第1308回 殿様を凌ぐ豪商の精神

1、本間な文化

本日は昨日に引き続き、酒田市の話題。

酒田市といえば、本間家。

日本最大の地主と呼ばれるほど隆盛を極め、昨日の記事でも触れた

日本遺産「荒波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間(北前船寄港地・船主集落)」

との関わりもある豪商でもあり、多角的な経営で財を成した一族です。

地元に伝わっている伝承では奥州藤原氏の一族とともにやってきた「酒田三十六人衆」に連なるとのこと。

酒井忠勝が庄内藩主として入部してきた際に家臣になることを勧められても

「お上の世話にならなくても生活に困っていない」と豪語し、

「本間様には及びもないが、せめてなりたや殿様に」とまで謳われた人たちです。

2、質実剛健と大正ロマン

今回訪れたのは本間美術館と清遠閣、鶴舞園。

国指定名勝に指定されている鶴舞園は本間家4代、光道が築造した庭園で、その名は庄内藩主酒井忠器が名付けたとされます。

冬季の失業対策として庭園整備工事を起こしたと伝わり、北前船がバラックとして船に積んできた各地の石が配されるなど

本間家の地域貢献意識の高さと活動範囲の広さを端的に示すものとなっているようです。

あいにくの天気で鳥海山は見えませんでしたが、雨に濡れて艶っぽい風情がありました

園内にある清遠閣は藩主の休息所として建てられましたが、解説してくれた方によると質素を旨とする本間家らしい質実剛健な造作とのこと。

釘隠しには葵の造形
茶室手前に配される障壁画

その後、大正十四年に後の昭和天皇が宿泊された頃には増築されていたとのこと。

大正時代の調度品で喫茶ができる!
大正ロマンあふれる造作!

戦後、市に管理が移管されて後は、かなり自由に活用されていたようで、ここでも本間家の懐の深さが偲ばれます。

こちらには本間家ゆかりの軸物や文書が展示してあります。

そして美術館。

こちらも藩主から授与されたものや、幅広い交友関係から本間家に渡ったものが展示されていますが、どれも一級品揃いです。

個人的にはやはり陶磁器類に目が行ってしまいます。

青磁牡丹唐草文大花瓶や高麗青磁象嵌平茶碗など舶来の品々に加え、古瀬戸のゆがみのある平碗が金継ぎまでして伝承されていました。

千利休好みの名物なのでしょうが、どれも中世の遺跡で小破片でしか出土しないものが、江戸時代に完形品で重宝されていたのが興味深いですね。

3、文化を愛する地域

本間家の別邸と名物が豊富に収蔵されている美術館だけで大満足なのですが、

実は本間家の本邸も見学できるのです。

隣接する鶴岡市には庄内藩主の庭園や重代の宝物を展示する致道博物館もありますので、

また庄内を訪れたい気持ちが溢れています。

それにしても、藩主家とそれを凌ぐほどの財を有した豪商が作った庭園がどちらも現在まで伝わっている、というのもすごいことですね。

彼の地の文化を愛護していく精神は時を超えて受け継がれていっているのだ、としみじみ感じます。

本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。


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