

もうちゃんとした国家試験にしてしまえば良いのではないでしょうか。

そもそもなんでもかんでも「埋蔵文化財」を基礎にして考えるのもどうかと思います。

戦後の開発に対応する形で、発掘調査が必要になったから取り急ぎ埋蔵文化財というか考古学専攻の学生を行政に、というスタートから現在の体制になっていることは重々承知していますが

これを脱却する方向性があっても良いのではないでしょうか。

行政における「文化財専門職」、例えば文化財マネージャーでも良いと思うのですが

発掘もできて、古文書も読めて、古建築も見れて

基本的なことは全部できる人を国家資格として認定するとか。

国がちゃんと制度化しないから、先日ご紹介したように民間調査組織が独自に資格制度を設けようと試行錯誤していたり、

専門試験が課されていないのに行政の専門職員になったり、

専門職員として採用されたはずなのに他部署に異動させられてしまったり

専門職採用試験のハードルが高すぎて誰も受験できなかったり

そんなミスマッチがないのではないでしょうか。

文化庁が統一試験をやって、できれば実技もあると良いですね。

国家試験にしてしまう。

そしてその専門職は同業者組合みたいな全国組織を作って情報交換しつつ、

医師会や歯科医師会のように、政治的にものも言えるような立場を持つとか。

もっと言うと専門職員を採用している自治体には特別交付税などで優遇する、という大胆な施策もあっていいと思います。


どんな分野でもその盛衰を決めるのは人だと思います。

若者が魅力を感じなくなったらその業界は衰退していくでしょうし、

今最前線で働いている人たちのためにならない改革をしてもそっぽを向かれて終わりです。

少なくとも行政の末端にいる私には現時点でこの資格制度はあまり有用性を感じません。

今後もこの動きには注視していきたいと思います。


本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

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