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第787回 すれ違いつつも何かを残せるか

1、読書記録122

ついに文化庁が推し進める「日本遺産」が100件揃いましたね。

私が眺めるTwitterのタイムラインでは「日本遺産」という制度に批判的な意見が多いですが、

タイミングよく職場に購読していた

月刊文化財 682号
特集 日本遺産のこれから

という冊子が届きました。

もちろん出版は最後の登録前なので

昨年度までの情報に基づいて編集されていますが、

いよいよ本格化する事業となるのか、

ここから急速に過去のものとなっていくかの分水嶺にあることがよくわかる特集でした。

2、申請時ですでにすれ違い

最初に紹介する論説は

下村彰男「日本遺産の制度と認定」

日本遺産審査委員会の委員も務める造園と観光の専門家です。

実際に日本遺産認定にかかる審査に携わった側の人間として

申請書から透けて見える課題を簡潔にまとめています。

曰く、

地域の歴史に関する史実や文化財を列記するだけではストーリーを組み立てたことにはならない。
キャッチコピーのようにタイトル付することだけでは構築したことにはならない。

確かにその通りなんですが、

ただ現在まで認定されている日本遺産をみるとどれもキャッチーなタイトルがついていますよね。

そして、

認定後の活性化計画の熟度が低い。原因はストーリー構築が甘いからのビジョンが不明確、方策も踏み込んでいない。

とのこと。

これも確かにおっしゃる通りなんですが、個人的にはそもそもの制度設計的に問題があるのではないかと思います。

よくも悪くも硬直化した、行政内でも話をかけて保守的な文化財関係部署が中心となって

関係各機関とうまく連携しつつ、自主運営できるほどの財源を確立する、

なんてすぐにできることじゃないですよ。

どうしてもそういう流れにしたいのならば、技術的助言とか体制構築の取り組みに直接的に支援するなどあってもいいのではないでしょうか。

結局元から観光やまちづくり部局と連携できていたところは

「日本遺産」という格好の宣伝文句と資金を経て、文化遺産を活かした取り組みもできるのでしょう。

3、着地点も異なり

デービッド・アトキンソン「日本遺産に求めること」

はもっと辛辣です。

「日本遺産」の本質はインフラ投資にある

と冒頭から断言します。

日本人だけでは、もはや日本文化を守ることが難しくなってきている

だからこそ、解説を背景知識のない外国人にもわかるような形にすべきであるし、

快適な空間であることを追求すべきであると主張します。

これまでに認定された地域ではインフラ投資よりも情報発信が重視され、

テレビ番組での紹介、ネット広告の配信、シンポジウムの開催などが目立つが、この動きは大変危険である

と指摘していますが、

これは認定地域の怠慢だけではなく、文化庁の補助事業制度に問題もあって、

ソフト事業の方がやりやすい、という状態にあることも忘れてはいけないと思います。

美味しくないレストランがどんなに広告を打っても、その人気が長続きしないのと同じだ

と言いますが、補助金はレストランの各店舗に直接支給されるわけではなく、

飲食店組合に分配され、その地域の「名物」としての型に沿うことが求められている、と例えることができるのではないでしょうか。

4、希望は微かにしか見えない

いかがだったでしょうか。

日本遺産の認定を審査する、いわば中の人の意見が掲載されていました。

もちろんおっしゃることの大部分は最もなことで

雲の上から御託を述べるだけでは民の暮らしはよくならない、とでも言いましょうか

あるべき論を唱えるなら、どうしてそうなっていないかをもっと掘り下げて欲しかったところです。

本来はそれをすべきなのは制度設計をした文化庁なのかもしれませんが。

ちょうど我が町の日本遺産関連事業も

どうにかしてインフラ整備できないか、という調整を行っていたばかりだったので

タイムリーな特集でした。


本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。



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