第340回 聞きなれない言葉が出てくると

1、 ユニークべニューって?

近年「活用」を叫ばれる文化財。

活用のための一手法として数年前から聞くようになった単語に

ユニークべニュー

があります。

これはもともと欧米で盛んだった

「文化財や博物館・美術館等の特別な会場を、会議・レセプション・イベント等に活用する取組」

を指しているようです。

後ほど事例を紹介しますが、聞きなれない単語でもあり、活用事例集を文化庁が作成したと報じられたので、内容を紹介したいと思います。

文化庁HP

2、ガイドブックの構成

このレポートでは、まず2018年6月に文化庁が実施したアンケートの結果がまとめられています。

図版は上記ガイドブックより転載

ここで引用したデータは文化財建造物での実践例ですが、コンサートや伝統芸能公演、展覧会や体験イベントなどが主に行われていることが示されています。

もちろん他の文化財類型、史跡でのコンサートや伝統的建造物群でのアートイベント、

文化的景観でのウォーキングイベントなども一定数あるようですが、

すべてデータの母数(有効回答数)が出されていないので詳細は分かりません。

続いて、詳細な事例報告としては22件が掲載されています。

さらに先進事例として京都では

①公益財団法人 京都文化交流コンベンションビューローでまとめたガイドブックを作成して活用できる文化遺産をまとめて紹介

②京都仏教会と毎日放送が主催する「音舞台」

③ 京都市文化市民局元離宮二条城事務所で実践している民間事業者をコーディネーターとして活用に取り組む手法

の3つの観点から紹介されています。

まずは移転した文化庁のお膝元から、といったところでしょうか。

3、日本全国から珠玉の取り組み事例が

個別事例としていくつか紹介しますが、

取り上げたのはわが町でも実施できそうかどうかを基準に選んでいますので、

他の事例について詳しく知りたい場合はぜひ冒頭の文化庁HPリンクから冊子をダウンロードしてご覧ください。

①日本最古の酒蔵で虫の音を楽しむ兵庫県伊丹市の例

江戸時代に庶民の間で親しまれた「虫聴き」を
現代風にアレンジしたイベント

「鳴く虫と郷町」

の一環として、薄暗くした蔵の中に虫籠を用意し、懐中電灯の明かり で探検したり、耳を澄ましてたたずんだりするということ。

9月の休日3日間に実施 して、延べ474人の来場者があったということです。

これならなんだかうちでもできそう!と思えるステキな取り組みですね。

② 特別天然記念物に指定されている景勝地を楽しむトレイルランニング山口県美祢市 秋吉台カルストTRAILRUN

秋吉台は日本最大のカルスト台地として知られ、その独特の風景を楽しみながら走ることが最大の魅力で、

企画・運営は一般社団法人が実施し、地元企業やスポーツ関連企業からの協賛を得ています。

エイドでの地元特産品の提供や宿泊施設への誘導のために前日にセミナーやイベントを実施するなど交流人口拡大を図っているのがいいですね 。

イベント前後にモニタリング調査をするなど、文化財への配慮も行われているとのことです。

これなんかは規模は全然違いますが、以前のnoteでもご紹介したオルレという形でミヤギでも実践が始まっています。

**③城跡での野外レストラン **
佐賀県 特別史跡名護屋城跡

有田焼創業400年プロジェクトとして企画されたもの。

民間事業者が主催となって「場所 」「器」「食」という総合的に地域の歴史的背景を体験することができるイベント 。

実際に体験された個人の参加記録が非常に臨場感があったのでご覧になってみてください。

文化財担当者の現地確認を綿密に行い、史跡に影響がでないことを徹底していたそうです。

これは民間事業者の大きなバックアップというか事業目的合致したので文化財が協力できたというか、非常に稀なケースと言えそうです。

逆に自治体、というか文化財をPRしたい側の人間としてはこのような形で使いたくなるような空間づくりを目指していくべきだろうということでご紹介しました。

4、キャスティングボードを握るのはだれか

ガイドブックには、文化財をユニークべニューとして活用するメリットや、注意点も取り上げられています。

基本的には文化財は国民共有の財産であることは疑いようのないことですので、脆弱だからとか棄損の恐れがあるからと言って仕舞い込んで特定少数の目にしか触れないのはいかがなものかとは思います。

一方で活用のために文化財本来の価値を損ねることがあってはいけないので厳格なルールを定めて運用する必要があることも事実です。

現状では社会の要請によって文化財行政側が変化を求められているという局面にあるということになります。

流されてすべて受け入れるのも将来に禍根を残しますし、時代に逆らって立場が悪くなるのもマイナスだと思いますので絶妙なバランス感覚でトップも現場も踏みとどまっているといったところでしょうか。

現場に関して言えば、自治体の長の考え方や、担当者個人の考え方で大きな差が出始めているのも肌で感じています。

担当者側の立場からいうと、文化財担当者の
側ももっと民間事業者と意見交換をする必要があるのではないかと思います。

活用のための発想は彼らに叶わないのは間違いないのですから。

積極的に関わっていくからこそ、譲れない一線を死守できるのではないかと思います。

主導権を誰が握るのかということは大事。

#毎日更新 #歴史 #エッセイ #文化財の活用

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