第1219回 出土品は誰のもの?
父と娘の対話 第八夜
ねぇ、パパ、土器とか出てきたらさ、見つけた人のものになるの?
落とし物だよ。
落とし物?
怜香は落とし物を拾ったらどうする?
うーん、交番に届ける?
そう!出土品も昔の人の落とし物だから警察に届けるのだ。
うっそー!発掘でいっぱい出てきたもの全部交番に届けるの?
そこはお役所の建前だから、実際は書類だけでやりとりするの。
なぁんだ。
そして落とし物は落とし主が現れなかったらどうするか知ってる?
というか遺跡から出てきたものなんだから、もう落とし主生きてないでしょ。
だから六ヶ月経ったら見つけた人のものになる。
そしたら発掘した人のものってこと?
でも土地の所有者の権利もあるから、それは事前に
「出土品の所有権は廃棄します」
って書類にサインしてもらうの。
でたーずるいお役所仕事。
まあそう言いなさんな。トラブルは未然に防いでおこうという配慮だよ。
でもさ、大判小判とかでたら、って思うと「放棄したくない!」っていう人もいるよね。
まぁね。金銭的価値がある出土品は少ないけどね。
こないだネットオークションにも土器が出品されているっていってたじゃん。
一応法律上は代価を払って国が買い取る制度もあるんだけど、適用されたことってないんじゃないかな。
そんな法律でいいの?
そう、法律は「伝家の宝刀」。抜くことなく力を発揮するのが一番いい、っていう考え方が根本にあるからね。
そういうもんかな。
ちょっと話は戻るけど、警察署で六ヶ月経過したあと、県がそれを「文化財である」と認定することが必要なんだ。
流石にそこは実物をみて認定するんだよね?
いやこれも書類上でのやりとり。
えーなんだか大人の世界ってドライだね。
そうかな。そこはメリハリじゃないかな。
発掘調査は基本的に市町村が行うことになっているんだけど
発掘調査を指揮する能力がある専門職員がいない、小さな自治体もあるから
そいうときは県職員が応援に来る。
県庁にも専門家がいるのね。
実はこれは都道府県によって違うんだよ。
どういうこと?
さっき言ってた「文化財を認定する」書類や、そもそも発掘調査をするまでに取り交わされる書類は市町村と県がやるけど
発掘調査だけは別の組織でやっている県もあるんだよ。
なにそれ、発掘調査団みたいな?
遠からずとも近からず、という感じかな。
なんとか財団という別組織を作ってそこが請け負うことにしている県もあるんだよ。
同じ国の中でもそんなに違うのね。
たまたまこの間みたニュースにあったんだけど南米のペルーでは
ペルーでは古代遺物がたびたび発見されるため、掘削作業を行う全ての公共事業会社は社内に考古学部門を置いている
というように、会社が考古部門を持っていたりもするらしい。
ペルーとかたくさん遺跡ありそうだもんね。
日本のやり方がベストだとは思わないけれども、法律の解釈を微妙に時代に合わせて変えながら現場が辻褄を合わせて、それなりのものを作る、っていうのはまさに日本的、って気がしてる。
ところでさ、話は戻るけど、出土遺物が自分のものだって主張できないからって話していたけど、
昔から先祖代々住んでいる土地に埋まっているものとか、何百年も続いているお寺の境内から出たものはどうするの?本人じゃなくても子孫とか、組織としては権利が継承されているような気がするんだけど。
うーん。痛いところを突いてきたね。これまた正解かどうかは分からないけど、うまく運用しているよ、とだけは伝えておくね。
うわーずるいオトナでた〜
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