第666回 全てを手に入れてなお求めるものは

1、漢詩と詩人その7

Twitterでもシェアしましたが、新型肺炎に関連して

日本から中国への支援物資に漢詩が付されていたという話題がありました。

「山川異域,風月同天」(住む場所は異なっていても、風月の営みは同じ空の下でつながっている)

文化での交流は素晴らしいですね。

この記事に勇気をもらってさらに漢詩を学んでいこうという気持ちに拍車がかかる思いです。

さて今回も『文選』に収録されている作品と詩人を紹介していきます。

2、守成?の後継者

今回紹介するのは曹丕。

前回取り上げた曹植の兄にあたります。

曹操の後継者として権力を握ると後漢最後の献帝から禅定を受け、

魏の初代皇帝となります。

文武両道に優れた才を持っていたと評されますが、

一族を警戒して遠ざけ、弟曹植との確執は前回ご紹介しました。

軍事面では三度にわたって呉に侵攻するも大敗を繰り返し、

40歳という若さで崩御してしまいます。

文学の面では『文選』にも「典論論文」という文学論が採録され、漢詩も5首が収められるなど評価されているようです。

3、人身を極めた者の詩

芙蓉池の作

輦に乗りて夜に行遊し (手車に乗って深夜に遊び)

逍遥して西園に歩む  (のんびりと西園を歩む)


双渠は相い漑灌し (二つの水路から水が流れ込み)

嘉木は通川を繞る (奇木が川のほとりをめぐっている)

卑枝 羽蓋を払い (低く垂れ下がった枝が車の笠を払い)

脩条 蒼天を摩す (長い枝は天をこすらんばかりに伸びている)


驚風 輪轂を扶け (吹き抜ける風は車輪を後押しし)

飛鳥 我が前に翔る (飛ぶ鳥は私の前を翔ける)


丹霞 明月を挾み (赤く染まる雲は 明るい月を写し)

華星 雲間より出づ (輝く星が雲の間から姿を表す)
上天 光采を垂れ (大空から光が差し)

五色 一に何ぞ鮮やかなる (その色はなんと鮮やかなことか)
寿命 松喬に非ざれば(赤松子や王子喬のように長寿でないので)

誰か能く神仙を得ん (誰が仙人の境地に立つことができるだろうか)


遨遊して心意を快くし (思うままに遊び、心を喜ばし)

己を保ちて百年を終えん (心身の養生によって100年の生を終えようではないか)

4、漢詩を通じて人物像に深みが

皇帝という最高位に到達した人間が

神秘的な景観を前に、仙人のように自由に生きることを欲する。

それだけで絵になる構図ですね。

しかも結句で

せめて養生をして人としての天寿を全うしよう

と述べているのがなんとも味わい深いです。

実際は若くして亡くなったことを思うと…

後継者争いでライバルだった曹植に対する扱いとか

敵であった袁煕の妻、甄氏を側室にしたこととか、

どうしても狷介なイメージを持ってしまいますが

この漢詩をみると一代の英傑であった父曹操の跡を嗣ぐ

という重圧に苦労して仙人に憧れる気持ちもあったのか、と

また違ったイメージが膨らんできますね。


さて今回もPRタイムとして宣伝させていただきます。

来る3月1日にイベントをやります。

私自身は司会進行がメインになりそうですが、

5分くらいの触り部分の説明と展示解説では登場予定です。

すでに60名を超える申し込みをいただいておりますが、

マックスで100名程度は入るハコなので

ご興味のある方はぜひご連絡ください。

このnoteにコメントでもいいですし、

TwitterでもFacebookでもなんでも連絡いただけると嬉しいです。

さらにお時間ある方は講演会終了後オフ会に参加しませんか?

まったりご飯かお酒を味わいながら歴史の話ができればと思います。

連絡お待ちしております。

本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

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