第673回 国会会議録でみる文化財 その4

1、第5回国会②

国会会議録検索システム

を使って「文化財」という言葉が国会でどう語られてきたのかを

少しずつみていくこのコーナー。

ちなみに前回はこちら。

2、第5回国会 参議院 文部委員会文化小委員会 第1号 昭和24年4月19日

前回に引き続き、第5回国会で議論されている文化財保護法制定前夜のあたりを見ていきます。

イタリアのダヴィンチの作品がフランスに渡ったとしたらフランスの国宝になるだろうか。

と疑問を投げかけたのは山本勇三。

『路傍の石』という小説を書いた山本有三です。

国宝とはなんぞや、という本質が参議院で本格的に議論されているのを見るとなんだかドキドキしますね。

例えば外国ではどうしているのか、と続けて質問する山本議員に対して

専門員として出席していた東洋史学者の岩村忍は

西洋の場合は教会で所有する文化財は生きた宗教として法律に寄らなくても守られ、

個人の収集家の資料は博物館に寄託するという体制が維持てきていると回答します。

結論は保留のまま次の話題に。

文化財保護法の制定に伴って文化庁の前身である文化財保護委員会が設置されることになるのですが、そのあり方について。

岩間正男議員が諮問機関である審議会と行政機関としての委員会の位置づけについて質問します。

国民共有の財産である文化財の価値を決める審議会に公選の必要があるのではないか、とも問います。

岩間正男は宮城県出身の共産党に所属する議員で、歌人としても名を残しています。

回答したのは東京大学美術史の竹内敏雄専門員。

審議会の委員はあくまでも専門家であるべきで、国民の意思という意味では

人選に衆議院・参議院両院の同意を経ているということで読み取るべきだと主張します。

岩間議員の質問の趣旨としては、文化財を守るためには力のある組織にすべきであり、力とはすなわち、必要な予算を確保することができる組織にするということ、そのためには国民の意思が十分に反映されていることが担保されなくてはいけない、ということになるようです。

共産党系の議員からこのような趣旨の意見が出されていることは重く受け止めなくてはいけないでしょう。

3、第5回国会 衆議院 文部委員会 第9号 昭和24年4月20日

続いて翌日の衆議院の文部委員会では

38の請願と12の陳情が取り上げられています。

その中で

森戸事件で名高い、森戸辰男が紹介者となっている

史料館建設について

をご紹介します。

当時の世相を反映してか

民間記録による実証的な研究を進めるため、国立の史料館が必要だ

という内容になっています。

回答した文部省の担当者(茅誠司東大教授)は

すでに昭和23年度に予算を確保して史料調査を行なっており、

収集した資料は2年間で8万点にのぼる、と回答します。

すでに施設費も計上しており、

貴重な史料が一日も早く一般研究者の学術研究に資し得るようにすることが、われわれの最も望むところでございます。

と述べています。

さらには

中央に史料館を置きました上におきましては、さらに地方にも分館を設置いたしまして、できるならば、たとえば新潟とか、岐阜、高知、鹿兒島というようなところにも、数縣にこの分館を置きたいというような考えでおりまする。

と付言していることが目につきます。

これは本当に実現するのか?全国数県でなぜその県が選ばれたのか?

疑問は尽きませんが質疑は記録されていないので次に進みます。

といいつつまた長くなったので次回に続きます。

4、必要なコスト

いかがだったでしょうか。

つまみ食い的にご紹介している状態ですが

それでも現在的な課題がすでに議論がなされていることがよくわかります。

そして、感じるのがこれほど多くの請願や陳情がなされているのだということです。

もちろん現在の国会でも同様です。

報道に登場するのはあくまでも話題になったもの

センセーショナルなものがどうしても中心となっていますが

少し調べてみると国会議員のセンセイ方もしっかりお仕事されているのだな

という印象を受けます。

いかにも活発な議論がなされていないとしても

法律に則った手続きを踏んで認められることが必要な場合がたくさんあります。

民主主義の必要なコスト

と地方の末端ではありますが行政内部にいる立場としては

理解しています。

このペースで国会会議録を見て行っても

現代まで追いつくのは到底無理かもしれませんが

興味の続く限り取り組んでいこうかと思います。


さて、本日も最後まで読んでくださった方に向けて宣伝。

3月1日に宮城県松島町で、講演会をメインとした歴史イベントを実施します。

入場は無料で、近代の地域史について、最先端の成果を目の当たりにすることができますよ。

100名が上限の会場に事前申し込みだけで70人を超える応募がありました。

ですが、いつもの常連さんだけではなく、

このようなイベントに参加したことのない方にもぜひ足を運んでいただいて

感想などをオフ会で語り合いたいと思いますので、

少しでも興味を持たれた方はこのnoteにコメントでもいいですし、

TwitterのDMでも、Facebookのメッセージでも構いませんので

ご連絡いただけると幸いです。

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