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第617回 歴史がどう教えられていくのか

1、思わぬ出会いが転がって

たまたま職場で回覧されていた広報誌

公益財団法人 明るい選挙推進協会

発行の『Voters』No.53号に気になる記事があったのでご紹介します。

最新号はまだアップされていませんが、既刊がPDFで読めるようになっています。

いずれは本号も上げられるのではないかと。

2、若者に求められるモノ

特集として「若者と投票参加」が取り上げられ

識者の投稿があってこれも読み応えがあったのですが

今回は

小川幸司「高等学校地理歴史科の新科目「歴史総合」の意義」

を取り上げます。

小川氏は現在、長野県教育委員会・学びの改革支援課主幹指導主事という肩書きで、

今回行われていた「学習指導要領」の改定にあたり、その方向性を策定する中央教育審議会の社会・公民ワーキンググループの専門委員と

「歴史総合」「世界史探求」の学習指導要領及び解説の作成にかかる協力者を務めた、とのことでした。

まず「学習指導要領」というのは公立学校で教えられる内容を定めたもので、

概ね10年程度で見直しが図られています。

2002年の改定でいわゆる「ゆとり教育」が提唱され

2011年に方向転換されたのもこの「学習指導要領」の改定によって形作られたものでした。

早いものでさらにまた10年になろうとしています。

検討から完全実施まで時間があるので既に報道などによって内容を耳にされた方も多いかと思いますが

道徳の教科化や、小学校への外国語(英語)の導入などが今回の改定です。

小学校では2020年度から完全実施ということで、今年度教科書選定が行われていました。

中学校では2021年度、高校では2020年度からの実施が予定されています。

本稿で取り上げるのは高校の地歴科の部分です。

これまで「日本史A」「世界史A」となっていたものを「歴史総合」、

「日本史B」を「日本史探求」、「世界史B」を「世界史探求」とするらしいです。

日本の若者が自国の近代史を十分学んでいないこともあったのか

(10年以上前に話題になった世界史未履修問題、覚えてますか?)

全ての高校生が日本史と世界史を統合した近現代史を学習することになります。

新科目「歴史総合」では

A)歴史の変化の意義や特色を考察する力

B)歴史事象の比較・つながりを考察する力

C)概念を使いながら多面的に歴史を考察する力

D)歴史的課題について解決を視野に入れて構想し、議論する力

を身につけることを目的にしていると記述されます。

言い換えれば

単に暗記した知識を再現することを求めるのではなく、

①無限の事実の中から事実を選択すること

②事実と事実のあいだを解釈すること

③事実や解釈の意義を考察すること

によって自らが主体的に歴史像を構築するいとなみである、そうです。

まだ抽象的でわかりづらいですね。

小川氏が挙げた具体例は

①ドイツでヒトラー政権が生まれたのはなぜかを生徒に問う。

②ナチスの政策、当時の人々の回想録などから歴史事象を分析してみる。

③当時の世代間の対立や経済的な問題など様々な根拠になりそうな解釈が浮かび上がってくるが、常に根拠を問い直すことで歴史解釈が歴史批評に高まることを目指す。

といったところでしょうか。

小川氏はこのような「歴史総合」の授業が実現すれば、主権者教育の大事な柱になると強調し、過去から現在を捉え直し、未来を構想する力を鍛えていくことができると説いています。

皆様はどう思いますか。

ここまでの狙いを達成するためには、教員の授業研究もかなり求められますし、

生徒たちの中学校までの土台となる知識も求められるのではないでしょうか。

ちなみに中学校の新指導要領での社会科の目標は

社会的な見方・考え方を働かせ,課題を追究したり解決したりする活動を通 して,グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社 会の形成者に必要な公民としての資質・能力の基礎を次のとおり育成すること を目指す。
 (1) 地域や我が国の国土の地理的環境,現代社会の仕組みや働き,地域や我
が国の歴史や伝統と文化を通して社会生活について理解するとともに,様々 な資料や調査活動を通して情報を適切に調べまとめる技能を身に付けるよ うにする。

(2) 社会的事象の特色や相互の関連,意味を多角的に考えたり,社会に見ら れる課題を把握して,その解決に向けて社会への関わり方を選択・判断し たりする力,考えたことや選択・判断したことを適切に表現する力を養う。

(3) 社会的事象について,よりよい社会を考え主体的に問題解決しようとす る態度を養うとともに,多角的な思考や理解を通して,地域社会に対する 誇りと愛情,地域社会の一員としての自覚,我が国の国土と歴史に対する 愛情,我が国の将来を担う国民としての自覚,世界の国々の人々と共に生 きていくことの大切さについての自覚などを養う

という目標が掲げられています。

最近の中学生はかなり高いレベルのものを求められているのだな、と思ってしまいます。

3、学校で何が教えられるのか

いかがだったでしょうか。

教育がどのような効果をもたらしたかを測るのは大変難しく

この新学習指導要領がどのような影響を及ぼしたのかは

10年後に一定の評価が下されることになるのでしょう。

ゆとり教育から揺れ戻しが起きて、知識が重視されるようになり

次は考える力を養っていくことに重点が置かれているのでしょう。

常により良い教育を、という指向性は大事ですが

変更のたびに対応を迫られる現場の教師たちは大変です。

国がどんなに理想を説いたところで、子ども達に直接向き合うのは彼らなのですから。

授業研究が必要ならその時間と心のゆとりを先生にも与えて欲しいと思います。

社会で指導的な立場にいる人ほど考える力を養って欲しいものです。


最後は皮肉になってしまいましたが、本日もお付き合いくださり、ありがとうございました。



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