第723回 考古学は空前の人材不足
1、職場にご恵送シリーズ54
今回ご紹介するのは
文化庁の「埋蔵文化財発掘調査体制等の整備充実に関する調査研究委員会」が取りまとめ、令和2年3月31日付けで公表した
『埋蔵文化財専門職員の育成について』(報告)
—資質能力の段階区分に応じた人材育成の在り方—
というレポート。
業界にとっては、けっこう衝撃的な内容ですが、まだあまり話題になっていないようです。
2、人材不足が喫緊の課題
考古学者、というと大学の研究室にいるイメージを持たれる方が多いと思いますが、
実は我が国においては地方公共団体に「学芸員」とか「文化財調査員」という肩書で配属されている方が圧倒的に多いのです。
周知の埋蔵文化財包蔵地(遺跡)内で土木工事が行われる場合、事前に発掘調査を行うのは主にこの行政にいる考古学者ということになります。
この仕組みのおかげで、我が国は世界に類を見ないほど膨大な考古学的な情報を蓄積してきたのです。
ところが、この体制にも綻びが見えてきたということ。
全国の大学で、考古学の専任教員が在籍しているところにアンケートを依頼した結果、
回答のあった63大学のうち3分の1で、発掘調査を学生たちに実習させることができていないということが浮き彫りになったのです。
一方で、零細な自治体では採用した後に育てる、という余裕もないため、
即戦力とするために受験の要件として
「発掘調査経験を有すること」
なんて無茶なことを課してしまうのです。
私自身もその口ですが、採用は「学芸員」で
博物館学や博物館への実習によって資格がとれるので
発掘調査経験は問われていないんです。
まあ逆に「学芸員」とは名ばかりで発掘調査ばかりやってきた学生時代ですが。
普通は「学芸員」ということと「発掘調査担当能力」はイコールではないんですよね。
そこで文化庁は、専門職員の資格能力の可視化を目論んでいるのです。
大きく分けて基礎的な能力を有しているⅠ種と応用能力のあるⅡ種。
自治体に採用される際に、専門科目が課されているかということで区分されていますが、
基本的には点数を積み上げていく方式のようです。
報告書作成とか専門論文とか、調整や活用にかかる業務の担当歴、研修を受けたかどうかなど満遍なく文化財関連業務をこなして
初めてⅡ種と認められるようです。
これを定めた研究委員会のメンバーには自治体の専門職の方もいらっしゃるので
実際に現場を知っている方の意見も反映されたものになっていると言えるのではないでしょうか。
3、国よりも同業者に認められたい
ここまで紹介してきてなんですが、
個人的な印象としましては、やっぱり机上の空論感が拭えません。
本報告書の巻末には資料集として
各地で行われている担当職員の調査技術向上の取り組みが紹介されています。
例えば群馬県は県の外郭団体である埋蔵文化財調査事業団が主体となって
6日間もみっちり研修を行っていますし、
千葉や東京では近隣の自治体が合同で研修会を実施している例も紹介されています。
福岡県では年に10回、定期的に研修会を設けているようですし
鹿児島県ではかつて、一般職で採用された担当者が、半年もの間埋蔵文化財センターへ出向して研修した時代もあったそうです。
このように県や自治体協議会等が主体となって
技術レベルの底上げを行っていくことこそ急務ではないでしょうか。
小さな自治体に専門職員を育成する余裕がないなら尚更、広域行政組織がそのような体制づくりを行なっていく、その支援を国がすべきなのではないでしょうか。
前にも書いたことがありますが、文化財専門職員の同業者ギルドみたいなものができればいいのに、と妄想してます。
そして、非常勤で不安定な立場にいる仲間にも救いの手を差し伸べられるような団体があれば、とも思います。
本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
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