第715回 海の世界はかくも豊潤だ

1、読書記録109

本日は珍しくマンガ、しかも10年も前に完結した作品をご紹介します。

川原正敏が月刊少年マガジンに1998年3月号から2010年8月号まで連載していた作品です。

前から気になっていたのですが、

たまたま上司と村上水軍の話になって

小説を貸したんですよ。

和田竜の『村上水軍の娘』

この作品はぜひ実写映画化して欲しいと切望するほどお気に入りの小説なのですが、

そのお返しにと借り受けたのが読み始めたきっかけでした。

本の貸し借りができる関係ですごく新鮮です。

単行本の合計発行部数が1000万部を超えるというヒット作ですからご存知の方も多いかとは思いますが、

多少のネタバレを含むので、真っ新でお読みになりたい場合はご遠慮いただいた方がいいと思います。

一応、核心や結末はぼかして書きますね。

2、あり得そうで遠い、そんな魅力的な世界

舞台は一度世界が滅んで、帆船が海戦の中心になる中世くらいまで文明が進んだくらいの時代背景。

火薬や火砲、暗視スコープや無線機、はたまたロボット兵器まで登場する「魔道の兵器」は前文明の遺産として恐れられている、というような設定です。

このあたりが「ナウシカ」に代表されるジャパニメーションSFのスタンダードですんなり受け入れられます。

主人公は「海の一族」の船長の一人であるファン・ガンマ・ビゼン。

いつも飄々として動じない立ち居振る舞いで、

自らペテン師だと称して憚らないつかみどころのない人物です。

操舵術や天候を読む力、先見性などは群を抜いていて

ここまで完璧すぎると嫌味になりそうですが、意外と受け入れられるのが不思議です。

そう、もう一つの大きなテーマは海戦の描写。

作者自身が後書きで

誰にも気づかれなくてもいい

というほど細かくこだわって描かれた迫真の表現は

私自身よくわからないままで十分感じるものがありました。

一方で盟友となって陸での戦いを指揮する王カザル・シェイ・ロンの采配は

三国志その他のマンガで読んだものと親近感があってわかりやすく感じます。

それだけ海戦というのは縁遠いものにはイメージしづらいものなのでしょう。

それはそうと「海の一族」というワードだけでなんだかワクワクしますよね。

古くは「海の民」と呼ばれた紀元前二千年紀に古代エジプトを苦しめた海洋民族から始まって

古代の地中海世界を牛耳っていたフェニキア人や

中世のバイキングなど陸の世界とは違ったルールで生きている社会ってイメージ。

日本でも中世の海賊はもとより、近世近代でも水上生活に近いような暮らしをしていた人々がいたのでしょう。

交易などで繋がりはありつつも、互いに必要以上に干渉しない、

違った世界が隣り合っている感覚はもう現代では失われてしまったように感じます。

3、世界はまだまだ味わい尽くせない

いかがだったでしょうか。

全45巻というなかなかのボリュームですが、一気に読み通してしまいました。

なんでもっと早く触れなかったんだ、というコンテンツはよくありますよね。

同じ作者の『陸奥圓明流外伝 修羅の刻』という作品も剣豪を軸に様々な時代を描くマンガとのことで俄然興味が湧いてきました。

まだまだ世界には汲めども尽くせぬ物語に満ちていますね。

そういえば3月末までWebで無料公開していた横山光輝『三国志』全60巻、完走できた方はどれくらいいたのでしょうか?

私は赤壁までが精一杯でした…


本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

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