第663回 とんだ流れ矢が飛んできた
1、そんなわけないやろ
ちょっと見過ごせない記事がありました。
借りている資料に油性ペンで書き込みを入れる、ということ自体に
驚きを隠せませんが、地元記者の言だというこの部分
2010年に史料をデータベース化した際、担当学芸員の専門がたまたま考古学だったのが不幸でした。遺跡などから出土した石器にマーカーで番号を振る考古学の現場と、まったく同じ感覚で信心具に直接記入してしまったんです。
考古学が専門だと資料に直接番号を振るのが当然みたいな書き方がされています。
ここは全力で反論していきたいと思います。
2、注記は確かにします
考古学の出土遺物には直接番号を付すことは確かです。
これを「注記」と呼びます。
愛媛県の公益財団法人 松山市文化スポーツ財団でも
同じく京都府埋蔵文化財調査研究センターでも
宮城県蔵王町でも
出土した時に細かい文字で書かれているのがわかるかと思います。
白いラッカーを細い面相筆で書くのは熟練の技が必要で、
出土遺物全点に行うので、気が遠くなる作業です。
効率化のため、インクを飛ばす注記専用マシンもあるくらいです。
なぜ行うのか。
それは考古学においては「出土地点」が重要になるからです。
どんなに完全な形の大きな土器でもどの遺跡のどの地層が出土したか分からなければ、資料的価値はガクッと下がります。
逆に小さな破片でも竪穴住居の床を貼った土の下の層から出土したことがわかれば
その建物が建てられた年代を知る手がかりになったりするのですから。
もちろん注記は目立たないところに書くのが基本ですし、
消えてしまわないよう上からニスを塗りますが、
除光液で落とすことも可能です。
文化財資料に何かを加えるときは可逆性、つまり何かあったときは元に戻せるようにする、という考え方は基本中の基本です。
出土遺物は土器や陶磁器ばかりではありません。
脆弱な木製品もありますし、サビに覆われた金属製品もあります。
それぞれの資料的特性に合わせて「注記」、つまり出土状況がわかる記号を付すのは当たり前なので
考古学が専門だからと言って、
借り物の資料の、大事な部分に、不可逆性のインクで注記を行うなんて
ありえないといっていいでしょう。
3、ちょっとクールダウン
熱くなってちょっと攻撃的な文章になってしまって申し訳ありません。
記事だけ読むと実際に行ったのはすでに退職した職員のようですので
厳密でなかった時代に教育を受けた方だったのかもしれませんし、
この記事だけでは記者さんが単に勉強不足で認識が甘いのか
取材を受けた当局が間違った認識をしているのかはわかりませんが
文面だけを読んで考古学者が資料を雑に扱っているという間違った認識をされるのが我慢できませんでしたので本日はこの記事を投稿させていただきました。
まあ、かくいう自分の職場だって厳密な資料の取り扱いができているかは心許ないですし、職場内の専門職以外の方達に正しい認識が共有されているかというと、あやしいかもしれません。
他山の石として、襟を正していかないとですね。
さて、気持ちを切り替えて、今回もPRタイムとして宣伝させていただきます。
来る3月1日にイベントをやります。
宮城県松島町で歴史講演会。
テーマは近代。
当地域の研究では第一人者といっても過言ではないお二方の
最新研究も交えて報告させていただきます。
きっと後悔はさせませんので、お時間の合う方はぜひご来場ください。
すでに60名を超える申し込みをいただいておりますが、
マックスで100名程度は入るハコなので
ご興味のある方はぜひご連絡ください。
このnoteにコメントでもいいですし、
TwitterでもFacebookでもなんでも連絡いただけると嬉しいです。
さらにお時間ある方は講演会終了後オフ会に参加しませんか?
まったりご飯かお酒を味わいながら歴史の話ができればと思います。
連絡お待ちしております。
本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
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