第1383回 あの時気になったけど手に取らなかった本たち

1、読書記録318

久しぶりに本の紹介

岡ノ谷一夫・梯久美子・牧原出2019『本棚から読む平成史』河出書房新社

平成史を考える必要性があったので手に取りましたが、想像以上に多くの刺激を受けました。

2、どう選書したか

読売新聞誌上で「平成の名著」を50冊選んでみる、という連載があり、その書籍化とのこと。

まず、ほぼ30年間あった平成が10年ごとに区切られます。

生物心理学者である岡ノ谷氏、ノンフィクション作家である梯氏、政治学者である牧原氏の3者が対談形式でそれぞれの時代を振り返りながらどうしてこの著書が選ばれたのかを語っていくスタイル。

その後見開き1ページを使って一冊の本が紹介されていきます。

平成30年間を同時代史として実感を持ってきた私自身に照らし合わせても

刺激的な対談でした。

ベストセラーほどあえて避けてしまうひねくれ癖と、偏った読書傾向から、ここに挙げられている本の大部分は未読でしたが、第1章の対談で梯氏が明瞭に語っているこの言葉で力を得ることができました。

世の中にはこういう名著があるということを、タイトルと著者名だけでも頭に入れておくことが大事だと思います。
名著は、時代の中で描かれるものだから、その存在を知るだけでも、歴史や時代の雰囲気を感じることができたりする。

素敵な考え方ですね。

3、未来と過去へ広がる読書体験

ここで挙げられている本で実際に読んでみようと、個人的なブックリストに入れたものは10冊くらいありましたが、そのうちのいくつかをご紹介したいと思います。

まずは 石内都『ひろしま』

広島の原爆で被爆した人たちの遺品を撮影した写真集。

戦争の、核爆弾の悲惨さを伝える、という文脈で見せられる写真はどれもモノクロで、美しさを感じる余裕なんてありませんでした。

一方この写真集からは、とても綺麗な色で、デザインもオシャレなものとして我々の前に現れます。

現代に生きる我々と変わらない「人間」がそこにいたことがより伝わるのか

遠いと思っていた戦争が一気に近くなるのだ、と本書を推薦した梯氏が述べています。

そして平成という時代は本を買う、という行為も大きな変革の波にさらされました。

アマゾンが日本語のサイトを解説したのが平成12年。

電子書籍の利用が増えるとともに、書店の減少が止まるところを知りません。


新刊書の書店って、行くとなんだかきらきらしているんですよね。
私が手に取るのを待っていてくれる本がある。

と鼎談している三人は書店との幸福な時間を懐かしく語っています。

初めて自分で買った文庫本を覚えていますか?

という話題が気になって、私も記憶を辿ってみましたが、全く覚えていないんです。

三島由紀夫の『金閣寺』だったような気もしますが、なぜか本棚から見つからず、

奥付けを確認して古かったのが平成14年、2002年、平成14年の平野啓一郎『日蝕』とフィツジェラルド『グレート・ギャッツビー』でした。

「新潮文庫の100冊」という帯も残っていて、2冊読んだら必ずもらえる携帯ストラップ、というキャンペーンをやっていたのに応募した形跡がありませんでした。

18歳の大学生だった当時の私の気持ちはもう遠くなってしまいました。

吉村仁『素数ゼミの謎』

を紹介した岡ノ谷氏は

科学がすべての現象に完璧な説明を与えるものではないこと、しかし科学による説明は、現象を記述する妥当性が高いことを本書はわかりやすく解説している。

と評しています。

続いて、村松秀『論文捏造』を紹介して

捏造を防ぐのは市民の科学理解力だ。専門化・細分化した科学を咀嚼して市民と行政に伝える科学解説者が、今後は必要であろう。

と締めくくっています。

これはどちらも歴史学にもすっかり当てはまるものですよね。

文献学にせよ、考古学にせよ研究成果で全ての歴史的事象を説明できるわけではありませんが、妥当性が高い説明をすることができます。

歴史事実の歪曲やそれに基づく扇動的な言説に抗するためには、市民の歴史理解力向上を図る必要があります。高度に専門化している歴史学を咀嚼して市民と行政を繋ぐ役割が求められています。

本書を通じて平成がどんな時代だったか、を一足飛びに捉えることは叶いませんでしたが、自分の来し方を振り返り、進むべき方向を見定めるきっかけには十二分にはなったように思います。

本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。



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