第970回 文化財を守る仕組みはこう議論されてきた

1、国会会議録検索システム

を使って「文化財」という言葉が国会でどう語られてきたのかを

戦後の第一回国会から少しずつみてきたこのコーナー。

ちなみに前回はこちら。

2、第13回国会 参議院 文部委員会 第54号 昭和27年7月28日

前回同様、文化財保護委員会(現在の文化庁の前身)の機構改革について。

5名の委員を3名に減らそうと提案してきましたが、ここにきて1名常勤、4名非常勤にしようという案が提出されました。

三人の委員で全部常勤で行つた場合と、それから五人の委員で、委員長だけが有給で、他の委員は無給とするということは、結局実費弁償で行くということでありまするが、この実費弁償で行く、従来大体御出席になつております、これは委員会の場合と、委員会以外で随時御出席になつておりますが、この平均値をとりますというと、大体委員が全部五人の委員で今まで通りの俸給制で行つた場合に比べますというと、二人分だけ節約になるということでありまし結局委員が三人で有給制になるのと、委員が五人で、委員長だけが有給であとは実費弁償とするというのとほぼ同じ経費になるのであります。

削減しようと思っていた経費は確保できる、というのが趣旨です。

やはりこれには反発があり、

日本社会党の矢嶋三義が

果して行政委員会としての運営がうまく行くのか

と直接的に批判しています。

 五人いれば五人全部を非常勤の無給にしたらいいのではないか、それでも浮くのではないか

と言われかねないとも。

事務局長の森田孝は、常勤の委員長に負担は多くなるが本質には変わりはなく、逆に全員非常勤になってしまえばそれは行政委員会でなく審議会だ、と反論します。

続けて矢嶋は、同様の委員会は他にもあるのか、と質問し

法制局の担当者から、統計委員会や労働関係の調停委員会の例を出され、

さらに特別職の勤務体系が勤務時間の拘束がないことなどの説明を受けます。

それでも矢嶋は引き下がらず、実際には事務局長の裁量で仕事が進んでいき、

行政委員会の立法精神とはかけ離れていくのではないか、と危惧しています。

質問は岩間正男議員に引き継がれ、その妥協的な結論に疑問を投げかけます。

政府側としては衆議院議員の若林義孝が

文化財保護の大事業を遂行するには二、三十年の間荒れに荒れた今日でありますから、ほかは簡素化するような理由があつても、文化財保護委員会を縮小するなどとは以てのほかだという感じを持つのでありますけれども、国家の置かれております今を勘案して見ましたときに、やはり他の行政簡素化の線をも考慮の中に入れて行くというごの基本線も認めなければならんという建前から、現状と照し合せ、最大限のところの線を打ち出した。

と吐露すると

また矢嶋議員から

この議題に関連して資料を何度も刷ったことの方が無駄な経費だとジョークを入れながら、ナンセンスだと批判を続けます。

ジョークの後に(笑声)という記録が議事録にちゃんと残っているのがなかなかシュールですね。

しかもその後、質問を受けた森田事務局長が

何でしたか、ちよつと言つて下さい、聞いていませんでしたから。

と素直に返してしまうのが驚きです。

流石に矢嶋議員も

質問をよく聞いておいて下さい。余計なことをしてないで下さい。議員に二度喋らせるということは何ですよ。

と怒りを隠せないご様子。

それでも同じ日本社会党の相馬助治議員が本質的な質問をします。

行政委員会として文化財保護委員会が独立してからとその前とで

どのような長所短所があったのか、

また5名の委員の「精勤ぶりは如何であつたか」ということ。

前半については一部速記が止められているからか、回答は不明確です。

後半については行政管理庁の監査部からA判定をもらっていることを挙げ、極めて成績良好と捉えているとの回答。

ここで質疑は打ち切られ、相馬議員は賛成、矢嶋議員は反対で討論が始まります。

岩間議員は

単にこの名目的な社会的地位とかそれから個々に掲げてある文化に関する高い識見というような形で実際には仕事に当ることのできない人を選ぶんでなくて、もつと真剣に体を打込んで行けるような人を十分に集めて、予算の面においても大きく拡張する。この点をももう少し国民運動として展開するというような点で解決しなければ、現在のような再軍備費の大負担によつて文化面が大きくどんどん圧迫されているという現状におきましては、これを保有することは非常に困難だ。

とまで述べて反対します。

結果、採決が行われ、賛成多数で可決されます。

3、そして長官へ

いかがだったでしょうか。

この常勤となる委員長がのちに文化庁長官となっていくのでしょうね。

文化財保護のありかたが現在の姿となるまでまだまだかかりそうですが、

このように活発な議論が行われて、修正をしながら時代に合わせて現代に至っていることを忘れない様にしていきたいものです。

本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

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